2話:断片の笑顔

「っ……」

突然の激痛で、私は目が覚めた。
そこは、さっきまでいた真っ白な霧の世界ではなく…同じ白でも、病室の天井の色。

「わっ、びっくりした……」
「えっ?」

誰かの声に振り向くと、そこに驚いた様子の水城みずきさんが立っていた。
私も驚いたけど――水城みずきさんはかなりびっくりしたみたいで、目を見開いてこちらを見たまま固まっている。

「み、水城みずきさん…どうかされたんですか?」

まったく動かない水城みずきさんの事が心配になって、平然を装って声をかけた。
私の呼びかけに、水城みずきさんはようやく我に返ったようで首を横にふる。

「ご、ごめんね…真那まなちゃん。ノックしたけど返事がなかったから……それで、部屋に入ったら眠っているようだったし……」
「ぁ…こちらこそ、ごめんなさい。少し眠くなってしまって……」

さすがに…よくわからない真っ白な霧の集落にいた、なんて言えない。
…だから、眠くなった事にした。

水城みずきさんは、納得したように笑いながら頷く。

「そっか…お腹いっぱいになると、眠くなるもんね。でも、眠る時は布団をかけないとダメだよ?」
「ははは…」

とりあえず、私は笑っておく事にした。
水城みずきさんも笑っていたけど、ふと何かに気づいたようで首をかしげる。

「…あれ、真那まなちゃん。それ…どうしたの?」
「それ…?」

水城みずきさんが何を不思議がっているのか、私には最初わからなかった。
でも、水城みずきさんが私の胸元――桜のペンダントを指差したので、ようやく何の事かわかった。

「あぁ…えっと、これですか?」

桜のペンダントを見せると、水城みずきさんは頷く。

朝起きるとペンダントがあった事を、私は水城みずきさんに簡単に説明した。
さすがに夢で青年から貰ったとは説明しにくいから、そこは伏せて――

「そうだったんだ…うーん、ならやっぱり先生かな?」

水城みずきさんは、不思議そうに首をかしげながら呟いていた。
私には、その言葉の意味はわからなかったけど…水城みずきさんは納得したように笑っているので、訊ねるのはやめておく。

その後、私と水城みずきさんは他愛ない話をして過ごした。


この集落には、水城みずきさんと同じ年頃の女の子は多くないらしい。

若い人の多くは、この国…りん国王都へ働きに行く――主に、城仕えになるそうだ。

十紀とき先生は、実はかわいいクマ集めの趣味がある話。
ご近所に住んでいるおばあさんの料理が美味しいけど、作る過程が不思議過ぎる…という話。


……そんな他愛ない、楽しい事を中心に話して過ごした。

夕焼け空になった頃、水城みずきさんは「もう帰らないと…」と言って帰宅した。
十紀とき先生に、今日は早く帰るように言われた…と水城みずきさんは言っていたのだけど……

「あれ…?」

ふと、窓の外に目を向けると…集落の人々も慌てて帰宅していたり、道具を片付けている様子が見えた。

…何だろう?
水城みずきさんもだったけど、みんな…何を慌てているのかしら……?
夕方だから、急いで帰る…というより、家に逃げ帰っている感じに近いかな。

――まるで、夜に何かが起こるかのような……そんな雰囲気だ。

私の中で、何かが危機を知らせている……
わからないけど、今夜は外に出ると危ない気がしてならなかった。




…それは、夜の帳が下りるかのように――徐々に、集落を包み込んでいく。

真っ白で、狂気を孕んだ意志と共に……




――この時、私はあの少女の笑みを思い出していた。
…多分、あの時から・・・・・支配されはじめていたのだと思う。
私が、ではなく…あの真っ白な霧が、だけど。


…だけど、この時の私はわかっていなかった。
わかっていれば、あんな事にならなかったのかもしれないのだから……

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