4話:禁断の墓標

診察台に腰かけた天宮あまみや様は手に持っていた杖を、傍らに立つ軍人の青年に手渡した。
何かに気づいたのか、首をかしげて不思議そうな表情の天宮あまみや様が私に訊ねる。

「…どうかしましたか?」
「ぁ、いえ…その、すみません」

…どうやら、私はまたしても人の顔をじっと見てしまったみたい。
慌てて謝罪を口にしたものの、天宮あまみや様の隣にいる青年が訝しげにこちらを見ていた。

やっぱり、失礼すぎるよね…と、心の中で反省をする。

まったく気にした様子もない天宮あまみや様は、微笑みながら私に話しかけてきた。

「謝らなくても大丈夫ですよ…あぁ、私は天宮あまみやと申します。それと、こちらにいるのが八守やかみです」
「あ、私は真那加まなかです。その……」

頭を下げて自己紹介をすると、軍人の青年・八守やかみさんは興味なさげに顔を逸らした。
……失礼な事をしてしまったから、嫌われてしまったみたい。

八守やかみさんの、そんな様子に気づいた天宮あまみや様が苦笑しながら口を開いた。

「側付きの者がすみません…私を心配するあまり、少々子供じみた事をしたようです。性根の優しい、不愛想な男ですが――」
「…不愛想は余計です、天宮あまみや様」

感情を抑えた声で、八守やかみさんは答える。

「貴方は、人の神経を逆なでする言動が多すぎます…だから、昨日は古夜ふるやを怒らせてしまったんですよ」
「おや、別に逆なでしようとは思ってませんよ。ただ、事実を言ったまでの事…それに、古夜ふるや神代かじろの事しか考えていないようだから教えて差し上げただけです」

ひとつの事に集中するから周りが見えなくなるのだ、と天宮あまみや様が言った。
天宮あまみや様の言葉に、反論をやめた八守やかみさんはため息をつく。

…何だか、知らないところで古夜ふるやさんと天宮あまみや様はケンカでもしたみたい。
うーん、それで今は天宮あまみや様と八守やかみさんが言い合っている…という感じなのかしら。

私は、そんな2人のやり取りを聞いて困惑していると――こっそりと、十紀とき先生が囁きかけてきた。

「別に、我々の仲が悪いわけじゃないんだがな…逆に、仲が良すぎてああなってしまう事もあるんだ」
「はぁ…まぁ、仲良くケンカ?するのもいいのかもしれませんね」

こういう関係も、良いものなのかもしれない…と少しだけ思った。
仲が悪くて…険悪にケンカするよりかは、遥かに良い――

ただ、ほんの少しだけ…ここにいない古夜ふるやさんの話をしているから、今頃くしゃみでもされているんじゃないかと心配になったけど。

私がそんな事を考えているとは知らない十紀とき先生が咳払いをひとつして、脱線していた話を戻した。
…まぁ、私の言動が話を脱線させるきっかけを作った直接の原因だけど。

神代かじろ達が戻るまで…真那加まなかさんには申し訳ないが、今日は――」

集落の中が少しあわただしくなると思うので今日は医院で過ごしてほしい、と十紀とき先生は言う。
それはそうだろうと、私も思った。

…でも、どうして理哉りやさんは私が何か知っていると思っていたのかしら?

すぐに私が何も知らないとわかると、気落ちした様子で帰っていった彼女の事がどうしても気になる。
その事を十紀とき先生達に訊ねるべきか、少し悩んでしまったけど…思い切って、訊ねてみた。

「あの…どうして、理哉りやさんは私が何か知っていると思われたのでしょうか?」
「それはおそらく…理哉りやの思い込みだけの言葉だろう。真那加まなかさんが何か知っている、関係しているという――」

少し困ったような様子で答えた十紀とき先生が、きょとんとしている天宮あまみや様の方に目を向けた。
十紀とき先生の…何か言いにくそうな様子に気づいた天宮あまみや様は、首を少しかしげて口を開く。

「まぁ…彼女の友人知人が行方不明者の中にいるので、だから気が気でなかったのでしょう」

今朝、理哉りやさんが医院にいたのは…見つかったひとりが、その友人知人かもと思って来ていたのだと天宮あまみや様が教えてくれた。
結局…見つかったのは、違う人であったらしいけど――

……だから、理哉りやさんは私が何も知らない事と合わせて気落ちしてしまったのね。

なんとなくだけど、私の中の疑問のひとつが解決した…ような感じなのかしら。
何処か、ひっかかりも感じるけど…それが何なのか、まだ私の中で形になってなくて言葉に出せなかった。
それがきちんと形になったら、十紀とき先生に訊ねてみよう。

このまま診察室にいても、私は邪魔にしかならないだろうから…と、自分の病室に戻る事にした。
診察室を出る時、天宮あまみや様から囁きかけるように声をかけられる。

「…部屋に戻ったら、気をつけなさい――知っている声がしても返事をせず、耳を塞ぎなさい。貴女を惑わすだけですから…」
「ぇ…?」

不思議に思いながら振り返ると、にっこりと微笑んで天宮あまみや様がこちらを見ていた。
もう一度訊き返そうかと思ったけど、天宮あまみや様の雰囲気がそれを許しているようには思えなくて……
私は頭を下げて、そのまま自分の病室に戻った。


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