冬の飾り付け

とある年の、12月24日――
めい国北西部にある演習場の一角で倉世くらせは、ふと夜空を見上げた。
綺麗な星空は広がっているのだが、雪雲も遠くに見える事に気づいて小さく息をつく。

この国がある里遠りえん大陸は世界の最北部に位置しているので、冬になるとものすごい量の雪が降り積もるのだ。
そうなると民間業者だけでは手が回らず、軍も所属を問わず除雪作業に参加する事になる。
就寝時しか、ゆっくり過ごす時間はとれず…しかも、春までそんな生活になるわけだ。

束の間の、ゆっくりと星空を眺めるチャンスであるというのに…もう雪が降りだしそうな気配に彼は心底ガッカリした。
そんな彼の頬に、空から舞ってきた白く小さなそれ・・が当たる。

「…ん?」

差し出した手のひらにもそれ・・は舞い降りて、彼の体温で溶けて消えた。
視線を上げると、空から次々と白い花びらのようなそれ・・が降りはじめている。

「あぁ、雪が降ってきたな…」

大量に降り積もらなければ、雪が舞い降る光景も綺麗だよな…と、彼は思っていた。
そんな倉世くらせの様子を、すぐ近くで見ていたらしい七弥ななやが同意するように頷く。

「そうだな。だが、現実逃避しているところ悪いが倉世くらせ――」
「……」

倉世くらせは何も答えず、相手七弥の顔をちらりと見やってからもう一度視線を空へ向けた。
何が言いたいのか、わかっているのであえて無視する事を決めたらしい。

――しかし、七弥ななや倉世くらせから目を離さずに告げる…それも、少しだけ呆れた様子で。

「あのな…また、副長が王女茅羽耶殿下に倒されているぞ」

七弥の目の前には赤茶色の髪をした十代後半くらいの、近衛隊の副隊長が雪だるまにされて放置されていたのだ。
そして、少し離れた所にいる淡い黄緑色の…ゆったりウェーブがかった長い髪をポニーテールにした十代後半くらいの少女が、おそらくこの国の王女・茅羽耶ちはやなのだろ。
王女は楽しそうに、近くに生えていたモミの木に装飾などをつけているようだった。

「なぁ、七弥ななや…ところでなんだが、誰が殿下に軍服一式を用意して渡したんだ?」

状況を改めて確認した倉世くらせが、囁くように七弥ななやに訊ねた。

「しかも、コートまで用意して…――」
「…知らん。副長…が、何か知ってるんじゃないか?」

この状況を一体どうしたものか、決めかねているらしい七弥ななやは大きくため息をついている。

――多分、副長本人が渡したりしたんだろうな…そして、そろそろ戻ろうなど声をかけた結果雪だるまにされたのだろう。
この副長…何故、毎年雪だるまにされているのに学習しないのだろうか?

そんな考えが2人の脳裏によぎり、そっと白目を剥いている副長から茅羽耶ちはや王女の方へ視線をうつした。
彼らの、そんな思いを知ってか知らずか…当の茅羽耶ちはや王女は、飾り付け終えて光輝いているモミの木を眺めていた…――


後日、報告を聞いた近衛隊長から副長と…何故か、倉世くらせ七弥ななやまで大目玉をくらう羽目になった。


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