9話:鎮めの供物

森へ向かった5人と別れた十紀とき穐寿あきひさの2人は、千森ちもりの見回りをしていた。
時に、集落内に留まっている化身達を始末しながら歩いているのだが不穏な空気はなくなる気配すらない。

ふと何かを思い出したらしい十紀ときが、くわえた煙草に火を点けながら訊ねた。

「ところで…穐寿あきひさ実哉みやの浄化はやったのか?」
「はい、天宮あまみや様から預かった血を使って浄化したので復活しないはずです」

頷いて答えた穐寿あきひさは、突如現れた化身を斬り捨ててから刀を鞘に納める。

真那加まなかが目覚めた日の夜、医院の外で黄昏ていた穐寿あきひさ天宮あまみやと会っていた。
その時に持っているよう渡されたそうだ、ある人物の血を入れた小瓶を。

「確か、理矩りくの血…だったか?」
「どうやら、塑亜そあと共に千森ここへ来た理矩りくを見初めたらしいですよ…塑亜そあが気づいていて、今回の騒ぎを聞いて天宮あまみや様に預けたそうです」

何故本人じゃなく、一緒にいた【主】の方が気づいているんだ…と思いつつ、十紀ときは納得したように頷いた。

――だがしかし、どう言い含めて採血したのだろうか?
そんな疑問もでてくるが、多分言い含めたというより塑亜そあに「血が欲しい」と言われて応じたんだろう。
想像すると、なかなかシュールな光景かもしれない。

おそらく、同じ事を考えたのだろう穐寿あきひさは苦笑していた。

「とにかく、実哉みやは化身から解放できたが…他をどうするか、だな」

煙草を吸った十紀が、困った様子でため息をつく。
千森ちもり内に残っている化身を片付けていくのはいいが、その度に血をかけていくのは効率が悪い以前の問題である。
倒す度に手や腕に傷をつけて血をかけて浄化していては、さすがの自分達であっても生命が持たない……

なので集落の人間には、事態が落ち着くまで家の中に籠っていてもらった方がどちらにとっても安全というものだ。
幸い霧深くなった為、集落の者達は家の中に籠っていてくれるのだから各家にメモ書きを入れておけば大人しくするだろう。
事態さえ収められれば、化身達も【迷いの想い出】の元に戻る――化身は【迷いの想い出】の防御システムのようなものだから、暴走さえ止められればいいだけである。

話し合いの末、十紀とき穐寿あきひさは襲いくる化身達を斬り捨てておけばいいだろうと結論づけた。

集落にある家は多くない為、2人で一緒に回っても問題はない。
なので、各家に『数日は霧が晴れないので大人しくしておくように。何かあれば医院の方へ連絡するように』という内容のメモを入れていった。
急患が出たらこちらが対応すればいいし、この集落の者達は常に保存食を置いているので数日くらいは大丈夫である。

問題があるとすれば、この集落の長の方だ――彼は、この事態を引き起こしたのが真那加まなかであると考えているようだ。
この国の第3王子であり、大神官でもある天宮あまみやがいるというのに堂々と真那加まなかの生命を狙ってきたのだから。
そもそも、天宮あまみやの身も危険に晒しているようなものなのだから許されるわけがない。
間違いなく、天宮あまみやの従者である八守やかみや兄である第1王子の逆鱗に触れている。

(まったく…怖いもの知らず、というべきか。まぁ、後日八守やかみが闇討ちなり暗殺でもやりかねないだけだから放置していい問題だな)

そんな、里長達にとって不吉な事を考えた十紀ときはポケットから携帯灰皿を出して煙草の火を消した。
過保護な従者である八守やかみなら、絶対にやりかねないので巻き込まれないようにしていればいいだろう。

「…だが、一応は里長達に警告しておいた方がいいな」
「はい。やる事をやっておけば、文句も言われないと思いますから…」

十紀ときの言葉に、穐寿あきひさは深く頷いてから答えた。
どうやら穐寿あきひさも、八守やかみの報復行動に巻き込まれるのは御免だったようだ。

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