10話:悠久の霧

(…化身の気配が多い。何処にそんな力を残しているのか、本当にわからないですね)

小柄な少女を拘束したままの天宮あまみやは、周囲の音に耳をそばだて状況を把握する。
自分が取り押さえる少女の他に一体何人の化身ひとを使役しているのか、考えただけでため息しかでなかった。

すでに【迷いの想い出】の中枢メインから外され、化身を使役する能力はほぼ失われているはずなのだが…実湖みこの贄に選ばれた娘は、何処にそんな力を隠していたのかわからない力の使い方をしている。
…おそらく『火事場の馬鹿力』や『最期の悪あがき』という言葉が、今の彼女の行動にぴったり合うだろう。
その力の代償は、彼女のすべてとも言える――そう、文字通り魂をすり減らしながらおこなっているのだ。

自滅してもらえれば話は早いのだが、それをされると世界を廻る魂の循環というものに影響を及ぼしてしまう可能性があるのでさせるわけにはいかない。
すでに人間ひとがこの世界に現れてから、随分と永い時が経った。
神の血族古代種〉と〈狭間の者〉の魂とは別の循環だが、彼らもすでにこの世界の一部となっている。
もう滅ぶだけの自分達とは違い、彼らの魂は循環――つまり輪廻し続け、この世界を守っていかなければならない。
本音を言えば循環する魂が増えるのは歓迎だが、ひとつでも減られるとバランスが崩れ困るのだ。

この世界は、外界から・・・・新たな生命がこの地に現れるのは寛容だけど消える事を許さない…本当に困った御方ですよ)

神の血族自分達〉は感応力を持ち、世界や精霊達の声と対話できるし感じ取れるが外界からやって来た人間ひと達はその声が聞こえない上に感じ取る事もできない。
残された文献には、説明しても彼らひとは理解できなかったとあった。

世界が誕生したとほぼ同時に生まれた自分達一族を〈神の血族古代種〉と名付けたのは、この世界に降り立った最初の人間ひと達らしい。
神の血族自分達〉の持つ力がまるで神のようだ、というのが理由らしい…それを知った時、思わず笑ってしまったものだが。

思わず思考を脱線させてしまった天宮あまみやは小さく頭をふり、様子をうかがいながら近くにいるだろう神代かじろに声をかけた。

神代かじろ、少し代わってもらえますか?」
「ぇ、代わるって…それより、何をされるつもりですか?」

新たに襲いくる化身を遠くに投げ飛ばした神代かじろが、天宮あまみやの拘束している少女を押さえながら訊ねる。
相手が力の弱い少女とはいえずっと押さえていたので手を痛めたらしい天宮あまみやは、手首をさすりながら答えた。

「別に昔のような無茶な真似はしませんよ、なので安心してください」

まさか、ここまで従兄弟や従者達のトラウマになると思ってもなかった天宮あまみやは彼らの反応に苦笑してしまう。
あの時・・・はああするしかなかったので後悔していないが、どうやら一族の心に深い傷を負わせてしまったようだ。
だから安心させようと、そう答えたのだが感じる視線は痛い。
そして、今この場にいる一族全員の考えている事も手に取るようにわかる――絶対無茶するだろう、という非難めいた言葉である。

(まぁ、無茶と言えなくもないので反論の余地はありませんが…まったく、少しは信用してほしいものですねぇ)

一族の者達といい、【生命樹】の禰々ねねといい心配し過ぎだと天宮あまみやは小さく息をついた。
――彼らが心配性になってしまったのは、おそらくそういうところにあると気づいていない。

禰々ねね、【迷いの想い出】権限の一部…化身の操作を私に」

天宮あまみやはとても小さな声で、【迷いの想い出】の補佐をしている禰々ねねに命じた。
【迷いの想い出】の完全な掌握はできなくとも、禰々ねねの操作で一部権限は移せるはずであると考えたらしい。
事実【古代兵器オーパーツ】の中で【生命樹】が【迷いの想い出】の上位に当たるので、掌握できなくとも一部操作に互換性はあるのだ。

「しかし…いえ、わかりました」

躊躇いを少し見せた禰々ねねだったが、天宮あまみやの言葉に頷いてから目を閉じた。
そして、淡く身体を光らせ【生命樹】より【迷いの想い出】に繋げて操作する。

「う、くっ…」

苦しげに胸元を押さえた天宮あまみやは、心配で駆け寄りそうになる一族の面々に向けて首を横にふって大丈夫だと制止した。
そもそも【生命樹】を除いた【古代兵器オーパーツ】と〈神の血族自分達〉との相性は悪いのだから、
身体に負担がかかるとわかった上なので心配しなくてもいいと伝えたのだ。

(さて、水城みずき…私が力添えをしますから、今のうちに【迷いの想い出】を完全に掌握しなさい)

両膝をつき、祈りを捧げるように天宮あまみやは【迷いの想い出】に意識を繋げた。


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