4話:禁断の墓標

昨日、水城みずきさんと医院に戻ったら十紀とき先生は院長室のソファーで横になっていたみたい。
やっぱりサボっていたよ、と水城みずきさんが頬を膨らませながら私の病室に来た時は思わず笑ってしまった。

今日も、そんな変わらない日常がはじまる…と思っていたのだけど――

「すみません…朝食をお出しするのが遅くなりました」

そう言って、私の病室に朝食を運んでくれたのは水城みずきさん…ではなく、深緑色の髪の眼鏡をかけた青年だった。
白衣を着ているから…ここの医者、なんだろうけど――

それにしても…すごく疲れた表情をしているのは何故かしら?
そう思ってしまったけど――うん、多分…十紀とき先生のせいね。

つい、そんな事を考えていたら…彼が不思議そうに私の顔を見ているのに気がついた。

「ぁ、すみません…えーっと――」

すぐに返事をしなかった上に人の顔をじっと見てしまった事など諸々の謝罪と、水城みずきさんについてを訊ねてみると彼は慌てたように頭を下げる。

「あぁ、こちらこそ…本当に申し訳ないです。今日は、その…水城みずきは休みでして――申し遅れました、俺は穐寿あきひさといいます」

彼は十紀とき先生と同じくこの医院の医者で、基本的に各家庭へ往診をしているみたい。
だから、彼――穐寿あきひさ先生を医院で一度も見かけなかったのね……

その事を思わず口に出してしまうと、穐寿あきひさ先生は苦笑しながら言った。

「ははは…十紀とき様はお忙しい方なので、俺がきちんと補佐しなければならないんですよ」

いや、サボる方に忙しいのでは…と言う言葉が出かけたけど、なんとか飲み込んだ。

――それより、水城みずきさん…今日休むような事は言ってなかったけど、一体どうしたのかしら?

「あの…水城みずきさん、体調を崩されたんですか?」

もしかしたら、昨日…長時間とは言えないけど、外でいろいろ話をしながら過ごしたせいで体調を悪くさせてしまったのかもしれない。
私のせいで無理させてしまっていたら――もしそうなら、水城みずきさんに悪い事をしたかもしれない……

穐寿あきひさ先生は一瞬何かを言いかけて、困った表情を浮かべたまま首を横にふると優しい口調で言った。

「いや、水城みずきは有休をとらせて親戚の所へ…なので、今日のところは俺がメインでお世話させていただきますね」
「そうだったんですね…わかりました。お願いします」

そう言って頭を下げると、穐寿あきひさ先生は少し安心したように微笑んだ。

……それにしても、穐寿あきひさ先生の言動に何か違和感があるのは何故かしら?

この違和感の正体と、何処か不安な気持ちがする理由を――この時の私は、知る由もなかった。


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