12話:再会の旅人
祭り当日、朝から晴れているが濃霧に包まれた千森 では住民達が色とりどりの花を集落内にちりばめていた。
広場では巫女の衣装を着た少女が、祭囃子に合わせて舞っている。
――まるで死者の帰還を歓迎するかのように、とても賑わっていた。
霧のせいで周囲はほとんど見えないが、時折薄っすらとした人影とすれ違うので本当に死者が戻ってきているのだろう。
賑わう広場を後目に、人通りを避けて丘の上へやって来た俺は思わず息を飲む…目の前に現れた、あいつ の姿に気づいたからだ。
近づこうとすると、あいつは首をふり言う――こっちに来るな、と。
どうしてか一瞬理解できなかなったが、あんな事をした自覚はあるのでその場に留まり…あの日の後から今日 までの出来事を語って聞かせた。
一方的にであるが、あいつは頷いているので聞いてくれているようだ。
そして、すべてを語り終えるとあいつは深く頷いて消えてしまった――だが、消える瞬間「お前に押しつけてすまない、頼む」という声が聞こえてきた。
わかっている、俺が必ず…そう心の中であいつに伝え、目を閉じる。
少しして目を開けた俺はあいつのいた場所に近づいてみて、何故来るなと言ったのかわかった。
あいつの立っていた場所には、足場がなかった…危ないから来るな、だったとはな。
「会えた?倉世 に」
思わず苦笑している俺に、塑亜 と共に丘へやって来た紫麻 が声をかけてきた。
会えた事を伝えると、よかったねと彼女は微笑んだ。
「ふたりは祭りを楽しまないのか?」
俺の言葉に、興味なさげに塑亜 が答えた――特に見るものもないしな、と。
本来なら屋台など観光客向けにあるらしいが、今回祭りは非公開なので何もないわけだ。
俺も特に見たいものもないので、そろそろ神代 の屋敷へ戻ると言うふたりに同行する事にした。
まだ誰も戻っていないのか静かな屋敷の庭先にまわり、縁側に座った紫麻 が空を見上げながら口ずさむ。
「堕ちし記憶の森は、惑う霧氷の彼方に還らぬ幻想の使者――」
「…それは?」
言葉の意味がわからず首をかしげていると、彼女の代わりに塑亜 が答える。
「その昔〈古代種〉最後の王が【迷いの想い出】の力を目の当たりにして言った言葉、だったか…」
詳しく訊ねると〈古代種〉最後の王というのは天宮 殿下の異母弟で、集めた記憶 を利用して別の兵器を造りだされていく様を見て呟いたのだという。
堕とされた記憶を集める霧から造りだされし幻想、か――兵器として利用されてしまったのなら、まさしくそうかもしれない。
旧暦時代に一体、どれほどの数の『罪』がこの世界に放されたのだろうか……
霧深い森の方へ視線を向けて考えていると、紫麻 がこちらに向けて何か――小さな宝石のようなものが付いたコインを差しだした。
「これは〈古代種 〉の作る御守り 。きっと君の事を護ってくれるから受け取って…友達の、琴音 の事をよろしくお願いします」
俺が御守りのコインを受け取ると彼女は立ち上がり深く頭を下げ、彼女の傍にいる塑亜 も一緒になって頭を下げている。
もちろんだと答えると、彼女は安心したように微笑んだ。
千森 の祭りは数日間行われる、が終わるのを待っていて何か起こってしまってはまずい。
だから、祭り期間の間に千森 から離れる事にした…もちろん知治 も連れて、だ。
目覚めたばかりの琴音 は、まだ少し意識がはっきりとしていない様子だったが天宮 殿下から説明を受けて俺と行く事に納得してくれた。
――彼女がわからないだろう事は追々説明していけばいいだろう、と。
住民達が家に閉じこもる深夜に、朔人 の運転する車で輝琉実 へ戻った。
深夜という暗闇の道は本当に恐ろしかったが、運転手が信頼できるのでそこだけは本当によかったと思う。
見張られていてはいけないので、教会ではなく宿の前で降ろしてもらい俺達は一泊した。
夜が明けたら、仲間達が待つ拠点へ移動するつもりだ。
彼女を護りながら、この世界に迫る危機を防ぐ事ができるのか…今はわからない。
だが、これが倉世 から託された使命――多くの罪を犯した俺ができる償いなのだから。
[終]
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広場では巫女の衣装を着た少女が、祭囃子に合わせて舞っている。
――まるで死者の帰還を歓迎するかのように、とても賑わっていた。
霧のせいで周囲はほとんど見えないが、時折薄っすらとした人影とすれ違うので本当に死者が戻ってきているのだろう。
賑わう広場を後目に、人通りを避けて丘の上へやって来た俺は思わず息を飲む…目の前に現れた、
近づこうとすると、あいつは首をふり言う――こっちに来るな、と。
どうしてか一瞬理解できなかなったが、あんな事をした自覚はあるのでその場に留まり…あの日の後から
一方的にであるが、あいつは頷いているので聞いてくれているようだ。
そして、すべてを語り終えるとあいつは深く頷いて消えてしまった――だが、消える瞬間「お前に押しつけてすまない、頼む」という声が聞こえてきた。
わかっている、俺が必ず…そう心の中であいつに伝え、目を閉じる。
少しして目を開けた俺はあいつのいた場所に近づいてみて、何故来るなと言ったのかわかった。
あいつの立っていた場所には、足場がなかった…危ないから来るな、だったとはな。
「会えた?
思わず苦笑している俺に、
会えた事を伝えると、よかったねと彼女は微笑んだ。
「ふたりは祭りを楽しまないのか?」
俺の言葉に、興味なさげに
本来なら屋台など観光客向けにあるらしいが、今回祭りは非公開なので何もないわけだ。
俺も特に見たいものもないので、そろそろ
まだ誰も戻っていないのか静かな屋敷の庭先にまわり、縁側に座った
「堕ちし記憶の森は、惑う霧氷の彼方に還らぬ幻想の使者――」
「…それは?」
言葉の意味がわからず首をかしげていると、彼女の代わりに
「その昔〈古代種〉最後の王が【迷いの想い出】の力を目の当たりにして言った言葉、だったか…」
詳しく訊ねると〈古代種〉最後の王というのは
堕とされた記憶を集める霧から造りだされし幻想、か――兵器として利用されてしまったのなら、まさしくそうかもしれない。
旧暦時代に一体、どれほどの数の『罪』がこの世界に放されたのだろうか……
霧深い森の方へ視線を向けて考えていると、
「これは〈
俺が御守りのコインを受け取ると彼女は立ち上がり深く頭を下げ、彼女の傍にいる
もちろんだと答えると、彼女は安心したように微笑んだ。
だから、祭り期間の間に
目覚めたばかりの
――彼女がわからないだろう事は追々説明していけばいいだろう、と。
住民達が家に閉じこもる深夜に、
深夜という暗闇の道は本当に恐ろしかったが、運転手が信頼できるのでそこだけは本当によかったと思う。
見張られていてはいけないので、教会ではなく宿の前で降ろしてもらい俺達は一泊した。
夜が明けたら、仲間達が待つ拠点へ移動するつもりだ。
彼女を護りながら、この世界に迫る危機を防ぐ事ができるのか…今はわからない。
だが、これが
[終]
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