白い季節のご奉仕
約3時間後、無事にアルノタウム西方大神殿へと着いたセネトとクリストフが乗る馬車。
ふたりが馬車を降りると、目の前には真っ白で大きなな神殿がそびえ立っていた。
「アルノタウム西方大神殿…おれは初めて来たけど、大きいな」
目の前の大神殿を上から下を見つめセネトは言う。
「いつも行く、といったら小さい神殿や聖堂だからな……」
「まぁ、あまり来る機会はないでしょうね。アルノタウムの西部地区の神殿・聖堂、墓地を管理しているのが、この西方大神殿なんですよ」
興味深そうに大神殿を眺めているセネトに、クリストフは説明した。
ちなみにセネトが少しだけ?壊したジスカ・レイファーナ大神官が管理しているゼネス村の聖堂は、テセリアハイト西方大神殿が管轄しているものだ。
遠回しにクリストフはそれをセネトに伝えたつもりだったのだが、肝心のセネトはあまり気にしてない様子である。
「で、おれ達は何をすればいいんだ?クリストフ」
「はぁ、とりあえず大神殿に入りましょうか……」
ため息をついたクリストフは、大神殿へ向けて歩き始めた。
なんでため息をついたのかわからず首をかしげたセネトも、クリストフを追いかけるように大神殿へ向かうのだった。
大神殿の中はパイプオルガンの音が響いており、空気が清らかでとても静かだ。
そんな中、神官やシスター達が慌ただしく動き回っていた。
クリストフは忙しそうな神官やシスターの中から、自分と同年代くらいの青年に声をかける。
「すみません、イールトアス大司祭はどちらに?」
「ぁ、はい…イールトアス大司祭様なら清めの間にいらっしゃいますよ」
神官の青年はにこやかに答えると、頭を下げて仕事に戻っていった。
「清めの間って、何処か知ってるのか?」
神官の青年にイールトアス大司祭の居場所を聞いたが、その場所は何処にあるのか聞かなかったクリストフにセネトは不思議そうに訊ねる。
首を少しかしげたクリストフは、廊下の左側方向を顎で指して答えた。
「あぁ、清めの間ですか?そこの廊下を少し行くとありますよ」
「そうなのか…クリストフ、ここに詳しいんだな」
教えられた左側を見たセネトは、クリストフと共にそちらへ向かう。
窓から沈みかけた夕日の光が入り、廊下をうっすらとオレンジ色に染めていた。
詳しい場所を知らないセネトはクリストフの少し後ろを歩き、突き当たりの扉の前で立ち止まる。
「ここが『清めの間』か…?」
セネトは辺りを見回しながら訊ねた。
頷いて答えたクリストフが、扉をノックする。
「…どうぞ、お入りなさい」
優しそうな若い男の声がし、クリストフはゆっくりと扉を開けた。
『清めの間』と呼ばれる部屋の床は、水で満たされているようだ。
奥の壁伝いに水が流れ、溜められる形になっている祭壇を満たしているようだ。
床の水も祭壇から流れ溢れたものらしい。
その祭壇の前に、金髪の聖職者の青年が立っていた。
どうやら青年は祈りを捧げているようで、振り向かず声をかけてくる。
「迷える者よ、どうされましたか?」
青年はどうやら一般の人がやって来たと思ったらしい。
その証拠に、自分の傍へ来るように促していた。
何と声をかけたらいいのか困ったセネトは、クリストフの方に目を向ける。
「まったく…」と呟いたクリストフは、呆れたように青年へ声をかけた。
「自分で呼んでおいて、忘れてるんですか?イールトアス大司祭殿」
「あぁ、クリストフと『破壊魔』……ごほん。早かったですね」
クリストフの声に振り返ったイールトアス大司祭は一瞬だけ素が出そうになったらしく、咳払いしてから大司祭らしく丁寧に優しく言う。
「申し訳ありません。祈りの時間でしたので、お二方をお迎えできず……」
「おい、何かスルーされたが…『破壊魔』って何だよ?まさか、おれの事か!?」
申し訳なさそうに頭を下げるイールトアス大司祭に、クリストフは頭を横にふり「大丈夫ですよ」と答えた。
だが、セネトは違うところに引っかかってしまったようだ。
それに関して言ったイールトアス大司祭もクリストフも触れずにスルーしたので、セネトは抗議の声をあげたらしい。
「何でおれが『破壊魔』と呼ばれないといけ……?」
「……あれだけ壊せば、言われるだろうが」
聞き取れないくらい小さな声で、イールトアス大司祭は答えた。
セネトは一瞬びっくりして大司祭を見たが、当のイールトアス大司祭はにっこりと何事もなかったようにセネトの方を見ている。
(気のせい、か?)
首をかしげたセネトは自分が聞き間違えたのかもしれない、と考え頷いていた。
すべてを知るクリストフだけは、頭をおさえ呆れるしかできなかった……
結局『破壊魔』発言の真相を聞けなかったセネトは、ひとり考え込んだ。
(いや、まさか…あの大司祭が言い始めたわけじゃないだろうし。しかし、誰だよ。あぁ、また変なあだ名が――)
いつか変なあだ名を考えているだろう人物を探しださなければ、という結論に至ったセネトは気分を変えるように背筋を伸ばす。
「よし、いつか締め上げてやる!」
「…やめなさい」
場所が場所なので、クリストフはセネトの頭を叩 いた。
ちなみに、ふたりが今いる場所は大神殿の『祈りの間』である。
イールトアス大司祭は先ほどまで『清めの間』にいたので服が濡れてしまい、着替えに戻ってしまったのだ。
その間、待つように言われたのが今いる『祈りの間』だった。
ふたりは長椅子に腰掛け待っているのだが、忙しなく動き回る神官やシスター達を見ていたセネトはぽつりと呟く。
「そういえば、小さい時クリスマスに神殿へ行ってシスターからプレゼント貰ったな……あのお菓子が美味しくて好きだった」
「あー…確かに美味しいですよね。そうそう、各神殿・聖堂でお菓子が違うんですよ。知ってましたか?」
頷いたクリストフは、セネトの方に目を向けて言った。
オラトリオ教団は毎年赫月 24から25日の二日間、大神殿や神殿・聖堂に来た子供達に手作りお菓子のプレゼントを渡している。
地域や場所によってお菓子が違う為、全国を回りたがる子供も多いとか――
「あぁ、あれは全部回ってみる価値あると思うぞ。だけど、親父に『ダメだ』と言われてできなかった……連れもダメだって言われてたし。お前もそうだろう?」
昔、「全部回りたい」と駄々をこねた事を思い出したらしいセネトは残念そうにうなだれた。
…だが、クリストフは反対に笑いながら答える。
「そうですね…僕も駄々こねて父達を困らせましたよ。でも一日口を聞かない方法を使ったら、色々と連れて行ってくれましたよ?」
「つまり、お前は全種類食べたんだな……この、裏切り者!」
それを聞いたセネトは、悔しそうに頬を膨らます。
「というか、親甘過ぎだろ!」
「うーん…甘いんでしょうかね?ちなみに、一番こだわって作られているのはテセリアハイト東方大神殿ですよ」
セネトの様子が面白くて仕方がないクリストフは、お菓子が一番美味しかった場所を教えた。
その情報を聞いたセネトは、機嫌を直す。
「そっか…今から行ってこようかな?」
ちなみに、だが…オラトリオ教団の渡しているプレゼントが貰える年齢は0~15歳までであり、現在17歳のセネトは貰えない。
一体どうするつもりなのだろうか、と疑問に思ったクリストフであるがあえて聞かずに流した。
どうせ今年のクリスマスは、このアルノタウム西方大神殿から出られないのだから……
しばらくして、イールトアス大司祭が着替えて戻ってきた。
「お待たせして、申し訳ありません」
「いや、大丈夫だけどな。それよりも――」
遅くなった事を謝罪するイールトアス大司祭に、首を横にふったセネトはわくわくした様子で言葉を続ける。
「ここ、アルノタウム西方大神殿のお菓子は何だ?」
「は?あぁ、ここは『パンドーロ』ですよ。もう作り終えているので、後は箱詰め作業だけになります」
突然お菓子は何かと聞かれたイールトアス大司祭は、思わず目を点にさせたがすぐにこやかに答えた。
だが、イールトアス大司祭は左手を密かに動かしクリストフを呼ぶ。
呼ばれたクリストフはイールトアス大司祭が言いたい事を察して、あえて気づかないフリをした。
(…言いたい事はわかりますよ。『コイツは何考えてるんだ?』でしょうね)
対してイールトアス大司祭はにこやかに微笑んでいるのだが、心の中では文句を言っている。
(何故、クリストフ は来ないんだ、文句を一言くらい聞けってんだ)
(パンドーロか…どんなお菓子なんだろうか?食べた事ないから、楽しみだな~)
そんな事になっているとは知らないセネトだけが、楽しそうに笑っていた。
***
ふたりが馬車を降りると、目の前には真っ白で大きなな神殿がそびえ立っていた。
「アルノタウム西方大神殿…おれは初めて来たけど、大きいな」
目の前の大神殿を上から下を見つめセネトは言う。
「いつも行く、といったら小さい神殿や聖堂だからな……」
「まぁ、あまり来る機会はないでしょうね。アルノタウムの西部地区の神殿・聖堂、墓地を管理しているのが、この西方大神殿なんですよ」
興味深そうに大神殿を眺めているセネトに、クリストフは説明した。
ちなみにセネトが少しだけ?壊したジスカ・レイファーナ大神官が管理しているゼネス村の聖堂は、テセリアハイト西方大神殿が管轄しているものだ。
遠回しにクリストフはそれをセネトに伝えたつもりだったのだが、肝心のセネトはあまり気にしてない様子である。
「で、おれ達は何をすればいいんだ?クリストフ」
「はぁ、とりあえず大神殿に入りましょうか……」
ため息をついたクリストフは、大神殿へ向けて歩き始めた。
なんでため息をついたのかわからず首をかしげたセネトも、クリストフを追いかけるように大神殿へ向かうのだった。
大神殿の中はパイプオルガンの音が響いており、空気が清らかでとても静かだ。
そんな中、神官やシスター達が慌ただしく動き回っていた。
クリストフは忙しそうな神官やシスターの中から、自分と同年代くらいの青年に声をかける。
「すみません、イールトアス大司祭はどちらに?」
「ぁ、はい…イールトアス大司祭様なら清めの間にいらっしゃいますよ」
神官の青年はにこやかに答えると、頭を下げて仕事に戻っていった。
「清めの間って、何処か知ってるのか?」
神官の青年にイールトアス大司祭の居場所を聞いたが、その場所は何処にあるのか聞かなかったクリストフにセネトは不思議そうに訊ねる。
首を少しかしげたクリストフは、廊下の左側方向を顎で指して答えた。
「あぁ、清めの間ですか?そこの廊下を少し行くとありますよ」
「そうなのか…クリストフ、ここに詳しいんだな」
教えられた左側を見たセネトは、クリストフと共にそちらへ向かう。
窓から沈みかけた夕日の光が入り、廊下をうっすらとオレンジ色に染めていた。
詳しい場所を知らないセネトはクリストフの少し後ろを歩き、突き当たりの扉の前で立ち止まる。
「ここが『清めの間』か…?」
セネトは辺りを見回しながら訊ねた。
頷いて答えたクリストフが、扉をノックする。
「…どうぞ、お入りなさい」
優しそうな若い男の声がし、クリストフはゆっくりと扉を開けた。
『清めの間』と呼ばれる部屋の床は、水で満たされているようだ。
奥の壁伝いに水が流れ、溜められる形になっている祭壇を満たしているようだ。
床の水も祭壇から流れ溢れたものらしい。
その祭壇の前に、金髪の聖職者の青年が立っていた。
どうやら青年は祈りを捧げているようで、振り向かず声をかけてくる。
「迷える者よ、どうされましたか?」
青年はどうやら一般の人がやって来たと思ったらしい。
その証拠に、自分の傍へ来るように促していた。
何と声をかけたらいいのか困ったセネトは、クリストフの方に目を向ける。
「まったく…」と呟いたクリストフは、呆れたように青年へ声をかけた。
「自分で呼んでおいて、忘れてるんですか?イールトアス大司祭殿」
「あぁ、クリストフと『破壊魔』……ごほん。早かったですね」
クリストフの声に振り返ったイールトアス大司祭は一瞬だけ素が出そうになったらしく、咳払いしてから大司祭らしく丁寧に優しく言う。
「申し訳ありません。祈りの時間でしたので、お二方をお迎えできず……」
「おい、何かスルーされたが…『破壊魔』って何だよ?まさか、おれの事か!?」
申し訳なさそうに頭を下げるイールトアス大司祭に、クリストフは頭を横にふり「大丈夫ですよ」と答えた。
だが、セネトは違うところに引っかかってしまったようだ。
それに関して言ったイールトアス大司祭もクリストフも触れずにスルーしたので、セネトは抗議の声をあげたらしい。
「何でおれが『破壊魔』と呼ばれないといけ……?」
「……あれだけ壊せば、言われるだろうが」
聞き取れないくらい小さな声で、イールトアス大司祭は答えた。
セネトは一瞬びっくりして大司祭を見たが、当のイールトアス大司祭はにっこりと何事もなかったようにセネトの方を見ている。
(気のせい、か?)
首をかしげたセネトは自分が聞き間違えたのかもしれない、と考え頷いていた。
すべてを知るクリストフだけは、頭をおさえ呆れるしかできなかった……
結局『破壊魔』発言の真相を聞けなかったセネトは、ひとり考え込んだ。
(いや、まさか…あの大司祭が言い始めたわけじゃないだろうし。しかし、誰だよ。あぁ、また変なあだ名が――)
いつか変なあだ名を考えているだろう人物を探しださなければ、という結論に至ったセネトは気分を変えるように背筋を伸ばす。
「よし、いつか締め上げてやる!」
「…やめなさい」
場所が場所なので、クリストフはセネトの頭を
ちなみに、ふたりが今いる場所は大神殿の『祈りの間』である。
イールトアス大司祭は先ほどまで『清めの間』にいたので服が濡れてしまい、着替えに戻ってしまったのだ。
その間、待つように言われたのが今いる『祈りの間』だった。
ふたりは長椅子に腰掛け待っているのだが、忙しなく動き回る神官やシスター達を見ていたセネトはぽつりと呟く。
「そういえば、小さい時クリスマスに神殿へ行ってシスターからプレゼント貰ったな……あのお菓子が美味しくて好きだった」
「あー…確かに美味しいですよね。そうそう、各神殿・聖堂でお菓子が違うんですよ。知ってましたか?」
頷いたクリストフは、セネトの方に目を向けて言った。
オラトリオ教団は毎年
地域や場所によってお菓子が違う為、全国を回りたがる子供も多いとか――
「あぁ、あれは全部回ってみる価値あると思うぞ。だけど、親父に『ダメだ』と言われてできなかった……連れもダメだって言われてたし。お前もそうだろう?」
昔、「全部回りたい」と駄々をこねた事を思い出したらしいセネトは残念そうにうなだれた。
…だが、クリストフは反対に笑いながら答える。
「そうですね…僕も駄々こねて父達を困らせましたよ。でも一日口を聞かない方法を使ったら、色々と連れて行ってくれましたよ?」
「つまり、お前は全種類食べたんだな……この、裏切り者!」
それを聞いたセネトは、悔しそうに頬を膨らます。
「というか、親甘過ぎだろ!」
「うーん…甘いんでしょうかね?ちなみに、一番こだわって作られているのはテセリアハイト東方大神殿ですよ」
セネトの様子が面白くて仕方がないクリストフは、お菓子が一番美味しかった場所を教えた。
その情報を聞いたセネトは、機嫌を直す。
「そっか…今から行ってこようかな?」
ちなみに、だが…オラトリオ教団の渡しているプレゼントが貰える年齢は0~15歳までであり、現在17歳のセネトは貰えない。
一体どうするつもりなのだろうか、と疑問に思ったクリストフであるがあえて聞かずに流した。
どうせ今年のクリスマスは、このアルノタウム西方大神殿から出られないのだから……
しばらくして、イールトアス大司祭が着替えて戻ってきた。
「お待たせして、申し訳ありません」
「いや、大丈夫だけどな。それよりも――」
遅くなった事を謝罪するイールトアス大司祭に、首を横にふったセネトはわくわくした様子で言葉を続ける。
「ここ、アルノタウム西方大神殿のお菓子は何だ?」
「は?あぁ、ここは『パンドーロ』ですよ。もう作り終えているので、後は箱詰め作業だけになります」
突然お菓子は何かと聞かれたイールトアス大司祭は、思わず目を点にさせたがすぐにこやかに答えた。
だが、イールトアス大司祭は左手を密かに動かしクリストフを呼ぶ。
呼ばれたクリストフはイールトアス大司祭が言いたい事を察して、あえて気づかないフリをした。
(…言いたい事はわかりますよ。『コイツは何考えてるんだ?』でしょうね)
対してイールトアス大司祭はにこやかに微笑んでいるのだが、心の中では文句を言っている。
(何故、
(パンドーロか…どんなお菓子なんだろうか?食べた事ないから、楽しみだな~)
そんな事になっているとは知らないセネトだけが、楽しそうに笑っていた。
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