6話:狂気の石碑
そういえば、天宮 様って…さっきから気になったんだけど、盲目とは思えないくらい――まるで周囲が見えているみたいに、場所や状況などを正確に把握していて不思議だな。
もしかして、それも〈古代種〉の力によるものなのかしら?
だけど、それを天宮 様に訊ねるのは失礼に当たるような気がした。
「そんな風に思わなくても大丈夫ですよ…今、私の力が暴走に近い状態でして全て聞こえてしまうのです――外の音はもちろん、内の音まで」
今いるこの病室にはられている結界のおかげで酷くないけど、音の洪水に飲み込まれそうな感じなのだという……
そういえば、検査室で言っていたよね…確か「琴音 のおかげで飲み込まれずに済んだ」って。
小さく頷いた天宮 様は、少し考え込みながら言葉を続けた。
「そうですね…簡単に説明すると、私達〈古代種〉には精神感応能力があり――助けていただいた時にも説明しましたが、私はその力が誰よりも強い。なので、この目は何も映さずとも他の者の目が映す光景で知っているのです」
「…じゃあ、さっきいたという人の事も?」
私には見えなかったその人の姿も、その力で見ていたのかと訊ねたら天宮 様は頷いて答える。
「貴女の目を通してではなく、桜矢 本人のを借りました…〈咎人〉の子孫達や人間 では、見えませんので」
「そうなのですね、あの……」
頭の痛みで訊ねられなかった事を口にしようとした瞬間、天宮 様が私の口元に人差し指を添えると言葉を止めた。
そして、「今はやめておきなさい」と言って首を横にふる。
もしかすると、また頭痛が起こると天宮 様は伝えたかったのかもしれない……
それに、多分すでに知っているから止めたんだろうな。
――もし思い出した後もわからなかったら、その時は訊ねれば大丈夫だよね?
そんな事を考えていたら、天宮 様が扉の方を指差すと小声で囁いた。
「…いいですか、何があってもあちらの方だけを見ていなさい。決して、目を逸らしてはいけませんよ」
どういう事なのかわからないけれど、扉の方へ目を向ける――と同時に、天宮 様が私の隣に並ぶように立った。
その瞬間、扉が開いて誰かが入ってきた…んだけど、それが誰なのか確認できず。
いや、だって…突然だったし、天宮 様が身に着けていたケープを侵入者に投げかけて…相手が怯んだ隙に、そのまま後ろ手に拘束しながら引き倒したから。
手際がいい、と言うべきか…お強いんですね、天宮 様――
驚きのあまり何も言えずにいる私に天宮 様がにっこり微笑みながら答えた後、拘束している侵入者にも声をかける。
「幼い頃から色々ありまして、嫌がる八守 に教えてもらいました――ところで、誰の許しを得ての凶行ですか?」
「……」
侵入者の頭にかかっていたケープをとった天宮 様が、その顔を私の方に見せた。
……その侵入者の正体は、私自身も怖い思いをさせられた鳴戸 さんだった。
彼は状況が理解できていない上に拘束された痛みで、顔をしかめながら私を睨みつける。
その表情がなんだか怖くて、思わず身をすくめてしまった。
天宮 様が声色は優しいけど、怒りをにじませながら私の代わりに鳴戸 さんに訊ねる。
「おや、睨みつける元気はありますか…この霧深い中、よく穢されず無事に来れたものです。褒めて差し上げますが、私の質問に答えなさい――誰の許しを得ての凶行ですか?」
言葉を重ねて質問した天宮 様の存在に、初めて気づいたのだろう…鳴戸 さんは、少し驚いた表情を浮かべていた。
というか…この状況で、今まで気づいていなかったのかしら?
私と天宮 様を交互に見た鳴戸 さんが、口をパクパクと開閉している。
そして、天宮 様の方に目を向けると慌てたように弁解しはじめた。
「な、何で天宮 様がこちらに…神代 の屋敷におられるはずではっ?」
「まず言うべき事はそれですか?私が何処で何をしようと、貴方達には関係ないと思うのですが…で、最後のチャンスをあげましょう――私の質問に答えなさい」
後半部分の声音は、確実にお怒りになっている雰囲気しかなかった……
天宮 様の怒りを直接あてられている鳴戸 さんは、顔色を悪くさせているようだ。
さ、最後のチャンス…って、何をするつもりなのだろう?
――というか、鳴戸 さんが隠しても天宮 様には全てお見通しなのではないかしら?
ぁ、もしかして私がわかるように訊ねてくれているのかな?
そんな事を考えていたら、鳴戸 さんが慌てたように話しはじめた。
「お待ちください…自分はこの集落の為に、動いていたにすぎませんっ!別に天宮 様に仇なそうとは…」
「この状況では、何とでも言えますよねぇ…で、貴方の他にもいるのでしょう?気配は誤魔化せませんから――全員その場から動かないように、わかりますよね?」
ちらりと廊下の方に顔を向けた天宮 様が、声音を低くした。
私のいる位置からではわからないけど…どうやら、鳴戸 さんの他に誰かがいるみたい。
鳴戸 さんは天宮 様を傷つける意思はない、と言っていたけど…もしかして、彼らの狙いは私!?
――どう考えてもそうだよね…でも、何故?
その事実に気づいたら、私の心臓が激しく脈打って痛くなってきた。
…鳴戸さん 達も、もしかして理哉 さんの言っていた事が理由なの?
おそらく、私の顔色が真っ青だったのだろう……
それに気づいた天宮 様が私に声をかけた。
「すみません、また少し配慮に欠けていましたね。とりあえず、この者達のせいでこの部屋の結界が壊されました…なので、そこのシーツを取っていただけますか?」
シーツをどうするのだろうか…?と思ったけど、私は震える身体に鞭打ちながらベッドからシーツを取って天宮 様に手渡す。
鳴戸 さんを拘束しながら器用に受け取った天宮 様が、シーツをねじって縄のようにすると彼の腕を縛り上げた。
そして、抵抗できない鳴戸 さんの首に手刀で一撃与えて気を失わせる。
「…さて、他の者達もわかっていると思いますが――邪魔しないでくださいね。何か言いたげですが、これ以上私を怒らせないでください」
そう言った天宮 様が私の袖を引く…おそらく、この場所から移動したいのだろう。
私は天宮 様に腕を引かれながら病室を出ると、壁に身を寄せてこちらに目を向けている人が数人いた。
…皆、困惑した表情を浮かべて天宮 様と私の様子をうかがっているみたい。
階段の手前で、不意に天宮 様が足を止める…と、そんな彼らに向けて声をかけた。
「――〈咎人〉の血を引く者達よ…私は、お前達を赦したわけではない。お前達の罪は、決して消えやしない…それだけは、忘れないでくださいね」
その言葉を聞いた彼らは青ざめ、天宮 様から目を逸らした。
まるで自分達の罪から目を逸らしているみたいだな、とこの時感じた。
でも…それは、私も同じなのかもしれない。
***
もしかして、それも〈古代種〉の力によるものなのかしら?
だけど、それを
「そんな風に思わなくても大丈夫ですよ…今、私の力が暴走に近い状態でして全て聞こえてしまうのです――外の音はもちろん、内の音まで」
今いるこの病室にはられている結界のおかげで酷くないけど、音の洪水に飲み込まれそうな感じなのだという……
そういえば、検査室で言っていたよね…確か「
小さく頷いた
「そうですね…簡単に説明すると、私達〈古代種〉には精神感応能力があり――助けていただいた時にも説明しましたが、私はその力が誰よりも強い。なので、この目は何も映さずとも他の者の目が映す光景で知っているのです」
「…じゃあ、さっきいたという人の事も?」
私には見えなかったその人の姿も、その力で見ていたのかと訊ねたら
「貴女の目を通してではなく、
「そうなのですね、あの……」
頭の痛みで訊ねられなかった事を口にしようとした瞬間、
そして、「今はやめておきなさい」と言って首を横にふる。
もしかすると、また頭痛が起こると
それに、多分すでに知っているから止めたんだろうな。
――もし思い出した後もわからなかったら、その時は訊ねれば大丈夫だよね?
そんな事を考えていたら、
「…いいですか、何があってもあちらの方だけを見ていなさい。決して、目を逸らしてはいけませんよ」
どういう事なのかわからないけれど、扉の方へ目を向ける――と同時に、
その瞬間、扉が開いて誰かが入ってきた…んだけど、それが誰なのか確認できず。
いや、だって…突然だったし、
手際がいい、と言うべきか…お強いんですね、
驚きのあまり何も言えずにいる私に
「幼い頃から色々ありまして、嫌がる
「……」
侵入者の頭にかかっていたケープをとった
……その侵入者の正体は、私自身も怖い思いをさせられた
彼は状況が理解できていない上に拘束された痛みで、顔をしかめながら私を睨みつける。
その表情がなんだか怖くて、思わず身をすくめてしまった。
「おや、睨みつける元気はありますか…この霧深い中、よく穢されず無事に来れたものです。褒めて差し上げますが、私の質問に答えなさい――誰の許しを得ての凶行ですか?」
言葉を重ねて質問した
というか…この状況で、今まで気づいていなかったのかしら?
私と
そして、
「な、何で
「まず言うべき事はそれですか?私が何処で何をしようと、貴方達には関係ないと思うのですが…で、最後のチャンスをあげましょう――私の質問に答えなさい」
後半部分の声音は、確実にお怒りになっている雰囲気しかなかった……
さ、最後のチャンス…って、何をするつもりなのだろう?
――というか、
ぁ、もしかして私がわかるように訊ねてくれているのかな?
そんな事を考えていたら、
「お待ちください…自分はこの集落の為に、動いていたにすぎませんっ!別に
「この状況では、何とでも言えますよねぇ…で、貴方の他にもいるのでしょう?気配は誤魔化せませんから――全員その場から動かないように、わかりますよね?」
ちらりと廊下の方に顔を向けた
私のいる位置からではわからないけど…どうやら、
――どう考えてもそうだよね…でも、何故?
その事実に気づいたら、私の心臓が激しく脈打って痛くなってきた。
…
おそらく、私の顔色が真っ青だったのだろう……
それに気づいた
「すみません、また少し配慮に欠けていましたね。とりあえず、この者達のせいでこの部屋の結界が壊されました…なので、そこのシーツを取っていただけますか?」
シーツをどうするのだろうか…?と思ったけど、私は震える身体に鞭打ちながらベッドからシーツを取って
そして、抵抗できない
「…さて、他の者達もわかっていると思いますが――邪魔しないでくださいね。何か言いたげですが、これ以上私を怒らせないでください」
そう言った
私は
…皆、困惑した表情を浮かべて
階段の手前で、不意に
「――〈咎人〉の血を引く者達よ…私は、お前達を赦したわけではない。お前達の罪は、決して消えやしない…それだけは、忘れないでくださいね」
その言葉を聞いた彼らは青ざめ、
まるで自分達の罪から目を逸らしているみたいだな、とこの時感じた。
でも…それは、私も同じなのかもしれない。
***