4話:禁断の墓標
(…何なの?一体、何が起こっているというの…どうして、こんな事に――)
医院を出て里長 の屋敷 へ戻る道中、立ち止まった理哉 は唇の端を噛んだ。
――明け方の事件…集落に住む十数人が霧深い中、突然森に入っていってしまった。
その誰もが虚ろで、何処か一点を見つめたまま…まるで、何かに導かれるように歩いていったらしい。
……その中に、実は理哉 も友人と共にいたのだ。
(あの時に聞いたのは、確かに姉様の声だった…)
夢現の中、自分が今は亡き姉の声に導かれるように歩いている感覚はあった。
あの時は、何処に向かっているのか…それすらわからないほど、意識を失ったような状態だったと今ではわかる。
そんな状態のまま、水城 の家の前を通った時――異変に気づいたらしい水城 が、慌てて飛び出してきたのだ。
頬をたたかれて理哉 は正気に戻れたが、彼女の友人はそのままふらふらと歩いて行ってしまった。
(…やっぱり、水城 に言わなかったらよかったのかな)
正気に戻った時、水城 に訊ねられたのだ。
――どうして、掟を破って森に入ろうと…一体、何があったの?
千森 の掟…――夜から明け方にかけて、死の霧が集落を覆い尽くす。
その霧に触れれば…気が狂い、死が訪れるであろう。
故に、霧が晴れるまで家で大人しく過ごしていなければならない……
それは、頭ではわかっていた…わかっていても、自分の意志ではどうする事もできなかったのだ。
姉の声が導く――森向こうにある隣の集落へ、と……
突然の事で混乱していた理哉 は、言葉を重ねて訊ねる水城 に教えてしまった。
夢現の中、姉の声がした事を…
そして、友人が他の人達と共に導かれるようにして森へ向かってしまった事を――
それを聞いた水城 はここにいるよう理哉 に言うと、理哉 の友人や他の人達を呼び止める為に追ってしまったのだ。
……理哉 には、彼女の行動を止める事ができなかった。
水城 が彼らを追っていってすぐに霧が晴れてしまい、頭の中で響いていた姉の声は聞こえなくなったのだ。
夢現なまま行ってしまった人達や、後を追った水城 の姿はどこにもなく…慌てた理哉 は神代 の屋敷へ向かい、事のあらましを知らせたわけである。
――その後、少しして医院にひとり運び込まれたという話を集落の人から聞いて様子を見に行ったのだが。
(見つかったのは…あの時に森へ向かって行った人の内のひとりだと思うけど、違う人――)
真那加 への復讐の為ではなく、引き止められなかった友人や水城 の安否が気がかりだったから医院へ行ったのだ。
無事であれば良い、と願った…もう親しい人を失いたくはなかったから。
(でも、何故もういないはずの姉様の声が……)
医院を訪れた時、十紀 に言われてしまった。
ずっと姉の仇討ちを考えていたから、気づかぬ内に魂を捕らえられていたんだ。
霧が姉の幻影を生み出し…狂気に誘っていたのだ、と――
だけど、水城 には姉の姿や声が認識できていなかったと今は考える。
あの時、理哉 から事情を聞くまで何もわかっていない様子であった。
それに理哉 は姉の声だと思っていたが、他の人は別の誰かに導かれていたのかもしれない。
だって…傍らにいた友人は、姉と同じ日に亡くなった彼女のすぐ上の兄の名前を呟いていたのだから――
おそらく、それぞれ一年前のあの日に失った人達の幻影を見聞きしてしまっただろうと予想できた。
(何なの、あの霧は私達をどうしようとしているのよ…親しい人の姿や声を利用して、何をなそうとしていたの?)
ある恐ろしい考えが…一瞬、理哉 の頭をよぎってしまった。
――まさか、隣の集落で起こった事故と同じ状況にしようとしていたのでは…と。
***
医院を出て
――明け方の事件…集落に住む十数人が霧深い中、突然森に入っていってしまった。
その誰もが虚ろで、何処か一点を見つめたまま…まるで、何かに導かれるように歩いていったらしい。
……その中に、実は
(あの時に聞いたのは、確かに姉様の声だった…)
夢現の中、自分が今は亡き姉の声に導かれるように歩いている感覚はあった。
あの時は、何処に向かっているのか…それすらわからないほど、意識を失ったような状態だったと今ではわかる。
そんな状態のまま、
頬をたたかれて
(…やっぱり、
正気に戻った時、
――どうして、掟を破って森に入ろうと…一体、何があったの?
その霧に触れれば…気が狂い、死が訪れるであろう。
故に、霧が晴れるまで家で大人しく過ごしていなければならない……
それは、頭ではわかっていた…わかっていても、自分の意志ではどうする事もできなかったのだ。
姉の声が導く――森向こうにある隣の集落へ、と……
突然の事で混乱していた
夢現の中、姉の声がした事を…
そして、友人が他の人達と共に導かれるようにして森へ向かってしまった事を――
それを聞いた
……
夢現なまま行ってしまった人達や、後を追った
――その後、少しして医院にひとり運び込まれたという話を集落の人から聞いて様子を見に行ったのだが。
(見つかったのは…あの時に森へ向かって行った人の内のひとりだと思うけど、違う人――)
無事であれば良い、と願った…もう親しい人を失いたくはなかったから。
(でも、何故もういないはずの姉様の声が……)
医院を訪れた時、
ずっと姉の仇討ちを考えていたから、気づかぬ内に魂を捕らえられていたんだ。
霧が姉の幻影を生み出し…狂気に誘っていたのだ、と――
だけど、
あの時、
それに
だって…傍らにいた友人は、姉と同じ日に亡くなった彼女のすぐ上の兄の名前を呟いていたのだから――
おそらく、それぞれ一年前のあの日に失った人達の幻影を見聞きしてしまっただろうと予想できた。
(何なの、あの霧は私達をどうしようとしているのよ…親しい人の姿や声を利用して、何をなそうとしていたの?)
ある恐ろしい考えが…一瞬、
――まさか、隣の集落で起こった事故と同じ状況にしようとしていたのでは…と。
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