4話:禁断の墓標

朝食を終えた後、忙しそうな穐寿あきひさ先生の仕事を少しでも減らしたくて…私は食器を、前に水城みずきさんから聞いた医院の調理室へ返しに向かった。
確か、一日に3回調理をしに医院近くに住む料理好きの女性達が来るんだと水城みずきさんが言っていたっけ。

その女性に食器を返して「ごちそうさま」と伝えると、「おそまつさまでした」と答えて女性は微笑んだ。
うん、やっぱりきちんと感謝の気持ちを伝えるのは大切だよね。

自分の病室に戻ろうと廊下を歩いていたら、後ろから小さな足音が聞こえてきた。
振り返ると、そこには少し俯いた女の子――理哉りやさんが歩いていて、私に気づくと小さな声で訊ねる。

「…あんたは知って――何か関係しているの?今この集落で何が起こっているのか、どういう状況になっているのかを…」

はじめは彼女に少し警戒してしまったけど、彼女の言葉を聞いて私は首をかしげてしまった。
何が…かは、よくわからなかったけど――理哉りやさんのお姉さんが亡くなった時の事は、本当に何も知らない。

少し返答に困ってしまったけど、その事を告げようと私が口を開きかけたら困惑した表情の理哉りやさんが先に口を開いた。

「何も知らないの…?てっきり、十紀とき先生や穐寿あきひさ先生から話を聞いてると思ったけど――そう、何処に行ったのか知らないのね」
「えっ…と、一体何がでしょうか…?」

訳が分からずにいると、理哉りやさんは何も答えずに小走りで帰ってしまった。

……一体、今何が起こっているというの?

それを確かめようと病室に戻らず、十紀とき先生と穐寿あきひさ先生の2人を探した。
――時間的に診察室にいるんじゃないかと思ったのだけど、十紀とき先生だからなぁ……

そんな事を少しだけ考えてしまったけど…気を取り直して、診察室の扉をノックしてみる。
予想外にも扉の向こうから返事があったので、私は内心驚いてしまった。

扉を開けて入ると、そこには穐寿あきひさ先生と…カルテを手に持った十紀とき先生がこちらを見ていた。

「ぁ…おはようございます、十紀とき先生。お忙しいところ、すみません…少しお訊ねしたい事が――」

私は十紀とき先生に挨拶した後、理哉りやさんが言っていた疑問を訊ねる。
少し眉をひそめた穐寿あきひさ先生が、十紀とき先生に小声で何かを囁いた。

一体何を囁いたのか…私には聞こえなかったけど、十紀とき先生は小さく何度か頷いた。

そして、手に持っていたカルテを机の上に置くと扉の所に立ったままの私に患者さんの座る椅子を勧められる。

私は勧められるまま、患者さんの座る丸椅子に腰かけると十紀とき先生がゆっくりと口を開いた。

「…理哉りやが、何をどこまで話したのかはわからないが――」

十紀とき先生と穐寿あきひさ先生の話によると――明け方、掟を破って集落の人が十数人…真っ白な霧の森に入ってしまったのだという。
ひとりは森に入ってすぐのところで倒れていたのを保護したそうだけど、残りの人達は森の奥へ進んで迷子になってしまい――今、神代かじろさんと古夜ふるやさんが探しに行っているみたい。

保護した人は、今この医院に運び込まれて眠っているのだという……

「どうして森に――それより、その方は大丈夫なんですか?」
「大丈夫ですよ…無事、切り離しはできましたから――」

私の疑問に答えたのは、十紀とき先生や穐寿あきひさ先生ではなく…もちろん、探しに出ている神代かじろさんや古夜ふるやさんでもない。
声がした方向に目を向けると、診察室の扉を開けている青緑色の髪の――おそらく、軍人の青年と…真っ白な髪の青年の2人が、そこに立っていた。

――確か、白い髪の青年は…天宮あまみや様、だと水城みずきさんが教えてくれたっけ。

天宮あまみや様が疲れた様子でため息をつくと、十紀とき先生に向けて言葉を続けた。

「ただ、あの者はしばらく眠らせておいた方が…本人はもちろん、集落にいる者達にとっても良いと思いますよ」
「…そうか、ならばそうしておくが――」

そう答えた十紀とき先生は穐寿あきひさ先生に何か指示した後、考え込んだ様子で天宮あまみや様に訊ねる。

「残りの者達が見つかり、神代かじろ達がここに連れてきた場合も頼めるか…?」
「もちろん、切り離しはやってみますが…現段階で言える事は今朝の者でギリギリ、他の者達に関してはもう手遅れに近い――」

最悪の場合、対処は十紀とき先生と神代かじろさんの判断に任せますよ…と、声をひそめるように天宮あまみや様が言った。

それが一体、どういう意味を指すのか…?
私にはわからず、ただ二人のやり取りを静かに聞いている事しかできなかった。


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