7話:記憶の海風

彼女の答えに、八守やかみさんは疲れたように大きなため息をついた。

「……桜矢おうや悠河はるかの失態以前に、実湖みこの【祭司の一族】達が失態をやらかしていたのか」

えっと…なんだか、申し訳なく感じてしまったんだけど何故?
理由それはわからないけど、私は心の中で八守やかみさんに謝罪した。

そんな私の心の声が聞こえていた天宮あまみや様だけは苦笑しながら、気にするなと言うように首を横にふる。
……天宮あまみや様に届いたという事は、八守やかみさん本人にも届いているのだと思う――それで、怒りを少し鎮めてもらえればいいな。


それよりも、この状況をどうするべきか…思考で逃避している場合じゃないんだった。
どうしたらいいのだろう…私には『力』がないから、彼女の霧を引きはがせない。
――昔、彼には『力』なんかなくても大丈夫だって言われたけど…今となっては、無力な自分が憎らしく感じてしまう。

彼女を包み込んで、守るかのように存在する黒い靄…あれは、武器のような役割も持っている。
想像でしかないけど、あの黒い靄に捕まるとを殺されて身体を化身にされてしまうんだろう……

天宮あまみや様を狙った理由は、天宮あまみや様の持つ特殊な力が目的だった。
何も持たない私を狙う理由は、存在自体許せない消したいから……
ただ私を殺したい理由わけだけがわからないけど、もしかしたら知らず知らずのうちに何かしてしまったのかもしれない。

地面に降ろされた天宮あまみや様が、刀の柄に手を添え警戒している八守やかみさんの背に触れて小さく頷いた。
一体、何を伝えたのだろう…それはわからないけど、それを合図に八守やかみさんは抜刀して彼女に攻撃を仕掛ける。

だけど、八守やかみさんの持つ刀の切っ先を彼女は黒い靄を使って瞬時に防いだ。
ほんの一瞬睨み合った2人だったけど、すぐに八守やかみさんが返す刀で黒い靄を斬り裂いていく。
……だけど、彼女は黒い靄を更にだすと攻撃を仕掛けていった。
――多分、今彼女の意識は八守やかみさんだけに向いているんだろう。

2人の攻防を見ているだけしかできない私の肩に触れた天宮あまみや様が、耳元で囁きかけるように言った。

「…八守やかみが隙をついて鍵を奪うので、それを持って急いで医院へ戻りますよ」

彼女が診察室を襲撃してきた理由のひとつに、ある病室・・・・の鍵を盗み出すのもあったらしい。
そして、あんなに荒らしたのは十紀とき先生に気づかれないよう時間稼ぎの為だったと天宮あまみや様が教えてくれた。

……確かに、あれだけ荒らしていたら鍵ひとつ無くなっているとはすぐに気づけないかもしれない。
でも、彼女はどうして病室の鍵を手に入れようとしたのだろう?
その病室に一体何が……彼女にとって、何か重要なものでもあるのかな?

「あの鍵さえ取り戻せれば…無理矢理にでも、貴方をアレ・・から引き剥がしますから――」

虚空に向けて呟いた天宮あまみや様に、思わず私は首をかしげてしまった…けど、多分そこに誰かいたのだろう。
私には見えない、その誰かに心の準備だけはしておけと天宮あまみや様は語りかけていたんだろうな。
ところでだけど、天宮あまみや様達…色々というか、もうずっと説明が不足していると思うんだよね。
天宮あまみや様と八守やかみさんの中ではわかっているのだろうけど、私にはまったく伝わってないです。
……つい、そんな心境になってしまった。


***

4/11ページ
いいね