9話:鎮めの供物
医院を出てから、十紀 先生と穐寿 先生と別れた私達は霧深い森の中へと向かった。
あまりに霧が濃いし、目的地が何処にあるのかわからないからはぐれてしまわないように桜矢 さんと手を繋いで私は歩いている。
途中、化身の人達と会う事もあったけど古夜 さんと悠河 さんが斬ったので無事に目的地へと向かえていた。
浄化作業はしなくて大丈夫なのか、と思っていたら桜矢 さんが「制御中枢さえ抑えてしまえばどうにでもなるから、今は放置で大丈夫」だと教えてくれたので私も気にしないようにしている。
森の中にいる化身 の狙いは私達を止める事なので、集落の方へは向かわないだろう…集落にいるのは、別目的の化身達だとも言っていた。
――その別目的って、多分天宮 様だと思う。
千森 と実湖 、2つの集落を繋ぐ『霧の森』は罪深き者達の住まう監獄だと言われている。
そう教えてくれたのは、確か父だった。
学校へ入学する前の…寮へ入る前日に父が故郷について教えてくれたんだけど、詳しい話は卒業してから話すのでその事だけは頭に置いて学生生活を楽しんでおいでと言っていた。
言われた当初は意味がわからなかったけど、この事件に関わって記憶を取り戻した今ならわかる――私達の祖先は〈咎人〉である、という事が。
天宮 様も言っていた――〈咎人〉の血を引く者達よ…私は、お前達を赦したわけではない。
お前達の罪は、決して消えやしない…それだけは、忘れないでくださいね。
監獄だと言われている理由は、多分ここにあるんだと思う。
本当は父から実湖 の長となる心得と一緒に教わる内容なんだろうけど、最後まで教えてもらう事ができなかったから憶測でしかないけど。
…だから、彼女の心を知らず知らずの内に傷つけていたのかもしれない。
あの子の思いに、そのチャンスすらあげなかったせいでこの事件が起こったのだとしたら――
「それは違うよ、真那 ちゃん。彼女には、きちんと断りを入れているから…」
桜矢 さんの言葉に、驚いた私は顔を上げてどういう意味かと首をかしげる。
すると、彼は歩みを止めて振り返ると言葉を続けた。
「彼女――熾杜 には、真那 ちゃんに気持ちを伝える前に思いを告げられたんだ。だけど僕はその時すでに、君に思いを寄せていた」
だから君が気に病む必要はないんだ、と桜矢 さんが首を横にふった。
それが真実であると、悠河 さんが深く頷いているので間違いないんだと思う。
…だとしたら、あの子は諦められなくて行動に移したという事?
それで無関係の人達の生命を犠牲にするのさえ厭わないって、どうしてそんな事を…もしかして、逆恨みで?
熾杜 は数えるくらいしか会った事のない同年代の、とてもかわいらしい女の子だった。
そして、会えばいつも何かしら嫌味を言ってきてとても不思議だったっけ。
あの子と会った日は周りの大人達が私を叱ってきた、「苛めるな」って――だけど、どちらかというと私が嫌がらせを受けていたと思うけどな。
私の事を知る人達は庇ってくれたから、精神的に助かっていた面も多かったと思う。
そういえば、幼い頃に親戚の人に一度だけ言われた事がある――お嬢様の機嫌は損ねるな、と。
お嬢様だから、集落の長の娘である私に対抗心を燃やしているのかな~と幼い私は呑気に考えていた。
でも、どうして数えるくらいしか会えなかったんだろう…もしかしたら、父や父の補佐をしている人達が会わないようにしてくれていたのかもしれない。
あ…今思えば嫌がらせのような言動をしてきた理由って、もしかして桜矢 さんに断られたから?
事実そうだとしても、やっていい事とダメな事がある…彼女は大罪を犯した。
それだけは変わらない真実だと思うので、絶対に止めないといけない。
「…僕はこの役目故、彼女と会う事もありました。もちろん、桜矢 に会う為に訪れた時でしたけど――」
傍へとやって来た神代 さんが、ぽつりぽつりと語りはじめた。
神代 さん曰く――熾杜 が「自分は実湖 の長の娘だ」と公言していた、らしい。
長である私の父や周囲は、あの子がいないところで訂正していたようだけど…何も知らない人からしたら、どういう事なのか驚きの話だよね。
先に私が娘として紹介されているのに、自称娘が名乗りでてくる状況って…これ、訂正できなかったら父に隠し子疑惑がでちゃうよ。
――それにしても神代 さんの正体に気づいていたはずなのに、あの子は何を考えていたんだろう?
その辺は熾杜 のお世話をしていた人達が教えなかったのかな。
だから神代 さんも首をかしげたけど、すぐに真実を教えられて彼女の虚言がわかったらしい。
「本人がそう思い込んでいたようなので、すぐに虚偽であるとわからなかった…彼女の、お世話係の女性の様子で事情はわかりましたけどね」
その時、桜矢 さんと悠河 さんにも熾杜 のおかしさを指摘したそうだ。
でも、彼女を『お嬢様』と言って大切にしていた人達だから指導とかしなかったんだろうな…だって、何でも自分の思い通りになると彼女は考えていたようだったから。
ん、あれ…もしかして神代 さんが実湖 に来た時、私も会ったのかな?
それを訊ねると、彼はにっこりと微笑んで「そうだ」と頷いた。
あぁ、だから目が覚めた後に会った時…何処かで一度会ったような気がしたんだね、納得。
その流れでいくと、天宮 様も実湖 に来た事があるのかも…幼い頃の出来事だから、うろ覚えだったのかな。
…どれだけ自分が能天気に過ごしていたのか、本当に恥ずかしい。
忘れていた事が申し訳なくて、桜矢 さんや神代 さん達に頭を下げて謝罪する。
彼らは幼かったのだから気にしなくていい、と笑って許してくれた。
こんな感じで少し話をしていた私達は、再び目的地へ向かって歩みを進めた…んだけど、この森の何処に【迷いの想い出】を隠す施設があるのかな?
それだけは出発前に確認しておけばよかったかも、と反省しながら彼らに付いていくしかできなかった。
***
あまりに霧が濃いし、目的地が何処にあるのかわからないからはぐれてしまわないように
途中、化身の人達と会う事もあったけど
浄化作業はしなくて大丈夫なのか、と思っていたら
森の中にいる
――その別目的って、多分
そう教えてくれたのは、確か父だった。
学校へ入学する前の…寮へ入る前日に父が故郷について教えてくれたんだけど、詳しい話は卒業してから話すのでその事だけは頭に置いて学生生活を楽しんでおいでと言っていた。
言われた当初は意味がわからなかったけど、この事件に関わって記憶を取り戻した今ならわかる――私達の祖先は〈咎人〉である、という事が。
お前達の罪は、決して消えやしない…それだけは、忘れないでくださいね。
監獄だと言われている理由は、多分ここにあるんだと思う。
本当は父から
…だから、彼女の心を知らず知らずの内に傷つけていたのかもしれない。
あの子の思いに、そのチャンスすらあげなかったせいでこの事件が起こったのだとしたら――
「それは違うよ、
すると、彼は歩みを止めて振り返ると言葉を続けた。
「彼女――
だから君が気に病む必要はないんだ、と
それが真実であると、
…だとしたら、あの子は諦められなくて行動に移したという事?
それで無関係の人達の生命を犠牲にするのさえ厭わないって、どうしてそんな事を…もしかして、逆恨みで?
そして、会えばいつも何かしら嫌味を言ってきてとても不思議だったっけ。
あの子と会った日は周りの大人達が私を叱ってきた、「苛めるな」って――だけど、どちらかというと私が嫌がらせを受けていたと思うけどな。
私の事を知る人達は庇ってくれたから、精神的に助かっていた面も多かったと思う。
そういえば、幼い頃に親戚の人に一度だけ言われた事がある――お嬢様の機嫌は損ねるな、と。
お嬢様だから、集落の長の娘である私に対抗心を燃やしているのかな~と幼い私は呑気に考えていた。
でも、どうして数えるくらいしか会えなかったんだろう…もしかしたら、父や父の補佐をしている人達が会わないようにしてくれていたのかもしれない。
あ…今思えば嫌がらせのような言動をしてきた理由って、もしかして
事実そうだとしても、やっていい事とダメな事がある…彼女は大罪を犯した。
それだけは変わらない真実だと思うので、絶対に止めないといけない。
「…僕はこの役目故、彼女と会う事もありました。もちろん、
傍へとやって来た
長である私の父や周囲は、あの子がいないところで訂正していたようだけど…何も知らない人からしたら、どういう事なのか驚きの話だよね。
先に私が娘として紹介されているのに、自称娘が名乗りでてくる状況って…これ、訂正できなかったら父に隠し子疑惑がでちゃうよ。
――それにしても
その辺は
だから
「本人がそう思い込んでいたようなので、すぐに虚偽であるとわからなかった…彼女の、お世話係の女性の様子で事情はわかりましたけどね」
その時、
でも、彼女を『お嬢様』と言って大切にしていた人達だから指導とかしなかったんだろうな…だって、何でも自分の思い通りになると彼女は考えていたようだったから。
ん、あれ…もしかして
それを訊ねると、彼はにっこりと微笑んで「そうだ」と頷いた。
あぁ、だから目が覚めた後に会った時…何処かで一度会ったような気がしたんだね、納得。
その流れでいくと、
…どれだけ自分が能天気に過ごしていたのか、本当に恥ずかしい。
忘れていた事が申し訳なくて、
彼らは幼かったのだから気にしなくていい、と笑って許してくれた。
こんな感じで少し話をしていた私達は、再び目的地へ向かって歩みを進めた…んだけど、この森の何処に【迷いの想い出】を隠す施設があるのかな?
それだけは出発前に確認しておけばよかったかも、と反省しながら彼らに付いていくしかできなかった。
***