8話:真実の刃

「うん、その隙をつかれてしまったんだ…無理をさせて走らせてしまったせいで弱っていたから、多分霧が操れると判断してしまったんだと思う」

私の記憶が一部戻ったのを気づいたらしい桜矢おうやさんは、補足するように言葉を続けた。
一時的にも生命力が低下してしまったから【迷いの想い出】は化身にできるとシステムが判定してしまったんだろう、と――

「その時すでに僕は【迷いの想い出】に捕らわれてしまっていたし、悠河はるか天宮あまみや様に連絡を入れる為に輝琉実ひかるみへ向かっていたから…十紀とき神代かじろ達に、真那まなちゃんの保護を頼んでいたんだけど」

自分達が身動き取れなくなった時の事を考えて、信頼できる従兄弟先生達に保護と対処を任せたのだという。
――しかし、多数の怪我人や行方不明者を出してしまったせいで私を探しに行くのが翌朝遅くになってしまった。
十紀とき先生達が教えられた場所へ向かうと、すでに私の姿は消えていたので慌てて探してくれたそうだ。
半年して見つけだした時には、すでに霧に操られていた――だから、先生達4人分の血を使って解放してくれたらしい。

肉体的・精神的に回復するのに、もう半年…後遺症といえば、霧の力で身体しんたい強化されているというだけで問題ないのだと教えてもらった。
そっか、だから私は起きてすぐに動けたんだね…でも、これの何処に隠す要素があったんだろう?

私と同じ疑問を感じたらしい八守やかみさんだけは、桜矢おうやさん達に呆れた視線を向けていた。
だけど、それ以上彼らの口から詳しくは語られる事はなかった…多分、本当にこれ以上は知らない方がいいと考えたのだろう。
おそらくだけど、これまで会った化身のような見た目と行動をとっていたのだろうなぁ…というのは予想できるけど。

ひとり納得してから気がついたのだけど…天宮あまみや様はいつの間にか眠ってしまったようで、それらについて異議を唱える事はなかった。




天宮あまみや様が眠っている内に、これからの事を話し合う事となったんだけど…簡易ベッド傍の椅子に座る八守やかみさんだけは、何か言いたげにこちらを見ていた。
おそらくだけど、天宮あまみや様を除け者にしている感じがして内心複雑なんだろうな――だけど、無理をした上に吐血されていたから休ませた方がいいと思う。

とりあえず視線は痛いけど、これからやるべき事を確認しながら十紀とき先生が口を開いた。

天宮あまみやが眠っている間にやれる事は、今この集落に湧いている化身の討伐と【迷いの想い出】の制御になるが…どちらをやる?」
「全員『主従』揃っているので、どちらをやっても問題ないと思いますが…未だ【迷いの想い出】の支配権は水城みずきに完全移行していないようですから」

補足するように、神代かじろさんは言う…あながち天宮あまみや様の言っていた話は合っていましたね、と。
何を言っておられたのかな、と考えていたら「桜矢おうやに恋心を抱いている」という話をしていたのだと教えてくれた。
…確かに、あの子・・・桜矢おうやさんを気に入っているようだったと思う。
でも、だからって自分の故郷でもある集落を…――

少しだけ頭は痛かったけど、考えている間に気にならなくなっていた。
もしかしたら、桜矢おうやさんが記憶を封じる術を使わなくなったからだと思う。
霞がかっていた思考は、少しずつ晴れていくようにも感じた。

短い話し合いの末、最初に決まったのが八守やかみさんは眠っている天宮あまみや様を護る事だった。
十紀とき先生と穐寿あきひさ先生は、集落の中にいる化身の捜索と討伐を…神代かじろさんと古夜ふるやさん、桜矢おうやさんと悠河はるかさんは隣の集落近くにある【迷いの想い出】本体へ向かう事になった。
――【迷いの想い出】のある施設の扉を開ける為には、私の協力が必要だからと桜矢おうやさん達と行動を共にする。
その施設のセキュリティなのか…〈咎人〉の血脈の者が鍵であり、自分達では開けられないのだと神代かじろさんが言っていた。

「危ないから、本当は真那まなちゃんを連れていきたくないんだけど…」

申し訳なさそうに言った桜矢おうやさんは、更に小声で続ける。

「もしもの時の為に九條くじょう達がセキュリティの変更もしようとしたけど、できなかったそうだから――本当にごめん、絶対に守るから」
「ううん、私で力になれるなら…協力します」

辛うじて聞きとれた言葉に、私はゆっくりと首を横にふって答えた。
私の返事に、安心したように桜矢おうやさんは頷いて「ありがとう」と微笑んだ。

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