一章 ステンドグラスは幻に…

復活したステンドグラスを眺めながら、僕は思いました……

初めから、内密でノリス司祭に頼めばよかったかもしれない。
どうせ、この2人――アルヴィドとリベリオというおまけが付いてくるのは変わらないだろうし、と。

まぁ、結果論ではありますが……つい、そんな事を考えただけで口にはだしません。

だって、ノリス司祭…疲労で倒れてしまいましたから――
創造力って、神力はもちろん体力や精神力なども消耗するんですねぇ…知りませんでした。
やはり代償なのでしょうが、すっかり失念していましたよ。
――"我が君"アーノルド様は、疲労で倒れた事がなかったので…ぇ、あの方が元気過ぎるだけ?
何か問題がありますか?

それより、とりあえずノリス司祭を2階に用意していたマットレスに寝かせてあげましょう…もちろん、アルヴィドとリベリオの2人でお連れしてくださいね。
はい、いってらっしゃい!

そして、僕ら兄弟の背後にいる死霊達は解散してくださいね。


***


気を失ったノリス司祭をアルヴィドとリベリオの2人が連れていって数秒後、少々忘れかけていた人物が姿を見せました。
きちんと僕が渡した衣装と首輪を身に着けていたのでひと安心です。

…兄さん、これがダメなワンコなんですが躾けますか?

兄は犬が好きなんですよ…だから訊いてみたのだけど、ワンコの方が引いてますね。
あれ?もしかして兄さんがやらかしたアレやコレも知っている感じか?

一度、各種族でおこなわれている教育内容を調べるべきかもしれない…ついでに、僕についてどう教えているのかを人狼ワーウルフ族に訊ねてみたいところだ。
兄の方は、本当に何かしてそうなので修正しなくていいかな……

「…あの首輪、もしかしてだけど"我が君アーノルド様"の玩具箱にあったやつか?」

囁くように兄に訊ねられましたが、返事は心の中でしておこう…――うん、"我が君アーノルド様"が「腹立たしい奴がいたら使え」とくださった隷属の首輪・・・・・です。
僕と兄さんだけがワンコの主人になるので、何でも命じられるとても便利な道具ものですよ。

何か納得した様子の兄は、とても楽しそうに「おすわり」と命じ…ワンコはワンコで、命じられるまま行動おすわりをしていた。
すみませんね、ダウィト=ロウ…お前の真名を、僕と情報共有している兄も知っているのですよ。
まぁ…その事を教えるつもりはありませんけどねぇ。

気を取り直して…兄に遊ばれているダウィトに用件を訊いてみると、廃教会裏で作業をしていたら突然眩しい光が見えたので様子を窺う為に姿を現したらしい。
…確かに、光が凄かったですからねぇ――って、片付けを急がなけらば色々まずい。

ルーク…僕の頭で寛ぐのは後にして、お前も手伝ってくれませんか?
というか…死霊達もどうせ暇しているのだろうから、手伝ってくれても罰は当たりませんよ?
ほら、人間ひとがよく言っているじゃないですか――猫の手も借りたい、とね。



……まぁ、ルークや死霊達は結果的に猫の手にはなりませんでした。

そもそも、邪魔にしかならない事しかしない…あれですよ、ポルターガイストしか起こしやしない。
何もしない分、ルークはかわいいものです。
…もう、ルークは僕の頭の上で休んでますがね。

僕と兄とダウィトの3人で、なんとか礼拝堂内にあった瓦礫を外に運び出したのでがらんとしています。
椅子などは後日用意するとして、壁のヒビ割れなどを直さないといけないな…と考えたところで気づいた――ノリス司祭がステンドグラス再生のついでに礼拝堂を直してくれていた事に。
…そりゃあ、疲れて倒れてしまうわけですよねぇ。
ゆっくり休んでください、と心の中でノリス司祭に伝えておこう。

ところで一向にアルヴィドとリベリオの2人が戻ってこないので2階へ様子を見に行ってみますかね。
それを兄に伝えると、兄はダウィトワンコと外で遊んでくると言って助けを求めるような目を僕に向けたダウィトを引きずって行ってしまった。
――無事に帰ってこいよ、ワンコ……

見送りがてら祈りを捧げていた僕の頭をルークがしっぽで叩いて2階へ行くよう促してきました。
ルークのおかげで我に帰れましたが、段々こいつの遠慮がなくなってきている気がしてくるのは何故だろうか…?

まぁ、それは追々でいいとして…あの2人が何をしてるのか、確認しておかなければ。
――2階へ行ってみると、ノリス司祭は僕の用意したマットレスの上に横たわり眠っている様でした。
…が、肝心の2人は傍にいない。

あれ、あの2人…一応、ノリス司祭付きの神官騎士だよね?と首をかしげている僕の頭をルークがしっぽで叩いてきた。
お前には声というものがあるだろう、と文句のひとつ言いたかったのですが眠っているノリス司祭の手前我慢しよう。

――で、ルークが何に気づいたのか探っていると廊下の最奥に2つの人影…つまり、探していたアルヴィドとリベリオを見つけました。
声を潜めるように、2人の足元に置かれた古い箱の中身を見ながら話をしているようでした。
まぁ、その古い箱が曰く付きというわけではなさそうなので放っておきますか。
2人共、どことなく楽しそうですし…って、遊んでないで護衛の仕事はしろよ――僕は魔族…つまり敵なんですがね。

あー…本当、何で今回はこう・・なんでしょうか――やりにくいったらないですよ……はぁ。



とりあえず、どこか懐かしそうにしている2人の邪魔をしないように…って、何故に僕があいつらに気を使わないといけないのかと考えながらステンドグラスを眺めていると人の気配が――それも、複数人分あります。
ですよねぇ…あれだけ派手に修復すれば、人間だって気になりますから来ますよね。

まぁ、ルークをはじめとする死霊の姿は人間には見えない…はずなので大丈夫だろう。
そう考えて、彼らに対応しようと振り返る――そこには、老若男女10人がこちらの様子を窺うようにいた。
気持ち的に「廃教会が何故?」状態だと思うので、懇切丁寧にノリス司祭が神に祈ったら奇跡が起こりこうなりましたと説明したら彼らは納得してくれましたよ。

嘘はついてないので、問題にはならないでしょうし…面倒事は全部神殿側に押しつけてしまおう。
心の中でそう決意していると、誰かにケープマントを引っぱられました。
そちらに目を向けると、幼子がケープマントを引きながらこちらをじっと見て……あぁ、これはルークが見えてますね。
――一応、幼子に声をかけると案の定でした。

「あのね、神官様…それ、なーに?」
「……これは、天使のたまごです。内緒にしてくださいね?でないと、この子は消えていなくなってしまいますから――」

口元に人差し指をもっていくと、幼子はキラキラした目でルークを見てから自分の口をおさえて頷きます。
かわいいですねぇ、信じてくれるなんて…って、ルーク!しっぽで叩かないでください、お前の為に嘘をついたのだから…ったく。

人間達が帰った後、しばらくしてノリス司祭がアルヴィドとリベリオを伴って2階から降りてきました。

「すみません、リルハルト…何か問題ありませんでしたか?」

問題らしいものはなかったけど、一応人間達が来た一件を話しておきました。
ノリス司祭は少し考える素振りを見せてから、正式な神職者を此処へ派遣して人間に説明すると答えたので任せておこう。

それから少し他愛ない?話をした後、嫌がるアルヴィドとリベリオの2人を引っぱってノリス司祭は帰っていきました。
――本当にありがとう、ノリス司祭!今度、美味しいお菓子を贈りますね。

しかし、正式に派遣されてくる神職者が来るまで…僕は待ってないといけないんでしょうか?
あれ、それだと"我が君アーノルド様"に命じられた仕事ができないような……?

つい現実逃避にルークと戯れながら祈ったものです……今度こそ、何も問題が起きないようにと。
ええ、祈っただけですよ…でも、まさかあんなとんでもない目に合うとは思ってませんでしたがね。

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