9話:鎮めの供物

騒がしく話し合いをしていた栗色の髪の少女と4人の青年達が病室から出ていくところを静かに見守っていた青緑色の髪の青年は、わざとらしく大きなため息をつく。
原因ともいえる2人には、抗議の意味も込めて視線だけ送っておいた――同族である彼らは、視線に込められた抗議の意味をよく理解しているだろう。
その証拠に、彼らの顔色は悪くなったのだから。

彼らの姿が見えなくなった後、すぐ傍から聞こえてきた笑い声に青年は振り返って声をかけた。

「お目覚めでしたか…お身体は大丈夫ですか?天宮あまみや様」
「大丈夫、少し休めましたから。それより、八守やかみ…すべて終わるまで我慢しなさい」

ベッドに横たわる天宮あまみやが、まだ何か言いたげな様子の青年・八守やかみの左腕にそっと触れる。
――自分の従者が何を考えているのか気づき、念の為に注意したようだ。
わかっている、と頷いて答えた八守やかみは主の手を取って布団の中へと戻す。

桜矢おうやは少々おしゃべりが過ぎていたので、一応釘を刺しておくべきかと…」
「そうですねぇ…人の過去をベラベラと話していたので、それに関しては別途でしなさい。それよりも、わかっていますね?」

声を潜めながら訊ねる天宮あまみやに、八守やかみは扉の外の様子をうかがいつつ頷いた。

「はい。瀬里十せりとの方も、おそらく準備ができているかと…ただ、あちらから遠隔制御できるかわからないとは言っておりました」


八守やかみ天宮あまみやと共に千森ちもりへ向かう前、輝琉実ひかるみのとある場所にて瀬里十せりとという人物と会っていた。
――瀬里十せりとは、めい国の王都・夢明むめいにある大きな医院で医師をしていた〈狭間の者〉の青年である。

6年前、めい国で起こった『ある事件』で大怪我を負い…2年前まで千森ちもりにて療養していたのだ。
その療養期間中に【迷いの想い出】を制御していた先代の最期を看取り、空白の期間で不具合が起こらないよう調整作業もしている。

ただ瀬里十せりとは、次代の『要』となる者に会っていないので事件が起こる可能性を――ボロボロな状態の悠河はるか輝琉実ひかるみに現れるまでは考えもしなかった。

六実むつみ八守やかみから詳しい話を聞き、もしもの時には輝琉実ひかるみが最後の護りの壁となるよう対【迷いの想い出】システムを組んだらしい。
それが何処まで有効なのか、そこだけはわからないと瀬里十せりとが告げていた事を天宮あまみやに報告していた。


「どちらにしろ、最悪な事態は考えておいた方がいいかもしれませんしね…瀬里十せりとには、できるだけ被害が最小限になるよう頑張ってもらいましょうか」

本人も6年前の件を気にしていたようだからと、天宮あまみやは苦笑した。


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