0話:惨劇の祭り

真白い部屋にて、白衣を着た――白灰色の髪に金色の瞳の青年が、ふたり掛けソファーに寝転がりながら新聞を広げていた。
部屋の中心にはベッドがひとつあり、寝間着姿の金髪に緑色の瞳の青年が緊張した面持ちで横になっている。
彼は数日前にめい国王都の医院で襲われ、同国内の別の医院ここに入院しているようだ。

白灰色の髪の青年は寝転んだまま、新聞をすぐ傍のローテーブルの上に置く――その新聞に書かれている日付は、新暦1092年郁月いくづき27日である。

「何故油断したのか、言い訳くらい聞こうか?」
「いや~、子供を使ってこられてさ。診察中に後ろからブッスーって…」

ベッドの方へ視線を向けず訊いた白灰色の髪の青年に、笑いながら金髪の青年が答えた。
どうやら彼も医師のようだ。

「笑い事ではないですよ、まったく。とりあえず貴方は我々と共に千森ちもりへ向かう事になりましたから、そのつもりでいなさい」

音もなく扉を開けて部屋に入り、声をかけてきたのは同じく白衣を着た――深緑色の髪に青緑色の瞳の青年で、彼はローテーブルの上に缶珈琲をひとつ置く。
呆れを含んだその声音に、金髪の青年は気まずそうにゆっくりと布団の中へ潜る…が、途中で傷口を痛めたのか呻いてしまう。

「うぅ、いった~…了解。あぁ、だけど向こうの足引っ張っちゃったな~」
「気にするな、あちらはあちらで采配し直すだろう。それより、お前はゆっくり自然豊かな場所で療養できるぞ?」

起き上がった白灰色の青年が、缶珈琲を開けながら言う――ちなみに、彼はミルク入りの珈琲を好んでいる。
そのミルク珈琲をひと口飲んだ後、わざとらしくため息をついて言葉を続けた。

千森ちもりで少々問題が発生し続けているようでな、ゆっくりできないかもしれないが」
「えぇ、その問題のひとつって噂の――」

布団から頭だけを出した金髪の青年は、心底嫌そうに眉をひそめる。

千森ちもりに赴任した医師は長くても僅か数年で疲労により休職を余儀なくされ、そのせいで行きたがる医師がいない…という、その界隈で割と有名な話がある。
ため息をひとつついた深緑色の髪の青年は、嫌がる金髪の青年の額をはじく。

「貴方は入院するだけなのですから、そんなに嫌がらずとも大丈夫でしょう」
「った~、でも空気が悪い!誰だって行きたくないと思う」

額をおさえて文句言う金髪の青年は、どうにか千森ちもり行きを避けられないか抵抗を試みているようだ。
しかし、ふたりに無言で否定され回避できず彼は絶望した。

――結局、金髪の青年はふたりの青年に連れられて千森ちもりへ向かう事となる。
もちろん彼がぐっすりと眠っている間に快適な車で運ばれて、目が覚めた時にはもう千森ちもり医院の個室のベッドの上だった。
その後、全快で退院した彼がとある場所で作業してから千森ちもりを去った新暦1097年…すべてがはじまる。


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