8話:真実の刃

気を悪くした天宮あまみや様につねられた頬をさすりながら、問題発言をした十紀とき先生は苦笑している。
――まぁ、先生の言葉がえらく角のあるものだったから仕方ないのかもしれないけど……
天宮あまみや様の行動を止めなかった神代かじろさんは、反省していない様子の先生を見て呆れたように肩をすくめるだけだった。

椅子を私のそばに運んできた十紀とき先生は、座るよう勧めてから説明をはじめる。

「とりあえず…神代かじろ天宮あまみやの力を同調させて桜矢おうやの捕らわれている場所近くへ真那加まなかさんの意識を送るので、そこを探して桜矢あいつに接触してくれ」

説明しながら私の右手をとった先生は、ベッドの上で横たわる桜矢おうやさんの左手に触れさせた。
意味がわからず首をかしげていると彼の手を握っているよう言った先生は、視線だけを天宮あまみや様と神代かじろさんに向けて合図する。
それに頷いた神代かじろさんが傍らにいる天宮あまみや様の手をいざなうようにして桜矢おうやさんの胸元に、自分の手と一緒に置いた。

神代さんと天宮様ふたりの周囲に不思議な重力が働いているのか、神代かじろさんの服や天宮あまみや様の神衣しんいがゆったりと動いてる。

「準備が整いましたので、彼女を送りだす役目は十紀ときにお願いします…天宮あまみや様、どうかお力添えを――」
私達こちらが【迷いの想い出あの娘】による妨害を、確実に抑えられるのは一時間半だけ…それ以上になると」

神代かじろさんの言葉に頷いて答えた天宮あまみや様が、私の方へ顔を向けて言葉を続ける――貴女の身の安全は保障できません、と。
つまり、制限時間を越えてしまうと【迷いの想い出】なるものに生命を奪われるのだと理解できた。
……だって、あの子・・・は私を憎んでいるようだから。

あまり接点はなかったと思うんだけどな、という言葉が頭に浮かんだけど…すぐにどうして接点がなかったのかわからなくなってしまった。
もしかすると、桜矢おうやさんが施したという術の影響なのかもしれないけど……

深呼吸をして心を落ち着かせていると、十紀とき先生の手が私の左肩に置かれた。

「これから送りだす、のだが…真那加まなかさん、大丈夫か?」
「ぇ…ぁ、はい」

私の異変に気づいた先生から声をかけられ、慌てて返事をする。
…また何か思いだしそうになってたから、心配かけてしまったのかもしれない――だから、何でもないと首を横にふった。

十紀とき先生から改めて説明を受けてわかったのだけど、私は【迷いの想い出】の造りだした空間にこれから向かうらしい。
そこがどういう場所になのか訊ねると、今は・・千森ちもりの隣にあった集落を模倣しているのだという……『今は』という事は、毎回違う空間を作っているのだろうか。
千森ちもりと変わらない広さの集落だというので迷う事はなさそう、かな?

目を閉じるように促され、私はゆっくりと瞼を閉じた。
左肩に置かれた先生の手から暖かな力が流れ込んでくるのに身を任せ、私の意識はゆっくりと沈んでいくのを感じた。


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