一章 ステンドグラスは幻に…

「……」

マットレスを干したまま、きれいに掃除した床に横になっていたのですが…気がつくと寝てました。
すっかり夜です…干していたマットレスも湿気てる事でしょうね。

…それよりも、まず僕が気にしなければならない事が今起こっている。

「…何処から?」

つい言葉に出してしまったのには理由わけがあります…というか、理由わけがわかりません。
何が…って、それは――僕の首元を固定するかのように、歪に割れた鏡が床に刺さっていたのだから。

意味がわからないです…何をどうしたら、こんな状況になったのかを説明願いたい気分だ。
鏡に映る自分の青紫色の瞳が、呆れたように僕を見ている。

まぁ、だから何だ?という感想しかありませんが…――

僕は鏡に触れ、魔力を込めると…あっという間に割れてしまった。

(それにしても、何処から鏡が…の前に、誰がこんな事を?)

寝ている間に処刑モドキ…いや、首と胴体がさようならなど笑えるかっ!
いくら寝落ちしてしまったとはいえ、一応結界をはっていたはずだし…入り込めるとしたら、"我が君"か僕の――

「よーぉ!首尾はどーだ?」
「……」

おかしいな…幻聴が聞こえる。
いやいや、視界の端でにこにこ笑っている奴が見えるのですが…幻覚まで見えるとは、疲れてるんでしょうね。
まさか…よりにもよって、兄の幻覚を見て――

「…いやいや、実体だから。現実見ろって」

夢でも幻でもなかった…何しに来たんだろう。
確か、"我が君"の護衛をしていたはず…と思い、それを兄に目で訴えてみた。

「俺一人で来たから安心しろ…なぁ、リルハルト」

…安心要素が何処にもない、としか言えませんよ。

兄の名前は、エルハルト・フォス…僕らは双子の兄弟です、二卵性の。
ちなみに兄は僕と違い白髪で青緑色の瞳をした、魔法を使う剣士で…本人曰く、魔剣士ではないそうです。
もし、顔が似ているなぁ…などと思った方は、もれなく僕が先ほどやられた事をして差し上げます。

「…で、何故こんな事を?寝起きからの斬首って…笑えませんよ」
「いやいや、ちょーっとしたイタズラ心がな…そーいや、一回引っかかった奴いたなぁ」

兄が思い出したかのように笑みを浮かべてますが、それは僕の事ではなく別の奴です。
確か…序列が6か5位の奴で、起き抜けにやられて復活まで数十年かかってました――気の毒に。

別に、彼が何かヘマをしたわけでなく…兄はイタズラのつもりでやったのだから、始末に負えない。

序列の低い者にも優しさを…と、今は思うわけです――だって、僕の序列は兄のひとつ下ですから…

とりあえず、この件は…後日ゆっくり兄弟で話し合いたいと思います。


***


肝心な事を忘れるところでした…色々とあり過ぎて。
兄は何をしに来たんだろうか、という事を――

僕がそれを尋ねると、思い出したかのように手をたたいて兄は言う。

「いや…あのステンドグラスを久しぶりに見てみようかと思ってな。お前が寝てるの確認した後に行ったら――」

あー…確か、兄も僕と同じくあのステンドグラスを気に入ってましたからね。
でも、跡形もなく粉砕してたので…さすがの兄もガッカリして――

「あいつ…力加減を間違えたとか言ってたけど、間違えたレベルじゃねーよなぁ…」
「は?」

…うん?
兄は犯人を知ってるんでしょうかね?

ところで、兄の言う「あいつ」とは誰だ…許さん!!

僕の心境に気づいたらしい兄が、珍しく真顔で教えてくれました。

「ほら、この辺りで人間とやり合ってた奴いたろ…序列8位の――あいつが、お前が"我が君"から命を受けたと知って俺に言ってきたんだ…やらかしたかも、って」

やらかしたレベルじゃないっ!!
粉砕しておいて、やらかしたと思えるその神経…というか、早く言えっ!!

序列8位に関してだけ、前言撤回です…優しさはあげなくていい。
むしろ、寝起きからの斬首イタズラをしてもいいですよ…兄さん、僕は止めないから。

そもそも、そんな報告は上がってこなかったわけですが…誰が隠したんでしょうかね?
兄の様子からして、知ったのが犯人である序列8位の奴に言われて…のようですから、8位より上で僕より下の序列の者が隠したんでしょう。

「"我が君"もそれ知って、『ヤバイ』って顔を一瞬してたかんな…とりあえず、どーしたい?」

兄の言葉に、僕は考えた…どうしたいって、そりゃひとつだけでしょう。

「とりあえず、8位を連れてきてください…ここの片づけを手伝わせます。そして、後日…私刑にします」

僕がにっこり答えると、兄は「おぉう…」と言って…何故か、少し引いてました。

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