ハロウィンパーティー?

数十分後。
最初にいた場所に戻ってきたのは、狼男と吸血鬼の衣装を身につけたふたりだ。

「……あいつは、一体何を考えているんだ」

怒りを含んだ声で七弥ななやは言う。

二十歳はたちにもなって、これはないだろ!」

律儀にも渡された狼男の衣装を身につけた七弥ななやは、もふっとした尻尾を握った。
七弥ななやの衣装は半ズボンのつなぎ風衣装で、狼耳はピンで髪の毛につけられるタイプのようだ。

「…倉世くらせ、お前も一枚噛んでるのか!?」
「いや、衣装までは知らなかったが……」

本当に何も知らなかった倉世くらせも、自分に渡された黒衣を身につけている。

「…やりたい事は、大体想像ができるな」
「俺も、ここまでくればわかるぞ?」

七弥ななやは呆れた口調で、倉世くらせの額を指で弾いた。
痛む額をおさえた倉世くらせは、小さく笑う。

「いててっ……まぁ、今日はハロウィンなのだから楽しめばいいだろう?な?」
「…ふん。今回は怒らないでやろう…ハロウィンに免じて、な」

七弥ななやはまだ納得いっていない様子であるが、ハロウィンだからと衣装の件に関しては許す事にしたらしい。

「しかし、その言い出しっぺの白季しらきは何処へ行ったんだ?」

首をかしげ呟いた七弥ななやは、姿の見えない白季しらきをキョロキョロと探す。
隣に立つ倉世くらせ七弥ななやと一緒に辺りを探し、白季の名を呼んだ。

「いないな……おーい、白季しらき?」
「…何?」

倉世くらせの呼びかけに答えた白季しらきだった、が。

「まったく、僕の知らない間にオプションを足すんだからさ…には、困ったものだよね」

苦笑混じりに文句を言う白季しらきの姿は――先ほど見た白と藤色のワンピースの他に、黒いネコ耳の付いたヘッドドレスと腰の部分に巻いた藤色の大きなリボンに黒いネコの尻尾が付けられていた。

「…それ、魔女っ子じゃなかったんだな」

白季しらきの姿に、倉世くらせは驚きながら呟く。

「そもそも、その…お前の衣装にオプションを付けたヤツは誰なんだ?」
「えー、それは約束だから言えないんだけどね……」

倉世くらせの問いに、困ったように答えた白季しらきはため息をついた。
そして、辺りを見回した白季しらき倉世くらせ達に訊ねる。

「…あれ?そういえば、あのピンクは?」
「ピンク、って……音瑠ねるはまだだが?」

周囲を見回し、呆れた口調の七弥ななやが答えた。

ちなみに、ピンクでわかってしまった七弥ななやも同罪であるが。

「…誰が『ピンク』ですの?」

不満そうに現れた『ピンク』こと音瑠ねるだ。
どうやら自分が『ピンク』と呼ばれていたのを聞いていたらしい。

音瑠ねる白季しらき七弥ななやの顔をじっと見るが――白季しらきの方は悪びれた様子もなく笑っており、七弥ななやの方は気まずく目をそらした。

「…まぁ、いいですけど。それより、この衣装…どうですか?」

ため息をついた後、音瑠ねるは自分の着ている衣装を倉世くらせに見せる。
音瑠ねるが着ている衣装は、頭と手足が出たカボチャの着ぐるみだ。
一応、着ぐるみの下にはオレンジ色の全身タイツを着て、頭にはカボチャのへた部分が付いていた。

「ど、どうって……可愛い、と思うぞ?」

音瑠ねるの問いかけに、倉世くらせは答えに困ったが当たり障りのないよう答える。

「本当ですか!!嬉しいです」

倉世くらせの言葉に、嬉しそうに音瑠ねるは微笑んだ。
完全に、白季しらきの言葉を信じきっているようだった。

それに気づいた白季しらきは、密かに心の中で笑う。

(彼女は単純だよね。面白いから、しばらく黙っていようかな?)

密かに笑っていても、表情には出てしまうもの……倉世くらせ白季しらきの微かな表情の変化に気づき、呆れた様子で息をついた。

(あいつ、音瑠ねるに何か言ったな……面白いからと、しばらく観察するつもりだ)

さすがに付き合いが長い分、表情だけで何を考えているのかわかったらしい。

(後で何を言ったのか、聞いてみるか。白季しらきに)




「えっと…みんな着替えたみたいだし、企画の説明をするよ」

にっこりと微笑んだ白季しらきは、どこからか出した紙を広げて説明しはじめる。

「まず、みんなにはお菓子を集めてきてもらうよ。ちなみにお菓子を集めているのは僕達だけじゃなく、他の子供達もいるかもだから…くれぐれも邪魔しないようにね」
「それぐらい、カンペを用意せずに覚えろ……」

七弥ななやのツッコミに、白季しらきは笑いながら無視する。

「それと、人ならぬ者もいるかもしれないよ」
「…出てくる物語を間違えていないだろうな?」

何か思い当たる節でもあったのか、倉世くらせは遠い目をして呟くと七弥ななやも頷いて同意した。
ふたりが何を思い当たったのかに気づいた白季しらきは、少しむっとした様子で言う。

「言っておくけど、何処かの世界の吸血鬼や夢魔、見た目では年齢がわからない魔術士とか出てこないからね。どちらかというと、くにゃくにゃしたひんやりしたの?」
「もはや、想像すらできませんわ……」

この世界にも、一応魔物モンスターはいる。
体長が2m以上ある大蛇や見た目可愛い小動物みたいな羽根の生えたネズミなど、様々な魔物モンスターはいるのだが――物語の流れ上、出てくるのか出てこないのかわからない立ち位置にいる存在だ。

「…まぁ、とある国の王女も倒した大蛇クラスはいないから安心してよ」

まったく想像できていない様子の三人に、白季しらきはわかりやすい例え話をした。

「大蛇なんか出たら、そこそこ危なくなくて…?」

ハロウィンのお祭り騒ぎの中、大蛇が現れたら…と想像した音瑠ねるがふと呟いた。
音瑠ねるの言葉に、白季しらきは手を上下に振り答える。

「あー…それはそうだけど、小さいのはいるんじゃないかな?が散歩させる、って言ってたから」
「確か、大蛇は小さくても音瑠ねるくらいの体長だったような……」

倉世くらせは首をかしげ、小声で呟いた。

「それよりも…主催というか、企んだのはお前の言うか?」
「………あと、ハロウィンだからイタズラするつもりでお菓子を集めてくるんだよ?集め終わったら、みんなで食べようね。それじゃ、僕は先に行くね」

倉世くらせの疑問をきれいさっぱり無視した白季しらきは、衣装が入れられていた段ボール箱を持って行ってしまった。

「け、結局無視か。まぁ、いずれ誰かはわかるだろ…」

ガクリと肩を落とした倉世くらせはため息をつくと、七弥ななや音瑠ねるに声をかける。

「とりあえず…まずは何処へ向かう?」

訊ねられた七弥ななや音瑠ねるは、考え込むように首を傾げた。

「…何処、と言われてもだな」
「これといって、宛があるわけではないですし…まずは、私の母の所へ行きますか?」

音瑠ねるの提案に、倉世くらせ七弥ななやは頷いて答える。

「そうだな……」
「他に行く場所も、思いつかないしな…」

仮装をした三人は、音瑠ねるの母親がいる場所へと向かった。




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