0話:惨劇の祭り

草陰に身を隠した私達はどうしたものか、と小声で話し合う。

「このままでは、捕まってしまう。だから悠河はるか
「わかりました。陽動しつつ、この刀――藤波ふじなみを隠します。これは千森ちもりの守人どもには渡せない代物ですから」

裏切りの千森ちもりは信じられない、と悠河はるかさんは呟く。

この『藤波ふじなみ』という刀は、我が家に伝わる何の変哲もない武器ものだったと思う。
ただ使い手を選ぶらしく、その本来の力は【古代兵器オーパーツ】をも斬り伏してしまうほど強大な力を宿しているとか。
どうやら悠河はるかさんが、それを管理していたみたい。

「うん、お願い…あと、隠した場所は十紀とき神代かじろに教えておくのを忘れないでよ」

桜矢おうやさんの言葉に、悠河はるかさんは頷いて答えた。
私もそれで安心していた…でも数年後、隠し場所について誰にも伝えていなかった事実を知り驚いたけど。

草陰から出た悠河はるかさんの動きにつられた彼らは、どんどんと入口付近から離れていく。
残っているのは、小太りの青年をはじめとした数人――彼らは千森ここの守人達なのだ、と桜矢おうやさんが教えてくれた。
見たところ、彼らは武器のたぐいを持っていないようだ。

「今なら人数も少ない…行こう!」

桜矢おうやさんの手に引かれ、できる限り身を屈めながら走る。
だけど守人の青年ひとりが私達の存在に気付いた、けど彼は何も言わず他所の方向を指差している。

「大丈夫だよ、彼は僕らの仲間だから…」

少しでも時間を稼いでくれているんだと、桜矢おうやさんが言う。
その人のおかげで、なんとか千森ちもりから脱出できた、けど…集落の外を警戒していた守人がいたらしく見つかってしまった。

「いたぞー!」

このひと言で小太りの青年達もこちらに気づき、私達を捕えようと指示を出している。

「ちっ」

舌打ちをした桜矢おうやさんが上着のポケットから小さな玉を出すと、それを勢いよく地面に投げ捨てた。
その瞬間、ものすごい煙が周囲を包み込んで何も見えなくなってしまう。

「こっちだ!」

私の手を強く引いた桜矢おうやさんは、道外れの草陰に身を隠すと周囲の枯葉を集めだした。
一体何をするつもりなのか、私が首をかしげていると彼は小声で言う。

「ここ周辺はさっきの、仲間の彼が誤魔化してくれる。日が高くなってから輝琉実ひかるみへ向かうんだよ」

驚く私を押し倒した彼は、枯葉などを私の身体に被せていく――私の着ている制服がオレンジ基調でよかったのか、あっという間に隠れてしまった。

「ごめんね、真那まなちゃん。大好きだよ……うなら」

最後の方はほとんど聞こえなかったけど、彼は微笑みながら草陰から出て走り去ってしまった。
私ひとり取り残されたまま、誰も私を見つけない事だけを祈りながら目を閉じる。

「…早く朝に、ならないかな」

思わず呟いた言葉は、ぽつぽつと降りはじめた雨にかき消されてしまった。



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