12話:再会の旅人

しばらくして、古夜ふるや悠河はるかが温かな料理とコップなどの食器類をテーブルに並べていった。
俺の分もあるともてなしを受け、そのまま泊めてもらう事となった…というのも、千森ちもりには宿がないそうだ。
では数日間おこなわれる、という祭りで訪れる観光客はどうするのかを問えば神代かじろは肩をすくめた。

「昼間だけしか受け入れないんですよ、千森ここは」

話によると、千森ちもりは祭り期間だけ外の人間――つまり観光客を日中だけ集落に入れ、夕刻近くになると例外なく追い返しているそうだ。

「実際のところ、千森ちもりと今は滅びし実湖みこの民は〈咎人〉の一族。だから【迷いの想い出】が生みだす霧は命取りになるけど、外から訪れた観光客のほとんど・・・・にとっては無害でしかないんだ」

気怠げに朔人さくひとが言う――彼らはそれを知らないのだ、と。

観光客のほとんど・・・・
外から訪れているのなら、何も影響ないのではないだろうかと思うのだが…?

「時たまに、だけど〈咎人〉の血を引く者もいるんだよ…集落でなく他の街で伴侶を得て、戻らない者も少なくないからさ。そうなると、わかるだろう?」

俺の疑問に答えたのは朔人さくひとでなく、彼の隣にいる冬埜とうやだ。
つまり自分が〈咎人〉の血を引いていると知らず、この地に留まれば生命を落とす可能性があるのか訊ねると冬埜はひとつ頷く。

「それを避けようと【迷いの想い出】の影響が強い夜間は外出厳禁を徹底させたんだろうね、当時の里長は」

近くの窓へ視線を向ける冬埜とうやにつられ、俺もそちらを見る――外はいつの間にか濃い霧がでており、何も見えない。
これほどまでに濃い霧では、土地勘のあるなし関係なく危険だろう。

「まぁ、この濃さは祭りが近いせいもあるからね。確か…普段は半分くらいだったかな?」

窓の方から神代かじろに視線を向けた冬埜とうやは疑問を投げかけた。

「そうですね…明かりさえあれば歩けますから」

苦笑した神代かじろが、頷いて答える。

どちらにしても、今から花を供えには行けないだろう…住民のいない間に、と考えたのだが。

「花を供える?またどうして…」

夕食後の片付けの為、一時的に居間から離れていた古夜ふるやが戻ってきて早々首をかしげた。
もしかすると縁もゆかりもない俺が花を供えようとしているので驚いたのだろう、と修道女シスター見習いの学生・真那加まなかに頼まれた旨を説明する。

「あぁ、もしかして…何か所か花を供えたい、と書かれたメモあれですかね?」

顎に手をあてた神代かじろは言っているが、知治あいつは一体どんな連絡をしたのだろうか?

とりあえず持ってきた花束を水に活けてもらいたい事と、もう休みたい事をこの屋敷の主人である神代かじろに伝えた。
時刻は二十一時を回ったところだったので彼も納得したように頷き、古夜ふるやに部屋へ案内するよう指示をだす。

客室へ案内するという古夜ふるやと共に向かおうとした俺に、今まで静かだった紫麻しあさが声をかけてきた。

「んー…寝るの?おやすみなさい」

どうやら彼女は、うたた寝していたらしい…夕食後だしな、眠気もくるだろう。

「あぁ、おやすみ」

俺は彼女に声をかけ、古夜ふるやと共に居間を出た。
廊下を先導するように歩く彼は不意に足を止め、こちらに視線を向ける。

「そういえば、お風呂はどうされますか?一応、今から案内する客室にも付いてますが…」
「備え付けならば自分でやろう、ありがとう。後、俺に敬語は使わなくて大丈夫だ」

敬語を使われるような立派な人間ではない…だから、普段通りでお願いしたわけだ。
彼は少し考えるようにこちらを見ていたが、ひとつ頷いてから「わかった」と答えた――もしかしたら、真意を探っていたのかもしれない。

辿り着いた客室の扉を開ける古夜ふるやに礼を言い、俺は室内に入った。
部屋の感じは単身用ホテルの一室のような装いで、今夜もゆっくり休めそうだ…叩き起こされないだろうし。

扉前で待つ古夜ふるやに花束を預けると彼はひとつ頷いて花の状態を確認し「朝、玄関前に水に活けておく」と告げて去っていった。
ベッドの上に荷物を置き、ひと息ついた俺は部屋ここと廊下を繋ぐ扉から向かって左の扉を開ける。
そこは三点ユニットバスとなっていて、本当にホテルのようだと感心してしまった。

今日はあまり疲れていないが、浴槽に暖かい湯を張って身体を休めよう。
知治あいつも今頃ゆっくりしているだろう、と思っていたが説教されてそれどころでなかったらしい――後日、知治本人がそう言っていた。


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