4話:禁断の墓標

水城みずきさんが行方不明になってしまったのは自分のせいだ、と責める理哉りやさんをどう慰めていいのか――言葉が見つからず、私は彼女の背をさするしかできなかった。

そんな時、窓の外から誰かの笑い声が聞こえてきた…それも、すぐ近くから。

初めは私の気のせいか、空耳か…と思ったのだけど――傍にいる理哉りやさんが小さく肩を震わせているので、おそらく彼女も聞こえているのだとわかった。
この笑い声は、2人の女の子…たぶん、私とそんなに年が変わらないような感じもする。

ひとりは聞いた事がある――そう、理哉りやさんに似た女の子の声だと思うけど…もうひとりは、まったく知らない声だ。
理哉りやさんが震えた理由は、お姉さんの声を聞いたからであろうと気づいた。

だけど、窓の外には誰もいるわけがない……だって、私の病室は2階の中央辺りなのだから。

もちろん、ベランダなんてないから人が隠れる事はできない。
目に見えない誰か――少なくとも、理哉りやさんのお姉さんがいるのは間違いないと思う。

どうするか考えていると、ふと天宮あまみや様の言葉を思い出した。


――知っている声がしても、返事をせず…耳を塞ぎなさい。


そうだ…気をつけるように、天宮あまみや様が言っていたんだった。
声が惑わすだけだから、って――

私は、動揺している理哉りやさんの耳元で囁いて教えた…天宮あまみや様からのアドバイスを。

初めは信じられないといった様子で私を見た理哉りやさんも、私が頷いて答えると信じてくれたのか耳を塞いだ。
もちろん、私も耳を塞いで声を聞かないようにする。

…やがて、声と気配が窓から遠ざかっていくような――そんな雰囲気がわかり、私と理哉りやさんは同時にため息をついた。
お互いに何も異変が起こっていないのを確認して、もう一度安堵のため息をつく。

「…何だったのかしら?」

今は何者の気配もしない窓の方に目を向けながら、自然と言葉がこぼれた。
もし、すぐに天宮あまみや様の言葉を思い出さなかったら…私達は、一体どうなっていたのだろうか。
あの気配は――理哉りやさんのお姉さんは、何を訴えに現れたのだろう?

様々な疑問が浮かび上がってくるけど、私にはまったく答えがわからなかった。
多分…理哉りやさんも、私と同じ状態だと思う。

少し落ち着きを取り戻したらしい理哉りやさんは、私の袖を掴んで…ある一点に目を向けていた。
一体どうしたのか…気になって理哉りやさんに声をかける、と彼女はゆっくりと扉の方を指差している。

「あ…あれ、姉様の――」

そちらの方へ視線を向けると、真っ白な扉に赤い文字が浮かび上がっていた。
よく見ると、血のように赤い何かでこう書かれていた……


『あなた達の負け…いい加減に諦めなさい。私を失望させないで』


これを書いたのがお姉さんである、と理哉りやさんは震えながら言う。

「きっと、私が姉様の頼みを聞かなかったから…怒っているんだ」
「そんな…」

水城みずきさんや理哉りやさんの話からしか、実哉みやさんの人柄しかわからない。
でも、妹の手を汚させる事を望んだり…生命の危機にさらしたりなんてしないんじゃないかしら。
――あの文字も、理哉りやさんを追いつめる為のひとつなのかもしれない。

……その時、外で騒がしい声がした。
もしかすると、さっき私達の元に現れた何かが姿を現したのかもしれない。

お互いに顔を見合わせた私達は、慌てて窓の外を覗いてみた。
流石に、窓を開けるのは少し怖かったので――閉めたままで。

集落の人達が森から戻って来たらしい神代かじろさんと古夜ふるやさんを出迎えているみたい。
よく見ると、古夜ふるやさんが黒髪の女の子を抱きかかえている様子だった。
おそらく、森に入っていった人のひとりなのだろう……

「ぁ…あれは、千代ゆきのっ!?」

驚いたように声を出した理哉りやさんは、腰が抜けたように座り込んでしまった。

千代ゆきのさん、というのは今朝……理哉りやさんと同じく声に導かれていた友達なのだそうだ。

理哉りやさんは小さく泣いていた…多分、友達が無事だった安堵感と水城みずきさんや他の人達が見つからなかった絶望感との狭間で感情がぐちゃぐちゃになってしまったのだろう。



――この時、誰もあんな事が起こるなんて……まったく考えていなかったように思う。



そう…それは、まるで悪夢の続き――

ううん、もしかするとあの日・・・の再来に近いのかもしれない。


…だって、それは前触れもなく訪れたのだから。

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