一章 ステンドグラスは幻に…

もう、身体中が痛むのでございますが…倒れるわけにも、今のお役目を放り投げるわけにもいかないのです。

"我が君"は暇を持て余されておられますが、このお方を城から出すわけにはまいりません。
今は大人しく、御子息とも分身とも言えるあの双子の様子を覗き見ていてほしいところでございます。

…もう、意味なく挑んでこないでくださいとは言えませんが。
ですが、私の方が限界なのです…申し訳ございませぬ。

――紹介が遅くなりましたが、私の名はヴラチスラフ・レク…序列4位に就く者であります。
魔族の国の宰相を務めてます。
まぁ、あの双子が生まれる前まで私は序列2位でしたが…あの双子は"我が君"を幼くしたようなもので、私どもでは勝つ事はできません。
なので、必然的に今の序列に落ち着きました。
文句や不満はありませんし、他からもでませんでしたのでご安心を。

何故、今私が身体を痛めているか…と申しますと、理由わけはあの双子とミンナにあります。
"我が君"に非はございません。

あの双子の弟であるリルハルト様が"我が君"の命を受けて、とある廃教会へ向かわれました。
その30分後に、ミンナが柱の陰に隠れながら"我が君"と私…そして、あの双子の兄であるエルハルト様に言ったのです。

「…あの日、力加減を間違えてモップを振ってしまい…その、割りました――あの、ステンドグラスを」

ミンナの言葉に、玉座の間は時を止めたかのように…誰も身動きしませんでした。
"我が君"も驚きと焦りを混ぜたような表情を浮かべておりました。
…普段、あまり表情がない"我が君"の珍しい瞬間でございます。

ですが、そのような事を言っている場合ではございません。
これは、リルハルト様がお怒りになる案件であります…一大事です。

言うだけ言ったミンナは脱兎のごとく逃げました…あれには、後日罰を与えねばなりませんな。

リルハルト様にお伝えする役目を片割れであるエルハルト様が受けましたが、代わりに私が護衛の任を任されたわけです。
その時は、大昔に戻ったようだ…と軽く考えておりました――今思えば、もっと深く考えるべきでした。

だって、"我が君"は遊び相手でもあるあの双子の不在で暇を持て余しておられたのだから…――
するとどうなるか…答えは簡単です。
私で遊びはじめるのです…魔法攻撃からはじまり、果ては剣などの武器での攻撃をしてくるのでございます。

人間なら、もう死んでます。
魔族なので、死んでも生き返れますし…え、それがわかっていてあのお方はやっているのではと?
は、はは…まさか。


***


"我が君"の隙をついて玉座の間から脱出し、早くエルハルト様が戻ってこないものか…と思っておりますと、そのエルハルト様がお戻りになられました。
嬉しさのあまり、思わずエルハルト様の肩に手を置いて助けを求めてみます。

「丁度良いところでお戻りくださいました…エルハルト様、"我が君"が大変暇を持て余しておられます。ですから、どうか――」

どうか、あの方の扱きを受けてください。
そうお願いしてみたわけでございます…私だって、辛いと言っても良いはずです。

しかし、エルハルト様は笑みを浮かべたままこうおっしゃいました。

「あー、俺もよくやられてっから…頑張れ、としか言えねーわ。それより、も少し俺の代わり頼むなー」

あまりの事に、涙がでてきました…まだ名代を務めねばなりませぬか、エルハルト様っ!
本当は、"我が君"は貴方様方と遊びたくて仕様がないのでございますよ…ただ、リルハルト様はご自分で命じてしまった為にしばし遊べなくなってしまわれましたが――

あぁ…"我が君"がお呼びのようでございますね…お待ちくださいませ、"我が君"。
すぐに、このヴラチスラフ…おそばに行きますので。
エルハルト様の声援に見送られ、私は玉座の間へ戻る事となりました。


***


口は悪くなってしまいますが、ボコボコにされるのは心身共にダメージが大き過ぎます。
もう、本当に勘弁してほしい…というような事を言ってみますと"我が君"は止めてくださいました。
…もっと早くに言えばよかった。
そう考えた事は、誰も責めやしないでしょう…責めてくる奴がいれば、宰相という権限を使えばいいですよね。
リルハルト様に、昔そうアドバイスいただいたのですよ…お優しい方なのでございます。

そんな事を考えておりますと、エルハルト様がメイドをひとり引きずって玉座の間へやって来ました。
よく見ると、そのメイドはミンナでした…が、何故彼女は顔を真っ青にして震えているのでありましょうか?
この城内には、彼女の苦手とするゾンビはいなかったと思うのですが…

"我が君"はおっしゃいます、「…何事だ?」と――
エルハルト様は、ミンナをペイッと捨て置くとお話になられます。

「あのさ…俺らが知らない間に、ゾンビの呪いでもかかったのかってくらい行く先々でゾンビがわくんだけど…――」

なんでも、リルハルト様のいる廃教会周辺に湧き出ていたのを不思議に思いつつも深く考える暇もなく――
成り行きでミンナと鬼ごっこになってしまった際に団体で遭遇してしまい、やはりおかしいと思い至ったのだそう…

そのお話を聞いた"我が君"は、無表情ながらも目が輝いておられました。
ようやっと、別の楽しみを見つけられましたね…本当によかったです、"我が君"。
――ですが、一瞬お姿が見えなくなったのは…各地を見に行かれたからではありませんよね?
あぁ、行かれたのですね…エルハルト様のご報告内容を合わせて考えるに、ゾンビ大量発生は間違いないと。

"我が君"…ご自分でご自分の生命を縮めてどうされるのですか?

心の中で、つい思ってしまいましたが…表情にだしていないので、"我が君"にはバレていない事でしょう。

エルハルト様がリルハルト様のところへ向かわれた、のは良いのですが…またもや、暇を持て余された"我が君"と放心状態のミンナをどうするべきか――
私は決めました…とりあえず、ミンナに罰を与えようと思います。
そうと決まれば、まずは"我が君"の護衛を代わってもらわねばなりません…
そうですね、序列5位のアルマンに頼むといたしましょう。
どうせ、アレ等も起きたばかりで身体が鈍ってる事でしょうしね。

ふっ、私の代わりにボコボ…ごほん。
何でもございませんよ、"我が君"――すぐにアルマンを呼びますので、お待ちください。

…ミンナへの罰は、ゾンビの幻影でいいですかね?
木に吊るしておけば、良い感じで罰になりますし…

そんな事を考えながら、私はミンナの襟首を掴んで…庭へ向かう事にいたしました。

罰の準備を終えてから、アルマンを"我が君"の元へ魔法で送ろう…きっと、彼なら頑張ってくれるでしょうから。

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