5話:実りの羽根
――あなた達の負け…いい加減に諦めなさい。私を失望させないで。
真っ白な扉に、赤い文字で書かれた謎の言葉 …これは、理哉 さんのお姉さんが書いたものだという。
一体何の事を指しているのか、それはわからない。
わからないけど、悪意を持って私達を追いつめようとしているのだけは理解できた。
そして、霧深い森から無事に戻ってきたひとりの女の子――彼女が医院に運び込まれたのを見た理哉 さんは、病室を飛び出すように行ってしまう。
私も少し遅れて理哉 さんの後を追った…んだけど、その途中で十紀 先生と会った。
「…十紀 先生――」
「あぁ、真那加 さん…何かあったのか?」
慌てていた私の様子に、十紀 先生は少し驚いたようで目を丸くさせながら訊ねる。
何があったのか説明しようと思ったけど、理哉 さんがここに来ている事を十紀 先生に伝えていないのに気づいた。
(扉に現れた赤い文字とたくさんの笑い声…理哉 さんのお姉さんの件を説明する前に、理哉 さんがいる事を話さないと――)
おそらく、十紀 先生は慌てて駆けていった理哉 さんとすれ違っているはず。
私が呼んだ事を隠すのはおかしいし…それに、隠したってすぐわかる話だしね。
そう考えた私は理哉 さんをここに呼んだ事、その時に病室で何があったのか――そして、理哉 さんが助け出された女の子の所へ向かった事を説明した。
私の拙い説明を聞いた十紀 先生が何度か小さく頷くと、私をすぐ近くの空き部屋に案内して困った表情で呟く。
「――結界に綻びができ…今朝の件でさらに咎人の血を取り込み、アレ が一時的に力をつけたというのか?」
その言葉の意味は、よくわからなかった…だけど、なんとなくあの声の存在達を指しているのはわかった。
ただ、咎人の血 というものがどういう意味で誰を指しているのかまではまったくわからないけど――
思案していた十紀 先生はふと私の存在を思い出したようでこちらを向いた。
「…申し訳ない。それで、理哉 がここにいたわけか」
「は、はい…ごめんなさい、その…勝手をしてしまって――」
十紀 先生は首を横にふると、理哉 さんが向かった方向に視線を向けて口を開く。
「いや、気にしなくて大丈夫――あぁ、そうだ…理哉 ならすぐに戻ってくると思うが、その前に真那加 さんの病室の状況を確認してもいいか?」
理哉 さんが戻ってくる前に、私の病室で起こった出来事――理哉 さんのお姉さんが書いたという赤い文字を確認したいのだと十紀 先生は言う。
私も十紀 先生に、あの赤い文字を見せなければ…と考えていたので、2人で私の病室へ向かった。
病室に着いた私達は、扉の室内側に書かれた赤い文字を確認しようと目を向ける。
――だけど、ここを出るまではあった赤い文字はきれいに消えていた。
驚いて真っ白な扉の側面に触れてみる…けど、汚れも何もなくて。
「ぇ、何で…?」
「………」
何か考え込んでいる十紀 先生は扉を…そして、室内に視線を巡らせていた。
その様子は、まるで何かを探っているようにも見え――
「ちっ…痕跡をわざと残していったのか」
忌々しげに舌打ちした十紀 先生が、ため息をついてから小さく呟いた。
一体どうしたというのだろう…?
廊下に向けて顔を出した十紀 先生は、医院内の何処かにいるであろう穐寿 先生を呼んだ。
しばらくして、穐寿 先生が足早にやって来た。
「…どうされましたか?」
十紀 先生は小声で何かを囁くと、それに答えるように頷いた穐寿 先生が私を病室の外――廊下に出るように誘 う。
訳が分からなくて困惑している私に、十紀 先生が優しく説明してくれた。
「申し訳ない…穐寿 が案内するので、部屋を移動してもらえないだろうか?」
あの異変が起こった事で、この部屋の状態があまり良くないのだという……
十紀 先生は部屋の片づけがあるので残る事となって、少ない荷物を持った私は穐寿 先生の案内でひとつ上の階の――別の部屋に移動した。
部屋にあるベッドの配置は前と同じだから、あまり部屋を移動したという実感はわかない。
…だけど、部屋の空気は前の部屋のものと少しだけ違う気がした――
***
真っ白な扉に、赤い文字で書かれた
一体何の事を指しているのか、それはわからない。
わからないけど、悪意を持って私達を追いつめようとしているのだけは理解できた。
そして、霧深い森から無事に戻ってきたひとりの女の子――彼女が医院に運び込まれたのを見た
私も少し遅れて
「…
「あぁ、
慌てていた私の様子に、
何があったのか説明しようと思ったけど、
(扉に現れた赤い文字とたくさんの笑い声…
おそらく、
私が呼んだ事を隠すのはおかしいし…それに、隠したってすぐわかる話だしね。
そう考えた私は
私の拙い説明を聞いた
「――結界に綻びができ…今朝の件でさらに咎人の血を取り込み、
その言葉の意味は、よくわからなかった…だけど、なんとなくあの声の存在達を指しているのはわかった。
ただ、
思案していた
「…申し訳ない。それで、
「は、はい…ごめんなさい、その…勝手をしてしまって――」
「いや、気にしなくて大丈夫――あぁ、そうだ…
私も
病室に着いた私達は、扉の室内側に書かれた赤い文字を確認しようと目を向ける。
――だけど、ここを出るまではあった赤い文字はきれいに消えていた。
驚いて真っ白な扉の側面に触れてみる…けど、汚れも何もなくて。
「ぇ、何で…?」
「………」
何か考え込んでいる
その様子は、まるで何かを探っているようにも見え――
「ちっ…痕跡をわざと残していったのか」
忌々しげに舌打ちした
一体どうしたというのだろう…?
廊下に向けて顔を出した
しばらくして、
「…どうされましたか?」
訳が分からなくて困惑している私に、
「申し訳ない…
あの異変が起こった事で、この部屋の状態があまり良くないのだという……
部屋にあるベッドの配置は前と同じだから、あまり部屋を移動したという実感はわかない。
…だけど、部屋の空気は前の部屋のものと少しだけ違う気がした――
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