12話:再会の旅人
おそらく『長』という立場になって初めての祭りだからか、水無 の表情は緊張からか少し硬かった。
「今年は観光客の受け入れはやめているし、そう固くなる必要はないよ。《闇空の柩 》からと麟 国の近衛の一部が千森 の入口をはじめとしたすべてを警備するわけだしさ」
そう水無 に声をかけたのは瀬里十 で、彼は笑いながら傍にいる塑亜 に同意を求める。
呆れた表情で瀬里十 を見た塑亜 は、こちらに向けて説明するように言った。
「天宮 様を千森 に滞在させているから近衛を動かせたわけで、我々が好き勝手に使ってるわけじゃない」
本来なら祭り期間に、天宮 様を留まらせたくないのだと言葉を続ける。
何か理由でもあるのだろうが、深くは訊ねない方がいいかもしれない。
「お前が千森 に来た理由 は、あいつ――夕馬 に教えられてだろう?それと倉世 から託された、あのぬいぐるみ …」
塑亜 の言葉に頷き答えた俺は、紫麻 の抱きかかえる白いクマのぬいぐるみへ視線を向けた。
「気になってたんだけど、何で十紀 の作ったぬいぐるみを倉世 に預けたの?」
彼女と同意見の俺は、ぬいぐるみから十紀 へ視線を向けて答えを待つ。
自分の名前がでてきたからか、十紀 は紫麻 の持つぬいぐるみに目を向け首をかしげる。
「あー、それか。まさか、それに秘密があるとは誰も思わんだろう?天宮 も気に入ってるシリーズのクマだ、倉世 が持っていても問題ないはず」
…確かにそうかもしれないが、そうじゃないだろうとも思える答えだ。
そもそも天宮 殿下がクマのぬいぐるみを好んでいて、親しい者に贈っているのかわからないが。
「おやおや、あの日帰国するまで肌身離さず持っているよう言伝してきたと思ったら…そういう理由 でしたか」
この場にいない第三者の声に振り返ると、そこにいたのは青い杖をついた白髪の若い男だ。
彼の両目は閉じられたままなので、おそらく盲 ているのだろう。
「天宮 様、こんにちはー」
紫麻 が頭を下げて挨拶する、という事はこの人物が天宮 殿下のようだ。
殿下は彼女の傍に近づくと、優しく頭を撫でた。
「こんにちは、紫麻 。本当に貴女は良い子ですね、誰かさんと違って…」
そう言った殿下は十紀 の方へ顔を向けるが、当の本人 は肩をすくめて笑っている。
少しして俺の気配に、気づいた殿下に誰何 されたので片膝をついて名乗った。
俺の名を聞いて納得した殿下に、楽にするよう言われたので両膝をつき座り直す。
すると、少し周囲をうかがっていた殿下がその場に座ろうと屈みこんだ。
「待て、天宮 」
声をかけたのは十紀 で、彼が殿下の身体を支えながら部屋の上座へ移動させて座らせた。
「おや、貴方も良い子だと言われたかったのですか?」
「ははは、そうかもしれないな」
親しげなやり取りをするふたりは、気心知れた幼馴染のような関係なのだろうな。
祭りの打ち合わせ前に話を終わらせたい、という十紀 の言葉に頷いた俺は面前の位置に正座する。
水無 と瀬里十 と知治 の三人は俺の右後ろに、朔人 と塑亜 のふたりが左後ろに座った。
理矩 は客間の出入口である扉の前に、十紀 は殿下の座る上座に近い壁にもたれかかるように立っている。
残っていた紫麻 は困ったようにきょろきょろとしていたが、殿下に手招きされてその隣に座った――誰も何も言わないので、いつもの光景なのだろう。
「本来ならば、もっと早くに謝罪すべきでした…一族の者を代表し、謝罪いたします。我々のミスにより貴方を巻き込んでしまい、本当に申し訳ありませんでした」
天宮 殿下が深く頭を下げると、それに倣うよう俺以外の全員が頭を下げた。
だが、俺としては巻き込まれたと思っていない――むしろ、こちらが彼らの計画を狂わせてしまったのだから。
こちらも謝罪をし、それから頭を上げた彼らに千森 にある墓所と森への立ち入りの許可を求めた。
どうやら水無 は殿下に判断を委ねるつもりらしく、殿下に向けて頭を下げている。
「そうですね、立ち入る事に問題ないでしょう。案内は紫麻 と朔人 にさせます、がその代わりと言いますか…ひとつお願いがあるのです」
殿下の話を詳しく訊ねると、森の奥地のある場所にて力を貸してほしいのだという――そこはどうしても人間 が同行していないとできない、古代の遺物と呼ばれる所なのだそうだ。
俺にできる事なら、と承諾すると殿下は嬉しそうに礼を言い再び頭を下げた。
そして紫麻 から受け取ったぬいぐるみを、まるで確かめるようにひと撫でした殿下は不思議な力を使ってぬいぐるみの中から手のひらサイズのカードを取りだした…んだが、一体どのようにして入っていたのかわからない。
ぬいぐるみを彼女に返し、カードをこちら に差しだした殿下は言葉を続けた。
「これを、向こうで待つ冬埜 と穐寿 に渡してください。そして、どうか真那加 さん達の願いを叶えてあげてください」
どうやら殿下は、真那加 達の願いについて知っているようだ。
この後すぐ重鎮ともいえる者達が集まるというので、カードを受け取り出発する事となった。
屋敷を出る前、見送りに来た水無 が声をかけてきた――森で眠る女性に伝言がある、と。
決意の目をした彼の言葉に必ず伝えると頷き答え、俺達は出発した。
***
「今年は観光客の受け入れはやめているし、そう固くなる必要はないよ。《
そう
呆れた表情で
「
本来なら祭り期間に、
何か理由でもあるのだろうが、深くは訊ねない方がいいかもしれない。
「お前が
「気になってたんだけど、何で
彼女と同意見の俺は、ぬいぐるみから
自分の名前がでてきたからか、
「あー、それか。まさか、それに秘密があるとは誰も思わんだろう?
…確かにそうかもしれないが、そうじゃないだろうとも思える答えだ。
そもそも
「おやおや、あの日帰国するまで肌身離さず持っているよう言伝してきたと思ったら…そういう
この場にいない第三者の声に振り返ると、そこにいたのは青い杖をついた白髪の若い男だ。
彼の両目は閉じられたままなので、おそらく
「
殿下は彼女の傍に近づくと、優しく頭を撫でた。
「こんにちは、
そう言った殿下は
少しして俺の気配に、気づいた殿下に
俺の名を聞いて納得した殿下に、楽にするよう言われたので両膝をつき座り直す。
すると、少し周囲をうかがっていた殿下がその場に座ろうと屈みこんだ。
「待て、
声をかけたのは
「おや、貴方も良い子だと言われたかったのですか?」
「ははは、そうかもしれないな」
親しげなやり取りをするふたりは、気心知れた幼馴染のような関係なのだろうな。
祭りの打ち合わせ前に話を終わらせたい、という
残っていた
「本来ならば、もっと早くに謝罪すべきでした…一族の者を代表し、謝罪いたします。我々のミスにより貴方を巻き込んでしまい、本当に申し訳ありませんでした」
だが、俺としては巻き込まれたと思っていない――むしろ、こちらが彼らの計画を狂わせてしまったのだから。
こちらも謝罪をし、それから頭を上げた彼らに
どうやら
「そうですね、立ち入る事に問題ないでしょう。案内は
殿下の話を詳しく訊ねると、森の奥地のある場所にて力を貸してほしいのだという――そこはどうしても
俺にできる事なら、と承諾すると殿下は嬉しそうに礼を言い再び頭を下げた。
そして
ぬいぐるみを彼女に返し、カードを
「これを、向こうで待つ
どうやら殿下は、
この後すぐ重鎮ともいえる者達が集まるというので、カードを受け取り出発する事となった。
屋敷を出る前、見送りに来た
決意の目をした彼の言葉に必ず伝えると頷き答え、俺達は出発した。
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