12話:再会の旅人

翌朝、客室の扉をノックする音で目が覚めた。
久しぶりな柔らかなベッドで、もう少し寝ていたい欲に駆られてしまうが気力で起きる。

もう一度ノックする音が聞こえたので扉を開けると、訪問者は朝食を持ってきた古夜ふるやだった。

「おはよう。朝食を用意したんだが、今大丈夫か?」
「すまない、あまりに寝心地が良くてな…先ほど起きたところだ、おはよう」
「そうか。寝具をこだわってみたので、ゆっくり休めたようで安心した。食べ終えたら、この部屋に置いたままにしてくれ」

朝食をのせたトレーを受け取ると、彼は両手の塞がる俺の代わりに扉を閉め去った。
備え付けの机の上にトレーを置く――朝食前に歯を磨き、洗顔など身支度を整えた後に頂いた。
食べ終えた後は置いたままでいいと言われているので、食器をまとめて『ごちそうさま。美味しかった、ありがとう』とメモ書きも添える。

荷物は持っていくべきか、ここに置かせてもらうべきか悩んでいると丁度いいタイミングで扉をノックする音がした。
扉を開けると、訪問者は昨夜と違い私服姿の朔人さくひと紫麻しあさのふたりだ。

「よかった、まだいたね。僕らは、お前を迎えに来たんだ」

これから里長の屋敷へ行くので一緒にどうか、と誘いに来たらしい。
確かに、一言挨拶して墓参りした方がいいだろう…と考え、彼らに同行させてもらう事にした。

扉を開けたまま荷物を取りに戻ると、後ろから紫麻しあさが声をかける。

倉世くらせから預かっているもの・・だけで大丈夫だよ。他は置いたままでいいって、神代かじろが言ってた」

倉世あいつから預かっているもの・・、とは間違いなくぬいぐるみだな。
ただ、どうやってぬいぐるみを持ち運ぶかが一番の悩みどころだ――いや、待てよ。

鞄からだした白いクマのぬいぐるみを、紫麻しあさに差しだした。

「すまないが、代わりに持っていてくれないか?」
「ん?これ…十紀ときの作った、白いクマのぬいぐるみだ」

承諾した彼女はぬいぐるみを受け取ると、不思議そうにつぶやいている…どうやら、預かりものがぬいぐるみだと知らなかったようだ。
その後、俺は玄関に置かれているバケツから花束を取って三人で里長の屋敷へ向かった。

道中、三人で話をしていると千森ちもりの住民達とすれ違ったが…彼らは皆こちらをじろじろ見ては、こそこそと話しているようだ。
暗い色合いの衣服を着た、見知らぬ男がいれば――まぁ、警戒する気持ちもわかる。

「ほら、あの男…災いをもたらしにきたんじゃ」
「あれだ…また死人がでるやもしれん、くわばらくわばら」
「確かに、何人も殺めとりそうだ…」
「ただでさえ王家に睨まれているというのに、これ以上の厄介事はあたしゃ御免だよ」
「さっさとね、余所者が!やはり余所者が災いを呼ぶんだ、あの穢れ人と同じ…」

他にも色々と言っていたが、聞きとれたのはこのくらいか――随分な言われように、思わず引いてしまったがな。

一緒にいる朔人さくひとが視線だけを彼らに向けると、全員が気まずげな様子で解散していった。
朔人の傍にいる紫麻しあさは、住民のそんな様子を見てため息をつく。

「はぁ、ここの人達って本当学習しないよね」
「…彼らは、昔からこうなのか?」

俺の疑問に、彼女は肩をすくめて答える。

「そーかも。十紀とき穐寿あきひさも、千森ここに来た当初はこんな感じで困ったって言ってたもん」

余所者の医師だからと、住民達は虚言で病や怪我を偽り悪化した責任を押しつけてきたらしい。
なので、各家庭へ往診メインにして対策をしているそうだ。
前任の医師もひとりで対応し、体調を崩してしまったが休めず精神的に追い詰められていたのだという。

真那加まなかは『千森ちもり豊かで住民も親切』だと言っていたが、どうやら彼女は気づいていなかったのだろう――内なる悪意、というものに。
知らぬなら知らぬままの方がいい、彼女らは二度とこの地に足を踏み入れる事がないのだから。

そんなこんなで、あっという間に里長の屋敷だろう大きな建物の門前に着いた。
門構えからして立派な屋敷なのがよくわかり、思わず周囲を観察してしまった…が、朔人さくひとは気にせず門扉を押し開ける。
簡単に開いた門扉に、不用心だなと思ってしまった。

整えられた庭先を眺めながら屋敷の玄関前まで行くと、昨夜別れた理矩りくが俺達を出迎える。

「お待ちしておりました、どうぞ」

理矩の案内で屋敷内に入り、おそらく客間だろう広い部屋に通された。
室内には昨夜別れた十紀とき知治ともはるの他に、黒髪の男と金髪の男…そして、赤髪の少年がくつろいでいるようだ。

見知らぬ三名の紹介を、理矩りくにしてもらう――黒髪の男が理矩の主人である塑亜そあ、金髪の男が知治あいつの会いたがっていた瀬里十せりと
赤髪の少年が、昨年千森ちもりの里長となったばかりの水無みな
もっとも彼は千森ここではなく別の場所で育ったので、今は様々な事を学んでいる途中なのだそうだ。
確か一年前の記事に千森ちもり史上最年少の十七歳で里長になった、と書かれていたな。

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