0話:惨劇の祭り
扉をノックしようとして、私は手を止めた。
……私、どういう用件で桜矢 さんに会えばいい?
自問自答していると、扉が開いて悠河 さんが顔を出した。
「…どうした?桜矢 様に会わないのか?」
促されるまま部屋に入ると、部屋の主である桜矢 さんは分厚い本を読んでいて私に気づいていないようだった。
集中している様子の彼に声をかけると、驚いたように顔を上げる。
「えっ、真那 ちゃん…びっくりした。ごめんね、こっち に集中していたから気づけなかった」
文句を言いたげな視線を悠河 さんに向けた後、桜矢 さんは分厚い本を閉じて私に見せた。
桜矢 さんの説明によると、本のようだけど――この本 は旧暦時代の遺産のひとつらしく、意識を繋いで交信していたのだという。
「それより、どうしたの?」
「あの、実は…」
熾杜 の呟きと最後にあの子と話をしたい事、父からひとりで会う時は注意するよう言われた事を伝えると彼は顎に手をあてて考えている。
もしかしたら、彼も父と同じ考えなのかもしれない…でも、どうしても会わないと後悔してしまう気がするの。
私の、この気持ちを汲んでくれた桜矢 さんと悠河 さん立会いの下で明日熾杜 に会う事になった。
儀式前のわずかな時間で会えるよう、ふたりが予定を調整してくれるらしい――父達にも話を通してくれるというので、そちらも併せてお願いする事に。
こんなわがままを言うのは、本当なら周りに迷惑が掛かってしまうからいけないのだろうけど…でも、後悔だけはしたくなかった。
桜矢 さんの部屋を出て、自室に戻った私はベッドに座って何を話すか考える。
当日あまり時間はないだろうから、話したい内容をいくつか考えておきたかった。
あの子が持論を展開する可能性もあるから、本当に二言か三言くらいしか発言できないかもしれない…憂鬱だけど、しっかり気持ちをぶつけたい。
いつもあの子が一方的に気持ちをぶつけてくる状態だったから、一度くらい私の気持ちをぶつけたっていいよね。
モヤモヤとした気持ちのまま、知らせに来た使用人と共に食堂へ向かい――父達と共に夕食をいただく。
久しぶりにみんなとの食事はとても楽しかった、けど食堂 に熾杜 の姿はなかった。
訊くと彼女は別室で神官や司祭である桜矢 さん達と食事をしているそうだ。
食事を終えてから少し従兄妹達と話をしていると、あっという間に夜もふけってしまった。
従兄妹と別れてお風呂に入り、自室へ戻ってベッドに入る。
疲れていたからか、すぐ寝入ってしまった…寝入り端にふと気になった事があったけど、それもすぐに夢の中に消えた。
気がつくと、翌朝の遅い時間で――まだ少し頭がボーっとする。
ぼんやりとする頭のまま、枕元に置く目覚まし時計を確認した。
もう朝食の時間は過ぎているから、時間が来るまで部屋にいようかな…確か、教会で頂いたお菓子の残りが鞄に入っていたと思うし。
昼食も部屋に運んでもらう事にした…ただあの子と話し合う時まで、心静かにいたかったから。
部屋で昼食を食べ終え、ただその時を待っていたら午後三時を過ぎていた。
そろそろかな、と考えていると扉をノックする音が聞こえてきた――おそらく時間が来たんだろう。
扉を開けると悠河 さんに頼まれたという有葵 伯父さんが立っており、申し訳なさげに頭を下げる。
「最後まで、本当に…あの子の父として謝罪させてくれ」
「いいえ、私もあの子と向き合う事を最後まで避けていたし…きちんと向き合わないと、多分お互いにとって後悔にしかならないって友達にアドバイスされました」
仲の良くない身内と向き合えない悩みを曜玉 に相談した時、彼女は自分の体験談を交えてアドバイスしてくれた。
彼女は最期まで向き合う事ができなかった、何かの拍子にそれを思い出すのだとも話していたっけ。
_
……私、どういう用件で
自問自答していると、扉が開いて
「…どうした?
促されるまま部屋に入ると、部屋の主である
集中している様子の彼に声をかけると、驚いたように顔を上げる。
「えっ、
文句を言いたげな視線を
「それより、どうしたの?」
「あの、実は…」
もしかしたら、彼も父と同じ考えなのかもしれない…でも、どうしても会わないと後悔してしまう気がするの。
私の、この気持ちを汲んでくれた
儀式前のわずかな時間で会えるよう、ふたりが予定を調整してくれるらしい――父達にも話を通してくれるというので、そちらも併せてお願いする事に。
こんなわがままを言うのは、本当なら周りに迷惑が掛かってしまうからいけないのだろうけど…でも、後悔だけはしたくなかった。
当日あまり時間はないだろうから、話したい内容をいくつか考えておきたかった。
あの子が持論を展開する可能性もあるから、本当に二言か三言くらいしか発言できないかもしれない…憂鬱だけど、しっかり気持ちをぶつけたい。
いつもあの子が一方的に気持ちをぶつけてくる状態だったから、一度くらい私の気持ちをぶつけたっていいよね。
モヤモヤとした気持ちのまま、知らせに来た使用人と共に食堂へ向かい――父達と共に夕食をいただく。
久しぶりにみんなとの食事はとても楽しかった、けど
訊くと彼女は別室で神官や司祭である
食事を終えてから少し従兄妹達と話をしていると、あっという間に夜もふけってしまった。
従兄妹と別れてお風呂に入り、自室へ戻ってベッドに入る。
疲れていたからか、すぐ寝入ってしまった…寝入り端にふと気になった事があったけど、それもすぐに夢の中に消えた。
気がつくと、翌朝の遅い時間で――まだ少し頭がボーっとする。
ぼんやりとする頭のまま、枕元に置く目覚まし時計を確認した。
もう朝食の時間は過ぎているから、時間が来るまで部屋にいようかな…確か、教会で頂いたお菓子の残りが鞄に入っていたと思うし。
昼食も部屋に運んでもらう事にした…ただあの子と話し合う時まで、心静かにいたかったから。
部屋で昼食を食べ終え、ただその時を待っていたら午後三時を過ぎていた。
そろそろかな、と考えていると扉をノックする音が聞こえてきた――おそらく時間が来たんだろう。
扉を開けると
「最後まで、本当に…あの子の父として謝罪させてくれ」
「いいえ、私もあの子と向き合う事を最後まで避けていたし…きちんと向き合わないと、多分お互いにとって後悔にしかならないって友達にアドバイスされました」
仲の良くない身内と向き合えない悩みを
彼女は最期まで向き合う事ができなかった、何かの拍子にそれを思い出すのだとも話していたっけ。
_