11話:いくべき未来

『…え、どうなってるの?』

首をかしげて呟くと、もう一度黒い翼をだそうと大きく腕を広げる。
でも、二対の翼しかだせず彼女は混乱した様子で天宮あまみや様の方を見た。

『あなた、ママと対極の力でも持っているの?もしかして、ママと同じ――』
「違いますよ?これは・・・私の力を利用して〈咎人〉たる者達が造りだしたもの・・ですから、同じではない。まぁ、貴女を構成するものの中にそういった情報は入っていないだけだと思いますよ」

金色こんじきの輪から手を離した天宮あまみや様は言う――初めからあちらは教えるつもりがなかったのでしょう、と。
捨て駒にされているのだと、彼女に教えている。
機械仕掛けの神彼女の母】が初めからそのつもりであの子を造りだしたのだとしたら、とても腹立たしく感じた。

『あなたも、わたしを…失敗作、だと言うつもりなの?』

嫌々と言うように頭をふって、頭上に向けて腕を上げた御使いの少女は叫んだ。

『違うという事を、わたしは証明する』

少女を護るように黒い触手がたくさん現れ、それを鞭のように天宮あまみや様や私達に向けて振るってきた。
思わず鉄パイプを構えたけど、これで対抗できるものなのか少し不安だな……

『――大丈夫。私が力を貸すから』
「え、もしかして…水城みずきさん?」

返事はなかったけど、聞こえてきた声は間違いなく水城みずきさんのものだった。
力を貸してくれる、と言っていたけど一体どうするつもりなのだろう?

もしかして、もう再起動できたのかな…と考えたけど、周囲からは機械音が少ししか聞こえてこない。
私達がここを訪れた時と比べたら静か、だと思う。

首をかしげて周囲をうかがっていると、突然手に持っていた鉄パイプが淡く光を帯びた。
見た感じ、何も変化していないみたい…だけど、そこに水城みずきさんの力を確かに感じる。

襲いくる黒い触手を、叩き斬るように鉄パイプを振ってみた。
すると、鉄パイプが触れたと同時に黒い触手は塵のように消えた…まるで、初めからなにもなかったかのように。

八守やかみさんや悠河はるかさん、古夜ふるやさんも各々持つ武器で黒い触手と応戦していた。
そして神代かじろさんは天宮あまみや様の傍に移動して、黒い触手を自分の武器であるナイフで切っている。

こうして見ると御使いの攻撃パターンは、なんだか熾杜しずに似ている気がした…もしかすると、神代かじろさんが言っていた『経験が浅い』せいなんだろうな。
ふたり共そうだから、言動が似かよっていたんだろうね…まぁ、化身を使ってこない分あの子御使いの方が戦いやすいかも。

あ、そういえば【迷いの想い出】は再起動中なのに化身は残ったままだよね。
多分、再起動したら消えるのかな?と確認するように悠河はるかさんを思わず見たら頷いてくれた。
…気づいてもらえてよかった、と思うのと同時に〈神の血族古代種〉の力は偉大だなとも思う。

今、統率を失っている化身達がこちらを攻撃してこないのは私が動いていないからだろうな…だって、私が動いた時に化身も動いて八守やかみさん達に抑えられていたから。
化身は再起動さえしたら消える、御使いと母たる【機械仕掛けの神デウス・エクス・マキナ】の繋がりは戻らない……
ほぼ安全に御使いの少女の元に行くチャンスは、再起動する瞬間がベストという事よね。
タイミングさえわかれば、後は走って行けばいい――桜矢おうやさんがしようとした、御使いを消す事ができる。

ふと、天宮あまみや様の方を見ると、こちらに五本の指が見えるように手のひらを向けていた。
でもすぐに指を一本ずつ減らすように曲げていく、つまりカウントダウン。
三本になったのを見て、私はタイミングを計る…二、一、零。

驚いた様子の化身達が消えると同時に、周囲から機械音がうるさいくらいに聞こえてきた。

零の瞬間に、私は御使いの少女の共に走った…彼女は私が近づくまで、事態にまったく気づいていなかったみたい。
私の気配に気づいた彼女は、怯えたように一歩後ろへ下がった。

御使いとしてある程度の知識というか、情報は持っていても幼い子供と同じ…母である【機械仕掛けの神デウス・エクス・マキナ】を信じて慕っていたのだろう。

――あなたも、わたしを…失敗作、だと言うつもり?

失敗作と、誰が彼女に向けて言ったのか…天宮あまみや様の力に追い詰められたからといって、普通にでてくる言葉じゃないと思う。
まさか、自分を生みだした母親に…?

何も言わず自分を見下ろす私から距離を取ろうと後退っていた御使いの少女は、足をもつれさせて尻もちをついた。
目を涙で濡らしながら、身体を小刻みに震えさせている様は本物の人間ひとのよう――もし本当にそうだったら、話は変わるのだけどね。
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