0話:惨劇の祭り

桜矢おうや様、悠河はるか様!真那まなちゃん、大変だ!」

慌てた様子で、こちらに走って来たのは志鶴しづる兄さんだった。
一体何が起こったのかわからないけど、彼の顔色は青かった。

志鶴しづる兄さん、一体どうしたの?」
「大変なんだ、儀式が…失敗した。熾杜しずが暴走を…今なんとか父さんと椎那しいなをはじめとした守人で抑えているけど、多分時間ないと思う。だから、すぐに実湖ここを脱出して千森ちもりにこの事態を知らせてほしいんだ」

志鶴しづる兄さん曰く――儀式の時、仮死の薬を飲んで『祭壇』と呼ばれるカプセルに横たわった熾杜しずに異変はなかったそうだ。
それを地下通路から【迷いの想い出】に運び、その『祭壇』を繋いだ瞬間暴走をはじめたらしい。
最初に異変が起こったのは、神官達や彼女の世話役達だった。
正気を失った彼らは何処からか現れた武器を各々手に持って長である私の父や伯父さん、椎那しいなをはじめとした正気の者達を襲いはじめたらしい。

「そんな…お父さん達、は無事なの?」
「わからない…熾杜しずから生み出された黒いうねりのようなものが屋敷内に充満しはじめて、殺し合いが起こっている。多分、この薄っすらとした霧にも混じっていると思う…」

もう自分も含め、実湖みこ内にいた人間は全員感染しているので手遅れだろう…と志鶴しづる兄さんは辛そうに答える。

真那まなちゃんは桜矢おうや様と悠河はるか様と共にいたから、もしかしたらまだ間に合うかもしれない。だから、すぐに!このままだと千森ちもりにも影響がでてしまう!」

近くの家々から悲鳴のような叫び声や怒号が聞こえてくる…つまり、屋敷内で起こっているような殺し合いがはじまっているのかもしれない。
今なら被害は実湖みこだけで済むかもしれない、千森ちもりまで霧の脅威が伸びてしまえば――

「…わかった。すぐに行こう、真那まなちゃん!」

志鶴しづる兄さんに頷いて返事をした桜矢おうやさんは私の手を取ると走りだし、その後ろを悠河はるかさんが続く。
私は成す術もなく桜矢おうやさんについて行く事しかできなかった。
どうか、父達が無事でありますように……



「僕がここで時間を稼ぐ。だから、この危機を知らせてくれ…頼む」

去っていく三人の後ろ姿を見送った志鶴しづるは、ベルトに差していた剣を抜いて振り向いた。
そこには各々刃物を持った、血だらけの者達が家々から姿を現す…彼らの様子は完全に正気を失っているようだ。
殺気立つ彼らの視線は、剣を持つ志鶴しづるだけに向けられていた。


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