1話:喪失の欠片

「――……良いな、これは決定事項だ」

里長がお茶を飲みながら、集まっている者達に言い放った。
集まっている者達は、おそらく集落で有力者達なのだろう……

里長から見て右側に座る者達は了承しているのか、満足げに頷いている。
反対に、左側に座る者達は不満げな様子だ。

「…少々、決め方が強引過ぎませんか?」

異を唱えたのは、里長の左隣に座る銀髪の青年・神代かじろだ。
神代かじろに同調するように、左側に座る者達も頷いている。

「早過ぎるものか。神代かじろ、貴様が何を考えているのかは知らぬが……これだけは譲れぬな」
「完全に決めるのが早い、と言っているんですよ?僕は……」

里長の睨みをものともせず、神代かじろは逆に冷たい視線を向けていた。
この二人の険悪な様子に割って入ったのは、少しふくよかな青年だ。
お菓子を食べながら、神代かじろに言う。

神代かじろ、お前は里長の言うとおりにすればいい――ったく、お前があの時邪魔をしなければな」
「あそこであんな事をすれば、この集落の抱える秘密も表沙汰になるかもしれなかったんだ……神代かじろがああしなければ、お前も里長も消されていたかもな」

神代かじろの近くに座る十紀ときは、嘲笑うように言うと自分のお茶を飲む……が、もう全部飲んでしまっていたらしく湯呑みは空っぽであった。
近くに置いてある神代かじろの湯呑みを一瞬で確認すると、それを奪って飲んだ。

「…十紀とき、お茶のおかわりならそこにあるでしょう?」

神代かじろが苦笑しながら、十紀ときの近くに置いてある急須を指差す。

「ん、そうだな……」

頷いて答えた十紀ときは、面倒くさげに急須を取ると神代かじろに渡した。

「…だと思いましたよ」

神代かじろは彼の予想通りの行動に、思わず苦笑する。
十紀ときが差し出した急須を、神代かじろのそばで控えていた青みのある黒髪の青年従者が受け取った。
そして、十紀とき神代かじろ――2人の湯呑みにお茶を淹れる。

「ああ、すまない…話が脱線してしまったな」

あまり反省していない十紀ときは、青年に軽く謝罪した。
その態度が気に入らなかったのか…青年は手に持っていたお菓子をひとつ、十紀ときに向けて投げつける。

「……前々から、お前には腹をたてていたんだ!何でお前みたいな…」
「やめなさい。そんな子供じみた真似はよしなさいな」

怒りに我を忘れかけている彼を制するように、ゆったりとウェーブした青色の髪の女性が言った。

十紀とき先生…貴方も、いい加減にしなさいな。お養父とう様や神代かじろ様、ここにいる者達も困っておいででしょう?」
「私は、至って普通に接しているのだがな……」

困った表情の十紀ときは、女性に答える。

「次は気をつけよう……ところで、何をどこまで話していたのか?」
「お養父とう様の決め事に、神代かじろ様が異を唱えられたあたりですわ」

女性は十紀ときの疑問に答えると、神代かじろの傍へ近づく。

「わたくしら神代かじろ様が何故反対なさるのか知りたいですわ……」

そう言いながら、背後から神代かじろを抱きしめようとするが…神代かじろの傍に控えている従者の青年が止めたので抱きしめられなかった。

「まったく…忘れたのか?神代かじろに触れてはならない掟に……」

しばらく黙って様子を見ていた十紀ときが、苦笑しながら女性に言う。
女性は不機嫌そうに、邪魔をした青年がの頭をたたいた。

「忘れてはいませんわ!十紀ときが羨ましいですわ、触れる事が許されていて……」
「…それはどうも」

イライラした様子で言う女性に目を向けず、感情もなく答えた十紀ときは更に言葉を続ける。

「せっかく話が戻りかけていたというのに、お前が違う方向に脱線させてどうする?……神代かじろ、続けろ」
_

5/7ページ
いいね