0話:惨劇の祭り

湊静そうせい国は鉱物資源などが豊富で、工芸美術が盛んだと聞く。
このペンダントも匠によって造られた一品物なのだ、と彼は教えてくれた。

「ありがとうございます、桜矢おうやさん。嬉しいです!」
「よかった、喜んでもらえて。あ、そうだ。僕がつけてあげるよ」

包みからだしたペンダントを、桜矢おうやさんに手渡してお願いをする。
ペンダントの金具を外して、そっと私の首元にかけて金具をつけてくれた。

自分の胸元に光る桜のペンダントに目を向けたまま、照れた様子の彼にもう一度お礼を伝える。

「ありがとう、私一生大切にします!」

私は桜のペンダントを両手で握りしめ、目を閉じて幸せをかみしめた。
大切な人からの贈り物――これは私の、何にも代えられない宝物。
父が母に贈ったエーデルワイスの花が描かれた小箱と同じ、唯一無二のもの。

彼も同じ気持ちなのか、お互いに視線を合わせるのが照れくさくて…なんだか顔が熱いよ。

しばらく会話のない状態でいる私達の耳に、扉をノックする音が聞こえてきた――誰だろう、一体?
もう一度ノック音が聞こえてきたので、慌てて立ち上がって扉を開けた。
そこにいたのは淡い赤い色の髪に茶色の瞳をした青年で、彼は私を見ると頭を下げる。

「我が主を迎えに来た、が…そろそろ、いいか?」
「あ、はい。すみません、悠河はるかさん」

柳世ゆうせつ叔父さんから返事を貰ってきたらしい悠河はるかさんは、気まずげな様子で言った。
……あぁ、もしかして桜のペンダントをつけるくだりを待っていてくれたのかもしれない。
そう考えていたら、また顔に熱が集まって――多分、すごく赤面してしまっていると思う。

悠河はるか、ありがとう…柳世ゆうせつの容態はどうだった?」

扉の前に立つ私の傍まで来た桜矢おうやさんは、悠河はるかさんに訊ねた。
ひとつ咳払いをした悠河はるかさんが、声をひそめて答える。

「足をくじき、全身をしたたかに打ってましたが意識ははっきりしておりました。念の為、今日一日は部屋で安静にしておくようにと十紀とき様が」
「あぁ、そういえば今日こっちに来てるんだっけ…十紀ときが言ってたのなら大丈夫か」

千森ちもりで医師をしている人が叔父さんを診てくれたのだ、と桜矢おうやさんが教えてくれた。
たまたま用事があって実湖みこにやって来ていたそうで、そのおかげですぐ治療してもらえたのは不幸中の幸いなのかもしれない。

お見舞いの許可がでたという事で、私達は柳世ゆうせつ叔父さんの部屋に向かった。
悠河はるかさんが叔父さんの部屋の扉をノックし、入室の許可を求めるとすぐに返事が聞こえてくる。

扉を開けて室内に入ると、包帯を頭に巻いた叔父さんが寝台の縁に座ってこちらに向けて頭を下げた。

桜矢おうや様、このような姿で申し訳ございません…」
「いや、気にしなくていい。柳世ゆうせつ、災難だったね。でも無事でよかったよ、本当に」

安堵した様子の桜矢おうやさんは、痛々しい姿の柳世ゆうせつ叔父さんに声をかける。
頭を上げた叔父さんは私の存在に気づいて「心配かけた…ごめん」と謝った。
叔父さんが謝るような事は何もないのに――

あまり長居をしては駄目だから、他愛無い話を少しして柳世ゆうせつ叔父さんの部屋から出た。
桜矢おうやさんと悠河はるかさんはまだ用件があるらしく叔父さんの部屋に残るので、私ひとり退室する。
……多分、祭りの件と叔父さんが突き落とされた件でまだ話さないといけない事があるのかもしれない。

このまま自室に戻るのもあれなので、久しぶりに屋敷内を探索してみようと私は考えた。
もしかしたら、私が学校へ行っている間に知らない物とか増えているかもだし。

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