冬の飾り付け

「なーんか、大変だったんだねぇ…ところで、近衛の副長って――えっと、確か渡会わたらいって子だよね?」

先日あった出来事を聞いていた白季しらきは、頬杖をつきながら気になったらしい事を訊いた。
訊ねた相手は、もちろん倉世くらせである。
彼は少しぐったりとしているのだが、これは除雪作業のせいだけでなく…隊長命令で副長である渡会わたらい七弥ななやの3人で石像を作っていたからだ。

椅子の背もたれにすがった倉世くらせは、白季しらきの問いかけに頷く。

「あぁ、そうだが…白季しらき、副長を知ってるのか?」
「いや…知ってるっていうか、先日夕馬ゆうまが教えてくれたんだよね。北西部の演習場周辺が光り輝いてるって……」

白季しらき曰く、倉世くらせ達が王都に戻って数時間後くらい経った夕暮れ…何故か、北西部の演習場付近がキラキラと光り輝いていたそうだ。
それに気づいた夕馬ゆうまが近衛の一部が行っていた事を思いだし、近衛隊隊長に訊きに行ったらしい。

そこで渡会わたらいが、茅羽耶ちはや王女に電飾などを渡していた事が発覚……怒った隊長が渡会わたらいを近衛の演習場へ連れて出ると、首から下を大きな雪玉に埋めたという。
夕馬ゆうまは面白そうだからと、渡会わたらいが雪だるまにされるところを見守っていたそうだ。

「近衛って、この時期に渡会わたらい副長を雪玉に埋める決まりでもあるの?しかも、光るバケツまで被らされてたそうだけど…」

素朴な疑問を口にした白季しらきに、倉世くらせは何も答えられなかった。
――そんな決まりはない、と何故か言いきれなかったからだ……

前に、近衛の先輩が言っていた――幼い頃から副長は、冬になるといつも茅羽耶ちはや殿下に雪だるまにされていると。
茅羽耶ちはや王女からは、毎年恒例の行事だと写真を見せられていた。

だから、倉世くらせ渡会わたらいが何かミスをして毎年雪だるまにされているのだと考えていたのだ。
……でも、まさか王女だけでなく隊長までも渡会わたらいを雪だるまにしているのは知らなかったわけである。

考えた末に、倉世くらせは曖昧に笑って流すと話題を変える為に口を開いた。

「…そういえば、白季しらき達は『聖夜祭クリスマス』をやらないのか?」

白季しらき夕馬ゆうま紫麻しあさとか好きそうな行事イベントなのに、それをやっている気配がないので不思議に思っていたのだ。
すると、白季しらきは首をかしげて答える。

「え、うーん…昔はみんなで食事をしながら、贈り物プレゼント交換をしていたらしいけど――」

元々、〈神の血族古代種〉である白季しらき達は『聖夜祭クリスマス』を知らなかったらしい……
人間ひとがこの世界に現れたという太古の昔に、こういった行事イベントがあるのだと教えてもらったそうだ。
せっかく教えられた行事イベントだったので、人間ひとに倣って食事をした後に贈り物プレゼント交換をやって楽しんでいたらしい。
――だが、白季しらきの言葉を聞く限り今はやっていないようだ。

「ほら…せつ月って12番目の月だからさ、どうしてもあの時の事・・・・・を思い出しちゃうんだよね……」

そう言った白季しらきは、悲しげに目を伏せた。
理由わけ倉世くらせはわかっていた――旧暦の時代旧世界の、12番目の月に世界が半分破壊されたからだと。
……だから、[#ruby=彼ら_"古代種"達#]は心の底から楽しむ事ができないのだろう。

その事実に気づいた倉世くらせは話題を変えようとしたとはいえ、悲しい記憶を思い出させてしまって申し訳ない気持ちになってしまった。
配慮に欠けていた、と反省をしている倉世くらせ白季しらきはにっこりと微笑みを浮かべる。

「…でもさ、先日の木に電飾をつけたのは綺麗だったよ。夕馬ゆうまが教えてくれたから、みんなで見たんだ…まさか、倉世くらせ達が行ってるとは思ってなかったけどね」

この国にいる〈神の血族古代種〉や〈狭間の者〉達とで、茅羽耶ちはや王女の飾り付けたものを遠くらからだが眺めていたのだと白季しらきは言う。

(遠くから眺めていたのなら、白季しらき達は気づかなかっただろうな……まさか、あそこにあったモミの木数十本全てに飾り付けられていたのを――)

楽しそうな様子の白季しらきに、倉世くらせはその事実を心の中に留め置く事にした。
何はともあれ、彼ら古代種達を楽しませる事ができたのならよかったのかもしれないと考え直し自分を納得させた倉世くらせは大きく頷いて微笑んだ。



「あ、そうだ…せっかく倉世くらせ達が大変な思いまでして飾り付けてきてくれたわけだし、僕達からも何かささやかなお礼をしないとね」

何か思いついたらしい白季しらきは手を打つと、そんな事を提案した。

だが、さすがに何も知らない人間ひとを食事会に招待するのは問題がある……自分達古代種の存在は、秘匿されなければならないからだ。
なので、食事会には倉世くらせだけを招待して《闇空の柩》のメンバーだけで楽しむ計画をたてた。

その提案に、難攻不落な塑亜そあも納得してくれたので珠雨しゅうと共に用意をして食事会は開催されたわけである。
終始楽しい雰囲気で食事会は終わり、贈り物プレゼントである『空の景色の写真集』を倉世くらせに渡して喜んでもらったのだ。

倉世くらせだけが大変だったわけでない事を理解している《闇空の柩》は、後日――茅羽耶ちはや王女にスノードームを、渡会わたらいに雪だるま型の暖房機器を、七弥ななやに着ると暖かくなるシャツをそれぞれ贈った。
……差出人は、あの白いひげで赤い服を着た伝説の人物の名前が書かれていたとか。
それらは夜のうちにそれぞれに届けられたらしく、朝目を覚ました3人は2日遅れの贈り物プレゼントをとても喜んだそうだ。




[冬の飾り付け 終]
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