6話:狂気の石碑
首をかしげている私を見た八守 さんが呆れた様子で、周囲をうかがっている天宮 様に声をかけた。
「…もしや、お話になられたのですか?」
「隠しても仕方ないでしょう…どちらにしろ、桜矢 を取り戻すには彼女の助力が必要なのですから」
囁くように答えた天宮 様が、また小さく咳をする。
多分、まだ天宮 様の体調はよくないんだと思う…もしかすると、さっきの怪我でまた体調を悪くさせたのかもしれない。
少し考え込んだ八守 さんは、私が持つナイフに気づいて何か納得したように頷いた。
「わかりました…その通りにいたしましょう。お前もそれでいいな?」
後半部分は私に向けて言っているのか、と思ったけど…八守 さんは違う所に向けて言っているみたい。
誰がいるのかわからないけど、医院に現れた見えない人がそこにいるのかな?
そんな私達の様子を、ため息をついて様子をうかがっていた天宮 様が八守 さんの袖を引いた。
「そこの…傍の小屋に誰かいますね?」
「はい、医院にいた理哉 という娘です…足手まといになるので、全て終わるまであそこにいてもらう予定です」
八守 さんが答えると、天宮 様はゆっくりと小屋の方へ近づき…指先についていた自分の血を小屋の扉に塗る。
そして、こちらに引き返すと「これでしばらくは大丈夫でしょう」と言った。
――後で訊ねたら、血を塗っておく事で簡易的にはられた結界によって小屋が護られるのだと教えてくれた。
……そういえば、医院の部屋にも同じ方法で結界がはられていたよね。
「それでは…待ちましょうか。医院を襲った、もうひとりの化身が訪れるのを――」
八守 さんの傍らまで移動した天宮 様が言う…今動いている化身達の中心となる存在がこちらに来るのを待とう、と。
――少しして、何処からか複数の笑い声が聞こえてきた。
たくさんの笑い声の中に聞き覚えのある女の子の声がしているのに気づいて、怖かったけど耳をそばだててみる。
そのひとつは確か理哉 さんのお姉さんだと思うんだけど、もうひとつは――それに気づいた時、私の身体に悪寒が走った。
次に、とても軽い足音が聞こえてくる……私と天宮 様が歩いてきた、医院の方向から。
笑い声だけだと何人いるかわからないけど、こちらに来ているのは足音からしてひとりだけみたいだ。
一体何者なのか、わからないけど――警戒した方がいい雰囲気だと感じる。
……だから、ナイフの柄 を無意識に握り締めて自分を奮い立たせた。
「どうしたの、真那 ちゃん?」
不意に聞こえてきた優しい彼女 の声……
でも、どうしてそっち から聞こえてくるの?
信じたくなかった事実が、今私達の前に現れた。
……わかっていた事だけど、こうして実際に対峙するとなるとショックが大きすぎる。
天宮 様から医院を襲った化身の正体を教えてもらった時――こう、天宮 様が呟いていた。
「もう本人の自我は残っていないでしょう…彼女は『共鳴してしまう因子』をより多く持って生まれたようですから」
もう自我はない…という事は、もう私の知っている彼女ではないのだろう。
――わかっていても、私は彼女の名を呼びかけるように呟いた。
「…水城 さん」
その瞬間、彼女――水城 さんが私達の前に姿を現した、にっこりと微笑みながら。
でも、その微笑みは私の知る水城 さんのものとどこか違っていた。
――そう、あの笑い方はあの子 の……
そう思ったと同時に、水城 さんの足元から黒い靄のようなものが彼女を包み込むように現れた。
自分を護るかのような黒い靄のようなものを、うっそりと眺めている水城 さんの姿――
…その禍々しい光景を、私はただ何も言えず見ている事しかできなかった。
「…もしや、お話になられたのですか?」
「隠しても仕方ないでしょう…どちらにしろ、
囁くように答えた
多分、まだ
少し考え込んだ
「わかりました…その通りにいたしましょう。お前もそれでいいな?」
後半部分は私に向けて言っているのか、と思ったけど…
誰がいるのかわからないけど、医院に現れた見えない人がそこにいるのかな?
そんな私達の様子を、ため息をついて様子をうかがっていた
「そこの…傍の小屋に誰かいますね?」
「はい、医院にいた
そして、こちらに引き返すと「これでしばらくは大丈夫でしょう」と言った。
――後で訊ねたら、血を塗っておく事で簡易的にはられた結界によって小屋が護られるのだと教えてくれた。
……そういえば、医院の部屋にも同じ方法で結界がはられていたよね。
「それでは…待ちましょうか。医院を襲った、もうひとりの化身が訪れるのを――」
――少しして、何処からか複数の笑い声が聞こえてきた。
たくさんの笑い声の中に聞き覚えのある女の子の声がしているのに気づいて、怖かったけど耳をそばだててみる。
そのひとつは確か
次に、とても軽い足音が聞こえてくる……私と
笑い声だけだと何人いるかわからないけど、こちらに来ているのは足音からしてひとりだけみたいだ。
一体何者なのか、わからないけど――警戒した方がいい雰囲気だと感じる。
……だから、ナイフの
「どうしたの、
不意に聞こえてきた優しい
でも、どうして
信じたくなかった事実が、今私達の前に現れた。
……わかっていた事だけど、こうして実際に対峙するとなるとショックが大きすぎる。
「もう本人の自我は残っていないでしょう…彼女は『共鳴してしまう因子』をより多く持って生まれたようですから」
もう自我はない…という事は、もう私の知っている彼女ではないのだろう。
――わかっていても、私は彼女の名を呼びかけるように呟いた。
「…
その瞬間、彼女――
でも、その微笑みは私の知る
――そう、あの笑い方は
そう思ったと同時に、
自分を護るかのような黒い靄のようなものを、うっそりと眺めている
…その禍々しい光景を、私はただ何も言えず見ている事しかできなかった。