白い季節のご奉仕

「すげーな。この量……」

連れて行かれた先でセネトは、部屋に置かれたパンドーロと空のプレゼント箱を見た。

「なんというか、パンドーロで家が建ちそうだぜ……」
「建てないでくださいね。箱にパンドーロを入れて、粉糖の入った袋を一緒に入れてください。あぁ、粉糖はこの小袋に入れて一緒に箱へ入れてください」

セネトの手に、パンドーロを入れる箱と粉糖を入れる小袋の束を渡した。
受け取った…もとい受け取らされたセネトは渡されたものと神官、大量に置かれたパンドーロを順番に見る。

「あの、おれひとりでこの量をやらないといけないのか?」
「はい、もちろんです。ざっと2000個くらいですか?それをやっていただきます。あぁ、他の部屋でも作業をしていますので安心ください」

セネトの疑問に、口早に説明した神官は「他に何か?」と首をかしげた。
作業台に箱と小袋の束を置いたセネトは、大量のパンドーロと粉糖の山を見つつ訊ねる。

「他の部屋でもひとり作業ってなぁ。どうなんだよ」
「いえ、他の部屋では5人が作業していますよ。ちなみにイールトアス大司祭様の命ですので、頑張ってください」

答えた神官は時間だから、と頭を下げて部屋を出ていってしまった。
残されたのはセネトと、大量のパンドーロと粉糖の山…そして、プレゼント箱と小袋の山だ。

「こ…わいな。明らかに嫌がらせだろ、が」

呆然としたセネトは何故か、ここで死を覚悟した。
そして、とりあえず粉糖の山からスプーン一杯を取ると小袋に詰める。

(終わるかな?この作業……)

珍しくため息をもらし、黙々と作業を始めるのだった。

――この後、彼は二度とクリスマスお菓子の包装を手伝うとは言わなかったそうだ。


***


赫月あかつき24日の早朝。
セネトは粉糖まみれになったまま、祈りの間の長椅子に座っていた。
寝ていない上、かなりのスピードで箱詰めをやり遂げた為にぐったりしている。

「おはようございます。よく眠れましたか…?」

そこに声をかけてきたのは、すべてを仕組んだイールトアス大司祭だ。
ゆっくりと、声のした方を向いたセネトは今にも死にそうな声で答えた。

「寝れるわけないだろ。粉糖にまみれて、楽しい箱詰め作業をしたさ……」
「そうですか。お疲れさまです、楽しんでいただけたのなら本当によかった。きっと、子供達も喜んでくれるでしょう」

イールトアス大司祭は、にこやかに続ける。

「だが次に、俺の管轄する地区で何か破壊する事があったら…本当の地獄を見せてやる」
「…………」

何故か、得体も知れない恐怖でセネトは何度も頷いた。
満足したように笑ったイールトアス大司祭は、セネトに声をかける。

「疲れているでしょうけど、お風呂に入ってきなさい。子供達はもうすぐ来ますよ」
「…へいへい。入ってきます」

ふらふらと立ち上がったセネトは、シスターに促されるままお風呂場へ向かった。
向かう途中、セネトは心の中で笑う。

(風呂に入っている間、寝そうだ……いや、風呂から出たら寝させてもらおう)

ふらふらなセネトは、もはや寝る気満々だ。
そんなセネトの後ろ姿を見つめイールトアス大司祭は、満足げに笑った。

(出てきたら、しっかりプレゼント渡しもしてもらおう)

まだまだセネトを使う気満々のイールトアス大司祭は、他の神官やシスターに指示してプレゼントを並べて置いていく。

「セネトに休みは与えない気満々ですね……」

そんなイールトアス大司祭の様子を、正面入口の辺りから眺めていたクリストフはため息をついた。
自分も少しは手伝おうと、クリストフもプレゼント箱を並べる作業わはじめる。

――その後、風呂上がりのセネトを連行してきた神官ふたりがプレゼント渡しの際の注意事項を説明し、子供達にプレゼントを渡す時間となった。

もちろん、セネトは眠気を隠し微笑んでプレゼントを渡していたが、少しテンションはおかしかった為か子供達の親に不審がられてしまう。

「…たーく、不審がるなー。おれだって、頑張ってるんだぞー」

休憩時間を貰ったセネトは、祭壇の陰でぐったりと座り込んだ。

「頑張ったのはわかりますが、完全に空回りですね。セネト、そのまま少し仮眠をとりなさい。また徹夜になるのだから」

セネトの代わりに子供達にプレゼントを渡しているクリストフは、苦笑して言った。
その言葉に、セネトはゆっくりと床に倒れ込んだ。

「まだゆっくり寝れねーのかよ。というか、夜は子供も寝るだろうが……」
「親が変わりに貰いに来るんですよ。サプライズとか、そういう感じで」

プレゼントを子供に渡したクリストフは、合間に自分のケープをセネトにかけてあげる。
セネトは顔を少し上げ――

「サンキュー…まぁ、喜んでくれれば…何でもいいけど…な」

そのまま、バタリと倒れ動かなくなった。
小さく寝息をたてているので、生きてはいるようだ。

「あー、もう限界だったか……」

様子を見に来たイールトアス大司祭は、倒れ込み眠るセネトに目をやり呟いた。

「まぁ、ご奉仕という形で頑張ってくれたから…今回は、これで良しとするか」
「昨晩、セネトは頑張ってましたからね。それに、本当は一日手伝わせたら休ませる気だったのでしょう?レムエル」

密かにセネトがパンドーロの箱詰めしているところを見ていたクリストフは、イールトアス大司祭に確認するように訊ねる。
肩をすくめてイールトアス大司祭は、笑いながら答えた。

「ん、まぁ…今回は構わないがな。ついでにお礼を、と」

眠っているセネトの傍に、イールトアス大司祭はプレゼントを静かに置く。
それは、セネトが箱詰めしたものと同じパンドーロの箱だ…もちろん、他の神官が箱詰めしたものであるが。

「いつの間にか、日も落ちましたから……セネトにとって、良いサプライズになるでしょうね」

イールトアス大司祭の優しさに、クリストフは微笑む。

夜遅くにプレゼントを受け取りに来る親は、24日から25日にかけた夜に我が子に内緒で貰ってきてパーティーなどの用意をする事はよくあるのだ。
それに似ているかもな、とクリストフは思った。
同じ事を思ったらしいイールトアス大司祭は、苦笑して「そういうやつになるな」と呟いた。


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