0話:惨劇の祭り

少しだけ童心に戻った気持ちで、立ち入りのできる範囲で屋敷内を見て回った。
知らない間に廊下の何ヶ所かに新しい絵画や壺が飾られていたり、前は入れなかった部屋が入れるようになっていたりしてとても楽しい。

ひと通り見て回り玄関まで戻ると、丁度玄関扉が開けられた。
入って来たのは白衣を着た白灰色の髪に金色の瞳の青年と、銀髪に金色の瞳の青年のふたりだ。
ひとりは千森ちもりのお医者様だと思うけど、もうひとりは誰だろう?

「あぁ、すみません…僕は千森ちもりで司祭を務めてます神代かじろと申しますが、桜矢おうやは在宅していますか?」

首をかしげていたら、銀髪の青年・神代かじろさんが訊ねてきた――どうやら、桜矢おうやさんのお客様だったみたい。
千森あちらの司祭様には会った事がなかったから、慌てて自己紹介をして桜矢おうやさんは在宅している事と今は柳世ゆうせつ叔父さんの部屋にいる事を伝える。
そして、案内をする旨を伝えると大丈夫だというように首をふったお医者様が答えた。

柳世ゆうせつの部屋ならさっき一度行ったので大丈夫だ、お気遣いありがとう」
「いえ、差し出がましい事を申しました。あ、柳世ゆうせつ叔父さんの怪我を治療してくださりありがとうございます!」

頭を下げた私に、お医者様は少し驚いた様子で「気にしなくていい」と言って笑った。

――千森あちらの住人とは違って、本当に良い子なのだな。
――そうですね、これなら安心なんですが……

そして小声で何か囁きあった彼らは私に頭をもう一度下げた後、玄関を上がって柳世ゆうせつ叔父さんの部屋へ向かった。
何を話していたのかまではよく聞こえなかったけど、悪い事を言われているわけじゃないと思う。
嫌な気持にはならなかったし。

それにしても、千森ちもりのお医者様と司祭様が実湖ここを訪れるなんて…あちらで何かあったのかしら?


***


自分の部屋で大人しくしているのも落ち着かないから屋敷を出て、久しぶりの実湖みこを散歩する。

集落の中は祭りの準備がおこなわれていて、みんな作業に忙しそうに動いていた。
祭り、といっても家の前に祭壇を置いてお守りと白百合の花を供えるだけなんだけどね。
儀式中、実湖みこの住民は家の中で静かに過ごしたり鎮魂の祈りを捧げる事が多い。

祭りの準備をしている音が集落内に響いているけど、それ以外はとても静かで故郷は何も変わっていなかった。
空気が美味しい――自然豊かな集落内を満喫して戻ると、玄関前に今一番会いたくない相手の姿を見つけてしまう。

ここで事を荒げたくはないし、差し障りのない会話だけして自室に戻ろうと考えた私は彼女に頭を下げて挨拶した。

「……久しぶり、熾杜しず
「あんた、帰ってきたって話は本当だったのね…でも、丁度よかったわ」

口元を歪め笑う彼女に、ほんの少しだけ気味の悪さを感じる。
それにしても、何が丁度よかったんだろう?

なるべく刺激しないよう訊ねると、熾杜しずは歪な笑みを浮かべたまま答えた。

「呑気なものね、あいつ――柳世ゆうせつがあんな目に合ったのは、あんたのせいなのに」
「意味がわからない。叔父さんを突き落とした理由が私だなんて、何を言っているのかわからないわ」

内心首をかしげる私の言葉に、彼女は鼻で笑う。

_
10/19ページ
いいね