一章 ステンドグラスは幻に…
「――そういえば、リルハルトは何故この地に…?」
何か思いだしたかのように、ノリス司祭が僕に訊ねてきましたが…そういうのって、再会した時に訊くものでは?
まぁ…ルークの件が先だったのだから、仕方ないといえば仕方ないのだろうけど――
「"我が君"の命でこちらに…"光と闇の戦い "に必要な場所であるからと言っておられました」
多分、2回目の時と同じ状況を作りたいとあの方は考えておられるのだろう…
僕にとってはステンドグラス以外、良い思い出はありませんけどね。
僕の話を聞いたノリス司祭は納得したように何度か小さく頷くと、満月の浮かぶ夜空を見上げた。
「…そうですか。あの教会も廃れて久しいですから、どんな形であれ元の状態に戻るのは喜ばしいとは思いますが――」
そこまで言うと、ノリス司祭は大きくため息をついていますが…少し珍しいですね。
でも、一体どうしたというのでしょうか?
「アーノルド…私に言ってくれれば、すぐに直したというのに」
いや、何処の世界にいるんでしょうねぇ…魔王が司祭に頼み事をするとか、どう考えてもおかしいですよね。
あれ…おかしいのは僕の方なのだろうか、もしかして。
――ん?「すぐに直した」とノリス司祭は言いましたよね…なら、ステンドグラスの修復を頼んでもいいのではないか。
これなら、わざわざ危険を冒してまで中央へ行かなくていいのではないか…
すごく良い事を閃いた僕は、肩の荷がひとつとれた事で晴れやかな気分になれました。
…あ、今ですか?今は、僕とノリス司祭は宿屋の前で待機ですよ…
兄さんと兄さんの頭に乗ったままのルークは村の中を散歩中です。
ルークの奴…兄さんの頭の上が居心地良いからか、降りようとはしなかったな。
あのまま、兄のペットになるのだろうか…?
リベリオとアルヴィドの2人なら、魔寄せの香と哀れな冒険者達をエサに淫魔狩りをしていますよ…というか、捕獲された淫魔が縄で縛られては宿屋の窓から放り出されているんですよねぇ。
何故か、サキュバスだけでなくインキュバスがいるのが不思議です…まぁ、別にいいのですが。
それにしても、この村に淫魔はどの位いるんですかね…もう、30体狩られてますよ。
この村…そんなに大きくないのに、淫魔が30体以上いるとか――ちょっと間引くとか、淫魔を生み出してる"元"を何とかするかをした方がいいのかもしれません。
まぁ、それは僕の仕事じゃないですから…担当の者――確か、序列9位の仕事だったと思います。
これがひと段落ついたら伝えておこう…
***
兄さんとルークが戻ってこないので、目的の淫魔を知るノリス司祭に判断してもらう事にしました。
でも、探している奴以外はどうしたものか――解放するわけにいかないし…勝手に始末する わけにいかないし…困りましたね。
…いっそ、埋めてしまった方が早いのでは?
魔封じの魔法を込めた縄で縛られた淫魔達の顔を、一体一体確認していくノリス司祭と…
それをなんとか魅了しようとする淫魔達という図を眺めながら、そんな事を考えてしまいました。
無駄な抵抗をしているお前 達に一言だけ…その人、そういうの効かない上にまったく気づいてない のでやめた方がいいですよ?
とある淫魔の前に立ったノリス司祭がにっこり微笑んでますが、それは魅了できたのではなく…「関係者見つけた」の表情なので残念でしたね。
――心の中で、ですがニヤリと笑みを浮かべている淫魔に向けて言ってみました…教える気はまったくないですが。
とりあえず、今回 の件に無関係な淫魔は全員村の外――森深いところに縛ったまま放置する事にしました。
移送魔法で送ったので、すぐに片付きましたけど…肝心のルークがいないんですよねぇ。
リベリオとアルヴィドの2人は魔寄せの香を片付け、エサとなった冒険者達のいる部屋の空気を入れ替えているらしい…
エサとなった冒険者達も無事(?)であろうし、一泊無料 で済んでラッキーだった事でしょうね。
…まぁ、色んな意味で怖い思いもしただろうが――僕の知った事ではないし。
さて、せっかく見つけた淫魔なのでゆっくり話をしますかね…だから兄さん、早くルークと共に戻ってきてくれませんか?
聞こえてて無視するなら、こちらにも考えがある…と、念話で兄に呼びかけると少し慌てた様子で帰ってきました。
いや、別に何もしませんよ…兄さんを怒らせると恐ろしいですから――
ノリス司祭に促され、ルークは兄の頭上で身を捩り…って、お前はいい加減兄さんから離れろよ!
思わず言いそうになったけど、そこはぐっと我慢をしました。
捕らえた淫魔の顔を確認したらしいルークが弱々しく声を発する。
『ぁ…アリス、久しぶりだね。あの…私を食べたというのは本当だろうか?』
ド直球で訊いてますね、この馬鹿…まぁ、話が早くて僕は助かるんですけどねぇ。
ただ、肝心の淫魔――ええっと、アリスって名ですか?
それがルークの事を半開きの目でじっと見て首をかしげて…哀れ、ルークは忘れられているようです。
しばらく見つめていたアリス(?)は、ようやく思いだしたらしく笑いながら口を開きました。
「あー、思いだしたぁ!ちょっといい事しようと魅了したらぁ、ばったり倒れちゃったのぉ…だからぁ、いただいたのぉ」
魅了されてテンション上がり過ぎて気を失ったルークに、あれやこれやして精力をいただいたら死んでいたらしいです…
この淫魔の言動に、ついイラッとしてしまったので思わず魔法で絞めてしまいましたが要約するとそういう事らしい。
兄に止められなかったら殺 っていたところですよ…ところで、これの何処が良かったんですか、ルーク?
兄の頭上で再びぐったり動かなくなってるルークを見ながら、ついそう心の中で問いかけてしまいました。
ショックなのはわかりますけど…まだ終わってませんよ?
「――で、何故あの廃教会の礼拝堂に骨が隠されていたのでしょうか?」
僕が訊ねると、何故か淫魔が答えようと口を開きかけたので睨みをきかせて黙らせ――ノリス司祭に訊きます。
「さすがに慌てて、魅了して手下にした者達に手伝ってもらい…あの場に捨て置く事にしたようですね。その後、スライムに食べられたようですが…」
…スライム、ですか――まさか、あの自称スライム・テイマーが手引きしてないですよね?
というか、骨をわざわざ残したというところが作為的な気がします…兄さん、アルマンとの話し合い は頼みましたよ。
は?何で知っているのか、と淫魔が騒いでますけど――ノリス司祭、思考を読もうと思えばできるので…だから、僕が心の中で悪態をついているのも筒抜けなわけです。
病魔の方は、どうやらこの村にいないようだ…と、兄が言ってますが――あの散歩で探してたんですね。
いずれ、何処かで見つけた時に神殿の方に匿名で通報すればいいでしょう…そう言うと、兄の頭上にいるルークが魂のしっぽ部分をゆらゆらさせはじめました。
――もう、これ は僕ら兄弟のペットでいいですよね?
大事にしますよ、もちろん。
「もぉ~、ちょっとぉ~…あたしはどぉなるの?」
淫魔がくねくね動きながら訊いてきましたが、僕と兄は声をそろえて言います――お前は神殿で処分されろ、と……
何か思いだしたかのように、ノリス司祭が僕に訊ねてきましたが…そういうのって、再会した時に訊くものでは?
まぁ…ルークの件が先だったのだから、仕方ないといえば仕方ないのだろうけど――
「"我が君"の命でこちらに…"光と闇の
多分、2回目の時と同じ状況を作りたいとあの方は考えておられるのだろう…
僕にとってはステンドグラス以外、良い思い出はありませんけどね。
僕の話を聞いたノリス司祭は納得したように何度か小さく頷くと、満月の浮かぶ夜空を見上げた。
「…そうですか。あの教会も廃れて久しいですから、どんな形であれ元の状態に戻るのは喜ばしいとは思いますが――」
そこまで言うと、ノリス司祭は大きくため息をついていますが…少し珍しいですね。
でも、一体どうしたというのでしょうか?
「アーノルド…私に言ってくれれば、すぐに直したというのに」
いや、何処の世界にいるんでしょうねぇ…魔王が司祭に頼み事をするとか、どう考えてもおかしいですよね。
あれ…おかしいのは僕の方なのだろうか、もしかして。
――ん?「すぐに直した」とノリス司祭は言いましたよね…なら、ステンドグラスの修復を頼んでもいいのではないか。
これなら、わざわざ危険を冒してまで中央へ行かなくていいのではないか…
すごく良い事を閃いた僕は、肩の荷がひとつとれた事で晴れやかな気分になれました。
…あ、今ですか?今は、僕とノリス司祭は宿屋の前で待機ですよ…
兄さんと兄さんの頭に乗ったままのルークは村の中を散歩中です。
ルークの奴…兄さんの頭の上が居心地良いからか、降りようとはしなかったな。
あのまま、兄のペットになるのだろうか…?
リベリオとアルヴィドの2人なら、魔寄せの香と哀れな冒険者達をエサに淫魔狩りをしていますよ…というか、捕獲された淫魔が縄で縛られては宿屋の窓から放り出されているんですよねぇ。
何故か、サキュバスだけでなくインキュバスがいるのが不思議です…まぁ、別にいいのですが。
それにしても、この村に淫魔はどの位いるんですかね…もう、30体狩られてますよ。
この村…そんなに大きくないのに、淫魔が30体以上いるとか――ちょっと間引くとか、淫魔を生み出してる"元"を何とかするかをした方がいいのかもしれません。
まぁ、それは僕の仕事じゃないですから…担当の者――確か、序列9位の仕事だったと思います。
これがひと段落ついたら伝えておこう…
***
兄さんとルークが戻ってこないので、目的の淫魔を知るノリス司祭に判断してもらう事にしました。
でも、探している奴以外はどうしたものか――解放するわけにいかないし…勝手に
…いっそ、埋めてしまった方が早いのでは?
魔封じの魔法を込めた縄で縛られた淫魔達の顔を、一体一体確認していくノリス司祭と…
それをなんとか魅了しようとする淫魔達という図を眺めながら、そんな事を考えてしまいました。
無駄な抵抗をしている
とある淫魔の前に立ったノリス司祭がにっこり微笑んでますが、それは魅了できたのではなく…「関係者見つけた」の表情なので残念でしたね。
――心の中で、ですがニヤリと笑みを浮かべている淫魔に向けて言ってみました…教える気はまったくないですが。
とりあえず、
移送魔法で送ったので、すぐに片付きましたけど…肝心のルークがいないんですよねぇ。
リベリオとアルヴィドの2人は魔寄せの香を片付け、エサとなった冒険者達のいる部屋の空気を入れ替えているらしい…
エサとなった冒険者達も無事(?)であろうし、一泊
…まぁ、色んな意味で怖い思いもしただろうが――僕の知った事ではないし。
さて、せっかく見つけた淫魔なのでゆっくり話をしますかね…だから兄さん、早くルークと共に戻ってきてくれませんか?
聞こえてて無視するなら、こちらにも考えがある…と、念話で兄に呼びかけると少し慌てた様子で帰ってきました。
いや、別に何もしませんよ…兄さんを怒らせると恐ろしいですから――
ノリス司祭に促され、ルークは兄の頭上で身を捩り…って、お前はいい加減兄さんから離れろよ!
思わず言いそうになったけど、そこはぐっと我慢をしました。
捕らえた淫魔の顔を確認したらしいルークが弱々しく声を発する。
『ぁ…アリス、久しぶりだね。あの…私を食べたというのは本当だろうか?』
ド直球で訊いてますね、この馬鹿…まぁ、話が早くて僕は助かるんですけどねぇ。
ただ、肝心の淫魔――ええっと、アリスって名ですか?
それがルークの事を半開きの目でじっと見て首をかしげて…哀れ、ルークは忘れられているようです。
しばらく見つめていたアリス(?)は、ようやく思いだしたらしく笑いながら口を開きました。
「あー、思いだしたぁ!ちょっといい事しようと魅了したらぁ、ばったり倒れちゃったのぉ…だからぁ、いただいたのぉ」
魅了されてテンション上がり過ぎて気を失ったルークに、あれやこれやして精力をいただいたら死んでいたらしいです…
この淫魔の言動に、ついイラッとしてしまったので思わず魔法で絞めてしまいましたが要約するとそういう事らしい。
兄に止められなかったら
兄の頭上で再びぐったり動かなくなってるルークを見ながら、ついそう心の中で問いかけてしまいました。
ショックなのはわかりますけど…まだ終わってませんよ?
「――で、何故あの廃教会の礼拝堂に骨が隠されていたのでしょうか?」
僕が訊ねると、何故か淫魔が答えようと口を開きかけたので睨みをきかせて黙らせ――ノリス司祭に訊きます。
「さすがに慌てて、魅了して手下にした者達に手伝ってもらい…あの場に捨て置く事にしたようですね。その後、スライムに食べられたようですが…」
…スライム、ですか――まさか、あの自称スライム・テイマーが手引きしてないですよね?
というか、骨をわざわざ残したというところが作為的な気がします…兄さん、アルマンとの
は?何で知っているのか、と淫魔が騒いでますけど――ノリス司祭、思考を読もうと思えばできるので…だから、僕が心の中で悪態をついているのも筒抜けなわけです。
病魔の方は、どうやらこの村にいないようだ…と、兄が言ってますが――あの散歩で探してたんですね。
いずれ、何処かで見つけた時に神殿の方に匿名で通報すればいいでしょう…そう言うと、兄の頭上にいるルークが魂のしっぽ部分をゆらゆらさせはじめました。
――もう、
大事にしますよ、もちろん。
「もぉ~、ちょっとぉ~…あたしはどぉなるの?」
淫魔がくねくね動きながら訊いてきましたが、僕と兄は声をそろえて言います――お前は神殿で処分されろ、と……