一章 ステンドグラスは幻に…

逃げ帰ろうとした兄の腕を掴まえて、廃教会へ戻る事にしました。
…兄さん、僕をこんな状況に残して帰らないでください。

「いやー…でも、今"我が君"の護衛をヴラチスラフに代わってもらってんだよ。あいつ…そろそろ限界だと思うんだよなー」

兄が遠くを見るような目をしていましたが…そんなの、知った事ではありませんよ。
いいんじゃないですか、"我が君"に扱かれれば強くなれると思いますよ…ねぇ、ヴラチスラフ。
死にはしないでしょうから、もうしばらく頑張れ!!

「お前…ヴラチスラフを犠牲に、俺を対エンク…じゃなくて、アルヴィドの盾にしよーとしてんだろー?」
「そうですよ、当り前じゃないですか。僕達は双子の兄弟なんですから、不幸も分け合いましょう…ね、兄さん」

死なばもろとも…ですよ、兄さん。
仲良く、一緒に地獄を見ましょうよ…可愛い弟のお願いを聞いてください。

兄は、すごく嫌そうな表情をしていますが…そんなの無視です。

廃教会に戻ってきましたが、まだアルヴィドは帰ってきません…多分、タイミングをずらして戻ってくるつもりなのでしょう。
まぁ、ほぼ同時に帰ってきたらきたで…それは問題ですけどね。

とりあえず、兄と共に礼拝堂へ行き…ステンドグラスのあった場所の再確認しに行きました。
きれいに粉砕されてるので、外の景色がよく眺められます…
わかってると思いますが、そういう仕様ではありません。
あと、死霊の存在も仕様ではありません…

「しっかし…どーする?記憶を頼りに魔法で再生させるにしても、ちょーっと無理あんだろー?」
「そうですねぇ…記憶というのは、脆い部分もありますからね。完全に戻すとなると…図案など、何か残っていれば助かるけど」

いかに気に入っていたステンドグラスであっても、記憶だけを元に再生させるのは難しいものです。
…ましてや、あれは神代の時代に作られたものですからね。

永い時の中で、数回しかじっくり見る事のできなかった僕ら兄弟の記憶ではあやふやな部分がどうしてもあるので下手な事はできない。
だから、何か記録が残っていれば…と思ったわけです。

兄と共にどうしたものか――
いっそ、各国の蔵書庫や教会などの施設に入り込んで探してみるか…などを話している時でした。

「もしかすると…だが、中央の方にスケッチなどが残っているかもしれない。リル…良ければ、一緒に取りに行くか?」

突然聞こえてきた言葉に、僕と兄は動きを同時に止めました。
どうやら、今戻ってきたていで声をかけてきたみたいですが…がっつり僕らの会話を立ち聞きしてる時点で不正解でしょう。
というか何故、僕があいつと一緒に行かねばならないんだろうか…

「うっわー…綺麗に俺を無視か。そんな事より、中央ってたら光の総本山じゃねーか…行くなら、お前一人で行けよ」

いつものような笑みではなく、歪な笑みを浮かべた兄がアルヴィドに言ってくれました。
兄さん、代弁をありがとう…

大体、敵対勢力の者が中央に近づけるわけないだろう――というのが、世界の常識だと思うんですがね。

兄の言葉に眉をしかめたアルヴィドは、腰に下げている剣の柄に手を伸ばしました。

「…何だ、エル。お前もいたのか…来たいならお前も来ればいいが、もしもの時はリルを護る為にお前の首をとるぞ?」

えーっと…兄の愛称もありましたか。
というか、何か怖いんですが…薄ら寒い何かが、背中を伝うのは気のせいなのか?

僕らの心中は、穏やかではありません。
――助けてください、"我が君"…あいつ、やば過ぎます。

もしかすると、勇者一行の中で一番恐ろしい奴だと思います。
何故、そんな奴が救世の勇者のひとりなんでしょうか?
神は何を考えて彼に役目を与えたんでしょう、それが不思議ですよ。

ところで、兄さん…あいつはいつでも剣を抜ける状態みたいなので、誘いに乗ってあげてはどうですか?


***


兄とアルヴィドが睨み合っている間、祭壇をきれいにするかな…と、僕は砂埃や瓦礫を片付ける事にしました。

…兄さんを連れてきて大正解でしたね。
おかげで、あいつの意識が兄さんに向いてくれています…ありがとう、兄さん。

もしもの時、骨は拾って…など考えながら、ひと抱えする位の石をどけると――何故か、骨がでてきました。
まぁ…見た感じ、人のものだと思います。
見なかった事にしたいのですが…視線を感じるんですよ、何故か。
兄さんとアルヴィドはお互いに牽制してるので、僕の様子には気づいていません。
なので、2人は除くとしましょうか。

――となると、消去法で一択です…ここには、たくさんいますからね。
老若男女の死霊達が、ね…野次馬してますよ。

では、ここで問題です…この骨の持ち主は誰で、何故ここに弔われずあるのか?
ちなみに、この骨は死後十数年しか経ってない…魂と器の繋がりは無くなっていますが、わずかながら固有魔力を感じます。
これならば、持ち主はすぐにわかるでしょう…の前に、野次馬な死霊達を解散させようと思います。

…これって、神に仕える人間の仕事になりませんか?
と、心の中でアルヴィドへ向けて言ってみたくなりました。

とりあえず、野次馬な死霊達に向けて僕は手を一回たたきました…もちろん、魔力を込めて。
一陣の風が吹き抜け、野次馬達はいなくなりました…が、何処かに隠れてる事でしょうね。

兄は驚いてませんでしたが…アルヴィドは突然の風に驚いたらしく、こちらを目を丸くさせて見ています。

「リルハルト、いきなりはビックリするだろー…何かあったかー、って人骨?」

僕のそばにやって来た兄はこう言ってますが、その表情は面白い何かを見つけたような悪戯っ子の笑みを浮かべていた。
アルヴィドも遅れて来ましたが、こちらは眉をひそめながら人骨を調べ始めます。

「…なくなってから10年位か?リル、まさかこの骨の持ち主も飛ばしてしまったのか?」
「そんな事はしてませんよ…対象は野次馬をしている霊のみにしました。どさくさに紛れて、礼拝堂内のどこかに隠れてるようですが」

まったく失礼な…そんな不手際はしません。
そういえば、勇者一行の中に不手際しかしない魔術師がいましたっけ…ね。
あいつと同類にするな、という気持ちでアルヴィドを睨むと奴は申し訳なさそうに謝ってきました。
分かればよろしい…分かれば。

それよりも、今は骨ですよ…
明らかに、ここに放置されたのでしょう――何者かに、骸を。
アルヴィドも調べて気づいているようですが…この骸、誰かに生命を奪われたようですよ。
何があったのか知りませんが、惨い事を――

何か起こると、人間というものは醜く争いますからね…本当によくやるな、といつも僕らは思ってしまうくらいです。
まぁ、それは今は置いておきましょう…

えーっと、この骸の持ち主は何処ですかねっと?

周囲を見回すように探すと、何故か兄が告解部屋からにやにやしながら出てきました…その手に、何かを持って。

「なーんか、こそっと逃げようとしてたから捕ってみたぞー。はははー」

兄の手に握られてる"それ"は、どう見てもあの骸の主の魂です。
さすが兄さん、瞬時に掴んだんでしょうね。

死者の弔い&浄化は、僕らにはできませんからアルヴィドに任せればいい…んですが、僕ら兄弟的には少し面白くないです。
どーせなら、犯人探し…でもして遊びますかね。

僕らの言葉に、アルヴィドは反対しませんでした。

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