8話:真実の刃
机の上に、幼い私と亡くなった母の写っている写真の入った写真立てが置かれてるのにふと気がついた。
幼い私が笑いながら、カメラを持つ父に向けて指差している。
この時、父の頭に蝶が止まっていて面白かったんだ。
……あれ?でも、写真は撮り直して私と母が笑顔で抱きしめ合っているものを父は飾っていたような…?
でも、ここに置かれているのは思い出だからとアルバムに貼られていたはず。
幼い私が指差す方向を見やる…と、背後の戸棚に学生時代の両親が一緒に写っている写真が飾られていた。
その写真には私も通う国立の学校の門前で照れている父と、小箱を手に嬉しそうに笑う母の姿が写されているのだけど…確か、この小箱って母の宝物だったような――もしかして、父から母へ贈られたものなのかな?
母が亡くなった後、父はこれを形見として持っていた大切なもの…でも、この小箱は何処に仕舞ってあるんだろう?
周辺をじっくり観察すると、写真立ての置かれている棚の奥が少しだけズレていた。
…こういうのって、隠し棚と言うんだっけ?
ゆっくりとズレた部分を外してみると、そこには一通の手紙と形見の小箱が置かれていた。
手紙の宛名と差出人を確認すると、父から私へ宛てた手紙だった。
すぐ読みたいけど、今は時間がない…持ち帰れるのかわからないけど、ポケットに手紙を入れておこう。
…もし持ち帰れなくても、全てが終わってから探しに行こう。
次に、小箱を調べてみた――蓋の部分に描かれているのは、白い花…確か、この花はエーデルワイスだ。
母はこの花が好きだったんだけど、よく見たらこれ手作りのものみたい。
……という事は、父お手製の作品なのかな。
ロックを外して小箱を開けると、中には桜の花が描かれた四角いプレートとメモ用紙が1枚だけ。
メモにはこう書かれていた…『世界が半分消えた日』と。
世界が半分消えた日――これって、あれだよね?
旧暦の時代の終わり、という事なんだろうな……でも、それが何を意味しているんだろう?
あー…そういえば、旧暦の時代は月の言い方が今と違ったんだよね。
世界が半分消えた日は、屑 月25日だったと言われている…つまり、旧暦時代の言い方だと12月25日――でも、それが四角いプレートと何か関係あるのかな?
プレートと一緒に入っていたという事は、同じく意味のあるヒントなんだと思う。
凹み部分にプレートをはめれば、おのずと答えはわかるはず。
急いで廊下の、絵画のあった場所の前に戻った。
手に持つ四角いプレートを凹み部分にはめ込むと、プレート部分に数字を入力できる画面が現れたので押してみる。
入力する数字は『1225』…違ったら、旧暦最後の年を入れてみれば大丈夫だと思った。
運良く『1225』で当たって、画面に『可』の文字が表示された――つまり、これで何かが起こる。
周囲の様子をうかがっていると、ゆっくりとプレートをはめたところの下の壁がせり上がってきた。
壁が上がりきると、薄っすらと明かりの灯った地下へ続く階段が現れた――きっとここに、桜矢 さんがいる。
足元に気をつけながら、階段を下りると見た感じ重そうな扉の前にたどり着いた。
鍵がかかっていると思ったけど、意外と簡単に扉は開いたのでひと安心しながら中に入る。
広い室内には寝台だけで他には何もない、本当に殺風景な部屋だった。
寝台の上に誰かが座っているのに気づいて、恐る恐る近づきながら声をかける。
「…桜矢 、さん」
金茶色の髪に深緑色の瞳をしているその青年は、驚いたようにこちらを見た。
「真那 ちゃん…もしかして、思い出したの?」
彼の言葉に、私は静かに頷く。
すべてではないけど、ある程度思い出している事を桜矢 さんは気づいたんだと思う。
「そっか…不安だったよね、ごめん」
申し訳なさそうに俯く桜矢 さんは、眉を下げて呟いた。
――確かに不安な事はたくさんあったけど、それがすべて桜矢 さんだけのせいだとは考えていない。
だから、首を横にふって彼の言葉を否定した。
「…私は大丈夫です。確かに困った場面もたくさんあったけど、こんな私と友達になってくれた水城 さんが――」
そこで言葉に詰まってしまった……だって私は、彼女を救えなかったから。
「……水城 、と友達になったんだね」
水城 さんを知っているのかと首をかしげる私に、彼は呟くように言葉を続けた。
「なんとなく状況を察したのか、僕を助けようとしてくれたんだ。自分も取り込まれているというのに……」
彼女は先祖返り故にあれ に取り込まれてしまったのだろう、と。
――先祖返り…?
そういえば『共鳴する因子』を持っているから力がある、という話だったよね。
水城 さんのご先祖様は、一体どんな人だったのだろう……?
「そういえば…真那 ちゃん、琴音 に会ったんだね?」
「えっ、琴音 さんって…確か天宮 様の、亡くなられた姪御さんですよね?」
私が『妹さん』だと勘違いしていた時、天宮 様に教えられたのだ。
『……ひとつだけ、訂正させてください。琴音 は…貴女をここに導いた、あの少女は私の妹ではありません。何処かに封じられている、姪の写し身――もう、亡くなっているんです…冥国で』
もしかして、水城 さんは天宮 様の姪御さんの子孫とかなのかな?
「ううん…琴音 の、ではなく琴音 の妹――〈狭間の者〉と人の子孫になるんだ」
たまたま両親の血筋に〈狭間の者〉がいた為、先祖返りしたのだろう…と桜矢 さんは続けた。
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幼い私が笑いながら、カメラを持つ父に向けて指差している。
この時、父の頭に蝶が止まっていて面白かったんだ。
……あれ?でも、写真は撮り直して私と母が笑顔で抱きしめ合っているものを父は飾っていたような…?
でも、ここに置かれているのは思い出だからとアルバムに貼られていたはず。
幼い私が指差す方向を見やる…と、背後の戸棚に学生時代の両親が一緒に写っている写真が飾られていた。
その写真には私も通う国立の学校の門前で照れている父と、小箱を手に嬉しそうに笑う母の姿が写されているのだけど…確か、この小箱って母の宝物だったような――もしかして、父から母へ贈られたものなのかな?
母が亡くなった後、父はこれを形見として持っていた大切なもの…でも、この小箱は何処に仕舞ってあるんだろう?
周辺をじっくり観察すると、写真立ての置かれている棚の奥が少しだけズレていた。
…こういうのって、隠し棚と言うんだっけ?
ゆっくりとズレた部分を外してみると、そこには一通の手紙と形見の小箱が置かれていた。
手紙の宛名と差出人を確認すると、父から私へ宛てた手紙だった。
すぐ読みたいけど、今は時間がない…持ち帰れるのかわからないけど、ポケットに手紙を入れておこう。
…もし持ち帰れなくても、全てが終わってから探しに行こう。
次に、小箱を調べてみた――蓋の部分に描かれているのは、白い花…確か、この花はエーデルワイスだ。
母はこの花が好きだったんだけど、よく見たらこれ手作りのものみたい。
……という事は、父お手製の作品なのかな。
ロックを外して小箱を開けると、中には桜の花が描かれた四角いプレートとメモ用紙が1枚だけ。
メモにはこう書かれていた…『世界が半分消えた日』と。
世界が半分消えた日――これって、あれだよね?
旧暦の時代の終わり、という事なんだろうな……でも、それが何を意味しているんだろう?
あー…そういえば、旧暦の時代は月の言い方が今と違ったんだよね。
世界が半分消えた日は、
プレートと一緒に入っていたという事は、同じく意味のあるヒントなんだと思う。
凹み部分にプレートをはめれば、おのずと答えはわかるはず。
急いで廊下の、絵画のあった場所の前に戻った。
手に持つ四角いプレートを凹み部分にはめ込むと、プレート部分に数字を入力できる画面が現れたので押してみる。
入力する数字は『1225』…違ったら、旧暦最後の年を入れてみれば大丈夫だと思った。
運良く『1225』で当たって、画面に『可』の文字が表示された――つまり、これで何かが起こる。
周囲の様子をうかがっていると、ゆっくりとプレートをはめたところの下の壁がせり上がってきた。
壁が上がりきると、薄っすらと明かりの灯った地下へ続く階段が現れた――きっとここに、
足元に気をつけながら、階段を下りると見た感じ重そうな扉の前にたどり着いた。
鍵がかかっていると思ったけど、意外と簡単に扉は開いたのでひと安心しながら中に入る。
広い室内には寝台だけで他には何もない、本当に殺風景な部屋だった。
寝台の上に誰かが座っているのに気づいて、恐る恐る近づきながら声をかける。
「…
金茶色の髪に深緑色の瞳をしているその青年は、驚いたようにこちらを見た。
「
彼の言葉に、私は静かに頷く。
すべてではないけど、ある程度思い出している事を
「そっか…不安だったよね、ごめん」
申し訳なさそうに俯く
――確かに不安な事はたくさんあったけど、それがすべて
だから、首を横にふって彼の言葉を否定した。
「…私は大丈夫です。確かに困った場面もたくさんあったけど、こんな私と友達になってくれた
そこで言葉に詰まってしまった……だって私は、彼女を救えなかったから。
「……
「なんとなく状況を察したのか、僕を助けようとしてくれたんだ。自分も取り込まれているというのに……」
彼女は先祖返り故に
――先祖返り…?
そういえば『共鳴する因子』を持っているから力がある、という話だったよね。
「そういえば…
「えっ、
私が『妹さん』だと勘違いしていた時、
『……ひとつだけ、訂正させてください。
もしかして、
「ううん…
たまたま両親の血筋に〈狭間の者〉がいた為、先祖返りしたのだろう…と
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