2話:断片の笑顔

真っ白な何もない世界……――気づくと、私はそこにいた。

「…何処、ここは?」

真っ白な世界…私は、手探りながら歩いてみる事にした。
足元は、しっかりとした地面の感触がしている。

ゆっくりと地面を踏みしめながら歩いていく、と何かにぶつかった。
驚いて手探りでぶつかった場所に触れてみると、冷たい石のような壁のようだ。

「…?何かしら……」

ゆっくりと形を確かめるように触れて、ようやく全体の大きさがわかった。

(何か、大きな石?……ううん、建物の壁かな……)

その石のような壁に触れながら私は伝い歩いて、ようやくそれが誰かの家の壁だと確認できた。

――って、私……さっきまで、自分の病室にいたはずなのに何故?
そもそも、床じゃなくて何で地面なの……?

今更ながら、自分が置かれている状況に混乱していた……
考えても何もわからず、辺りを見回す。
だけど、視界を真っ白な何かで覆われているせいで何処なのかがわからない。
でも…医院の、自分の病室でない事だけはわかった。

(一体何なの……ここは、一体?)

そう考えた瞬間、急に視界がゆっくりと開けてきた。
ううん…視界が開けてきたというより、真っ白な何かが薄くなってきたんだと思う。
その証拠に、まだ真っ白な何かは存在しているのだから……

(ぁ…もしかして、この真っ白なのは――霧?)

空気にたくさん水分を含んでいるような…そんな感じに気づいた。

そういえば、霧が深いと視界が悪くなる……と、聞いた事があるな~
何処で聞いたのかはまったく思い出せないけど、多分記憶を失う前だと思う。

『…真那まなちゃん』

何処からなのか、わからないけど声をかけられた。
あの青年の声に間違いない……

「誰?何処なの…?」

彼の姿が見えないから、すごく不安だった。
だけど、青年の姿は見えず……声だけが、また聞こえてきた。

『…そこから近い、大きな木の傍に来て……』
「えっ…大きな木?何処にあるの…?」

訊き返してみたけど、青年の返事はない。
辺りは先ほどよりも見えやすくはなっていたので、薄っすらと緑が見える方向へゆっくり真っ直ぐ歩いていく事にした。

思ったとおり、そこには背の低い木が植えられていた。
あの建物の近くにある大きな木…は、多分どちらかの方向にあるのだろう。

(左…ううん、右かな?)

少し悩んだけど、右の方向へ行く事にした。
まだ、辺りは真っ白な霧に包まれていたので背の低い木に伝い歩きしながら、だけどね。

それに…何か、直感的に右の方角にある気がしたから……

少し歩くと、目の前に大きな木が現れた。
私は、その大きな木の幹に触れながら青年の姿を探す。

「…ねぇ、着いたよ?何処なの…」

でも、青年は返事をしてくれない。
もう一度、青年を呼ぼうとした時……突然、強風が吹いた。

「きゃっ……」

私は思わず、目を閉じた。
しばらくすると、強風が止んだので私は目を開ける。
私がいる大きな木の近くの建物は2階建ての家らしく、窓辺にきれいな花の咲いた植木鉢が飾られていた。

状況に驚いて、大きな木のそばから離れようとすると――

『だめだ…真那まなちゃん。まだ動かないで……』

また、あの青年の声が聞こえてきた。
私はこの警告に従って、離れないように木の小さな枝を握って周囲を見回してみる。

(ここは…千森ちもり?ううん、何か違う……)

最初、今お世話になっている千森ちもりかと思ったのだけど……すぐに違うのに気づいた。
千森ちもりは、森と谷に挟まれた集落――でも、ここはがけ下にある集落で……

なんだか、とても懐かしいような……とても悲しいような……わからない感情が沸き起こる場所だった。

それが気になった私は、近くを歩く人に声をかけようとしたんだけど…また、強風が吹いた。
思わず、目を閉じて風が止むのを待ってから目をゆっくり開ける。

「ぇ……」

また、深い霧に包まれたみたいで……何も見えなくなっていた。
真っ白な中から…突然、謎の集落が現れて――そして、また真っ白な世界なのだから混乱してくる。

「びっくりしたよね…?真那まなちゃん……ごめん」

突然、後ろから声をかけられた私は振り返った。
そこには、申し訳なさそうな様子の…あの青年が立っていた。

「…彼女、なかなか支配権を渡してくれなくて……」
「彼女…?支配権…?」

青年の言葉に、私は首をかしげて訊ねてみる。

「どういう事なのか…教えて!」
「…彼女は、真那まなちゃんと同じ使命を持つ――」

そこまで言いかけて、青年は黙ってしまう……
そして、静かに見上げると言葉を続けた。

「ダメだ、時間がない……真那まなちゃん、目を閉じて。僕が帰してあげるから」
「えっ…ちょっと待って!!まだ聞きたい事が――」

まだ聞きたい事が、まったく訊けていない。

――あなたは誰…?
彼女って…支配権って何?
私の使命って、一体……

私は慌てて青年の腕を掴もうとしたのだけど、ゆっくりと視界が白く歪んでいく……
届きそうなところに青年がいるのに、まったく届かない…触れられない。

青年が、ゆっくりと微笑んで言う。

「…きっと助けるから、キミの事を。何も知らない方が、真那まなちゃんは幸せになれる…神代かじろ十紀ときだって、それを望んでいるから……」

青年の…その言葉と同時に、眩い光が辺りを包み込んで何も見えなくなっていく。

――真那まなちゃん、目を覚ますんだよ!

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