9話:鎮めの供物

少し話をした後、私達はまた無言で霧深い森の中を歩いていた。
視界が悪いせいもあって、景色がすべて同じようにしか見えない……
だけど、桜矢おうやさん達は全部わかっているようで迷う事なく動けていた。

しばらく歩いていくと大きな石が落ちている場所にたどり着いたんだけど、この石って何処から転がってきたんだろう?
周囲は木ばかりで、石がありそうな崖だって近くにはないし。

様子をうかがっていると、神代かじろさんがその石に触れて何か操作をしていた。
どういう仕掛けなのかわからないけど、小さくカチャという音がしたと同時に突然目の前の地面が上がっていく。
――そして、人が入れるくらいの高さとドアノブのない扉が現れると動きが止まった。

「ここが目的の場所だよ…入口はこっちでだせるんだけど、中に入るには〈咎人〉が鍵になってるんだ」

不思議な仕掛けだなと首をかしげていたら、桜矢おうやさんが教えてくれた。
これを作ったのが〈咎人〉と呼ばれる私達の祖先にあたる人達で、隠さないといけないものだからと地下にあるのだという……

「僕達も、はじめは何処にあるのかわからなかったんですが…霧の力を辿ってようやく見つけられました。表の入口の開け方は〈咎人〉達から聞きだせたんですけど、中に入る方法はどうやっても変えられなかったんです」

〈咎人〉の祖先達が意地でも教えてくれなかったのだと、神代かじろさんが苦笑しながら言った。
どうして頑なに教えたくなかったのか、私には理解できなかったけど…祖先達には祖先達の事情があったんだと思う。

桜矢おうやさんに促されるまま、私はせり上がってきた入口の扉にある四角い部分に手をかざしてみる。
すると、何か電子音みたいな音が聞こえたと同時に扉が下がって入れるようになった。

「…すごい」
「あの時代に造られた施設は、そのほとんどがこういう仕掛けだ…今では大半の技術が失われてしまっているがな」

驚いた私が思わず言葉にだすと、古夜ふるやさんが語る――失われた技術のほとんどが不必要なものばかりだった、と。
鍵も別に〈咎人〉の一族でなくても、登録した人間ひとを判別して開く扉とかもあるらしい。
…そういう技術は今も残っているそうだけど、国にとって重要な施設にしか採用されていないみたいだけど。

旧暦時代はとてつもなく便利だったんだな~と少しだけ羨ましく思ったけど、結果的に世界を滅ぼしかけちゃったのだから必要なものではないのかもしれない。

扉の向こうは、明るく下へ続く階段だけ――壁や床、階段に至るまで冷たい金属でできているみたいでとても静かだ。
すでに照明が点いていて不思議に思っていると、扉が開くと同時に点灯する仕掛けなのだと桜矢おうやさんに教えてもらった。

ゆっくりと階段を下りていくと、もう一枚扉があった…んだけど、私達が扉に近づくと同時に開いたのでさらに驚き。
なんだろう…2つの集落近くにこんなすごい施設が隠されていたなんて、意味がわからないし怖い感じもする。

足を止める事なく進むと、とても広い場所にたどり着いた――ただ中央に不思議な装置みたいなのが置かれ、機械的な音しか聞こえない場所だった。
その装置らしきもののすぐ近くにいる人影が、こちらに気づいて振り返る。
…うーん、私と同じ歳くらいの女の子かな。
着ている服も、私が通う学校のものと同じ――彼女のは黄緑基調の制服だから厳密に言えば色違いの、紫色の長い髪をした女の子。
彼女は緑色の瞳をこちらに向けると、首をかしげて桜矢おうやさん達に訊ねる。

「…何か問題が起こりましたか?」
「問題でしかない事が起こったかな…あぁ、真那まなちゃん。彼女は禰々ねね――【生命樹】のオペレーターで、一年前の事件で生命力を弱らせた熾杜しずの延命をしていたんだ」

紫色の髪の少女・禰々ねねさんにひと声かけた桜矢おうやさんが、私に説明してくれた。

【生命樹】というのは旧暦の時代に造られた【古代兵器オーパーツ】のひとつらしいのだけど、どう見ても普通の少女のようにしか見えないから説明を聞いても信じられなかった。
もしかして【古代兵器オーパーツ】って、すべて人の姿をしているとかじゃないよね?

小さな声で訊ねると、桜矢おうやさんは困ったような表情で疑問に答える。

「うーん、全部が全部ってわけじゃないとは思うけど…ごめん、僕らもすべてを把握できてなくてわからないかな」

――ただ禰々ねねは厳密にいえば人ではなく『人工生命体ホムンクルス』なのだ、と教えてくれた。

「あの時代、人間ひとは高い科学技術力を持っていたからな…それこそ、古代種と呼ばれる我々〈神の血族〉の想像を遥かに超えるレベルで。元々、人間ひとがこの世界にやって来た時代からそうだったらしいが」

桜矢おうやさんの傍に来た悠河はるかさんが、補足するように言う…ただその言葉には微かな怒りが隠されているような、そんな雰囲気を感じる。
もしかすると、人間ひとがこの世界に現れた時代に〈神の血族〉との間に何かあったのかもしれない。

そんな悠河はるかさんの肩に手を置いた古夜ふるやさんが、首をかしげ不思議そうにこちらの様子をうかがっている禰々ねねさんに声をかける。

禰々ねね、【生命樹】の力を現在の『器』に流す必要はなくなった。システムの調整など後日やるので――」
「では、交代までのその空白のわずかな時を維持するのは【生命樹】が担います」

言葉の途中で頷いた禰々ねねさんが淡々と答えるから、桜矢おうやさんが慌てて訂正をしていた。
そもそも【生命樹】って【迷いの想い出】を制御できるんだ、という事実に驚いてしまったけど本当に大丈夫なのかな?

「わずかな期間なら、【生命樹禰々】が代行できるみたいなんです。なので『要』が交代する時にできる空白の期間を任せているんですよ」

仮初めの器の方に力を使うよう説明している桜矢おうやさんを見て、苦笑した神代かじろさんが私の疑問に答えてくれた。

――仮初めの器って、今は水城みずきさんの身体になっているものだよね。
それの維持の方に【生命樹】の力を流す、という事は熾杜しずの運命は決まったという事か……

あれ、そういえば水城みずきさんの本来の身体はどうしたんだろう?
その事を神代かじろさんに訊ねると、声を潜めるように教えてくれた。

「…水城みずきの身体は、今は医院の方で預かっていますが――後日、埋葬する事になります」

大切な友人の身体がもう二度と利用される事がないのならよかった、と安心できた…けど、やっぱり悲しい。




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