4話:禁断の墓標

翌日の早朝、神代かじろの屋敷――居間では、神代かじろと寝起きらしい十紀とき…そして、天宮あまみやの3人が朝食をとっていた。

特に会話らしい会話もなく、黙々と食事をすすめていく中……不意に、何かを思い出した様子の天宮あまみやが箸を止める。

「…そういえば、昨日伝え忘れていた事がありました」
「それは、一体何ですか?天宮あまみや様…」

同じく箸を止めた神代かじろが首をかしげ、深刻そうな表情を浮かべる天宮あまみやを見た。
あまり興味がない様子の十紀ときだけは、耳だけを天宮あまみやの方へ向けて食事を続けている。

哉瀬かなせに破談の話を、大失態をやらかした桜矢おうや九條くじょうが怒っていた事を――」

そこまで言った天宮あまみやは、箸をテーブルに置くと湯呑みを手にとった。

「それと私がこの集落に着いた日の夜、穐寿あきひさがげっそりとした様子で医院の前で夜空を見上げていた事を十紀ときに…それぞれ伝え忘れていたのですが、どれを先に…誰に伝えるべきだったのかと」
「ぇ…いや、最後のやつは十紀ときに今すぐ伝えてください!どおりであの日、穐寿あきひさがなかなか帰ってこないと思っていたら…」

驚いた様子で、神代かじろは隣に座る十紀ときの方へと視線を向ける。
その視線に気づいた十紀ときは、小さく何度か頷くと口を開いた。

「あぁ…何件か、医者嫌いのいる家へ往診に行くよう頼んだからな。それよりも、最初の件は里長達にまだ伝えてくれるな…何をしてくるか、本当に読めなくなる」

理哉りやの婚約が破談になったと知れば、里長は無関係な真那加まなか責任せいにして怒りの矛先を直接向けかねない。
それどころか、なりふり構わず行動を起こしてくる可能性もあるだろう…と、十紀ときは言う。

「それと、だ。九條くじょうの件は、黙っていても大丈夫だろう…?そもそも、アレ・・に余計な力をつけさせた張本人があれこれ言える立場にないだろうが」
「…九條くじょうとて、まさかアレ・・があのような力を持つとは考えてもなかったわけですから――そもそも『あの計画』に反対しなかった我々にも同じく非はあるのですよ、十紀とき

お茶をひと口飲んだ天宮あまみやは、小さく息をつくと言葉を続けた。

「まぁ、彼が怒っていても今はかわいいものですよ。あぁ、桜矢おうやといえば…昨日、少しだけ話をしました」
「対話できたのですか、天宮あまみや様?」

ひと安心した様子の神代かじろに、天宮あまみやが肩をすくめて答える。

「――話と言っても、少々説教じみた事を彼に言っただけですが…ただ、まだ身体には戻れぬ様子でしたよ」
「それは仕方ないだろう…『要』となっている者が、あいつを放そうとしないのだからな。しかし…ひとつだけわからない」

箸を止めた十紀ときは、神代かじろ天宮あまみやの顔を順に見ると続けた。

「何故、『要』となっている者は桜矢おうや真那加まなかさんに執着する…?」
「…それは――」

十紀ときと同じ疑問を持っていた神代かじろは、困った様子で口ごもる。

――あの日、真那加まなか達を追ってアレ・・はこの集落にやって来たのだから……

「…意外に、単純なものかもしれませんよ?まぁ、わかりやすく簡単に説明すると…三角関係のもつれみたいなもの、ですかね――理由としては」

天宮あまみやの言葉に、そういう事になるのか…と考えてしまった神代かじろ十紀ときの2人は言葉をなくし、ただただ呆気に取られていた。
そんな2人の様子を余所に、天宮あまみやは湯呑みに入っていたお茶を飲みきる小さく呟く。

「しかし…あの霧に半ば捕らわれている状態である、あの少女を――アレ・・は、一体どうしようとしているのでしょうかねぇ?」


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