0話:惨劇の祭り

「おい!いたか?」
「いや、こちらの方にはいない。もしかしたら輝琉実ひかるみへ向かったんじゃないか?」
「もう夜だぞ?しかも分厚い雲のせいで月明かりのない…雨の降る崖際の道だ、死ぬぞ」

千森ちもり入口を何人もの守人達が集まり、口々に雨降る暗闇の道で死んだんじゃないかと話している。
それもそのはず、輝琉実ひかるみからこの地へ続く道は悪路である…歩いて進むにしても足を滑らせて死んでいるだろうと考えていた。

「くそっ、せっかく見つけたというのに…おい!お前、どうして見逃した!その目は節穴か?」

怒鳴る小太りの青年に胸ぐらを掴まれたのは、青みのある黒髪に青緑色の瞳の青年だ。
表情の読めない青みのある黒髪の青年の様子に、小太りの青年は舌打ちをして突き飛ばすように手を離した。

「ちっ、神代かじろの犬め!役立たずは邪魔だ、しばらくそこに立っていろ!おい、屋敷に戻るぞ」

他の面々も青みのある黒髪の青年の方を睨みながら、小太りの青年に続いて帰っていく。
残された彼は大きくため息をついて、土砂降りの雨空を見上げた。

「まったく…この雨がすべてを洗い流してくれればいいのだが」

罪深き千森ちもりの住民達を眺めながら、ついそんな事を思ってしまったらしい。

青みのある黒髪の青年は主である神代かじろ、その兄である十紀ときやもうひとりの医師と共に祭りの一般公開の時間延長にそもそも反対の立場だった。
もしもの事を考えれば、夜まで一般人を千森ちもりに留まらせるのは危険でしかない――しかし、集落の過疎化などを理由に反対意見は封殺されてしまったのだ。
結局危惧していた通りになってしまったわけだが、千森彼らはその罪の重さをどう考えているのだろうか?

「まさかだが、あの少女ひとりに責任を負わせるつもりではないだろうな?」

あの強欲な千森ちもりの長ならやりかねない、と青みのある黒髪の青年は考える。
自分の主にした仕打ちの事を思えば、間違いなくするだろう……
そう考えた彼は、もう一度ため息をついて主である神代かじろ達が来るのを待った。




――事態の収拾後しばらくの間、千森ちもりでは霧深い夜に栗色の髪の少女が何かを探している様子が目撃されるようになる。
霧の影響が強い夜に現れる事から守人は対処できず…司祭である神代かじろと医師の十紀とき、青みのある黒髪の青年ともうひとりの医師が対処を任される事になった。

彼らはこの少女の正体が真那加まなかだとすぐに気づき、約一年をかけて霧から解放し医院で保護したのだ。
しかし長らく霧の影響かにあった為、身体が回復してもなかなか目を覚まさなかった。


***


明け方近く、輝琉実ひかるみの教会の前に淡い赤色の髪の青年が大怪我をした状態で倒れていたのを修道女シスターが発見した。

悠河はるか様!どうされました?」
「ぁ…天宮あまみや、様に連絡を…」

慌てて駆け寄る修道女シスターに、悠河はるかは途切れ途切れ千森ちもりで起こった出来事を話し気を失ってしまう。
彼女は悠河はるかを仲間である神官に託し、急いで王都へ連絡を入れた。

――そして事件から一年後、彼女の目覚めによって再び事態は動きだす。
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