12話:再会の旅人

眠ってしまった桜矢おうや悠河はるかが別室へ連れていき、少しして外出していた三人が戻ってきた。

「戻りました。あぁ、昨日連絡にあった客人の方ですね?すみません、おもてなしもせず…」

三人の内のひとり、銀髪の青年がそう言って頭を下げる。

「僕は神代かじろ十紀ときの弟です。今は、この屋敷を管理している者と考えていただいて構いません」
「えー、神代かじろ様。管理人になるんですかー?」

仰向けに寝転がる知治ともはるが、銀髪の青年・神代かじろに訊ねた。

「新任の里長と次代の司祭の教育が終わるまでは、これまでの地位のままでいますが…それを終えたら、数年は管理人の真似事をしてから去ろうかと」

顎に手をあて答えた神代かじろは、その視線を兄の十紀ときへ向ける――まるで、同意を得ようとしている感じだ。
頷いて立ち上がった十紀ときは、不安げな様子の神代の肩を軽くたたいた。

「まぁ、それまでは私と穐寿あきひさで医院にいよう。あぁ、そうだ…知治ともはる、これから里長の屋敷へ行くが一緒に来るか?」

眠そうな様子の知治ともはるに声をかけた十紀ときは、おそらく屋敷がある方向を視線で指す。

――確か、その屋敷の地下に前里長である哉瀬かなせがいるという話だったような?
もしかして、哉瀬かなせ知治ともはるの玩具にしようとか…いくら私怨があるからといっても、さすがにどうなんだろう。

「いや、さすがに憎いからとそんなマッチポンプはしない。瀬里十せりとがいるので、久しぶりに話でもどうかと思ってな」
「へぇー、瀬里十せりとさんが!行きます!」

十紀ときの言葉に悔い気味で返事した知治ともはるは、ハイテンションで飛び起きた。
まぁ、問題を起こさないのなら大丈夫か…と、保護者視点で考えてしまう。

嬉しそうな知治ともはるを連れて、理矩りく十紀ときは里長の屋敷へ向かった。
そして今この場に残っているのは俺と朔人さくひと紫麻しあさ神代かじろと名も知らぬふたりだけだ。
自己紹介がまだであると気づいたらしい、ふたりの内のひとり――青みのある黒髪の青年が一歩前に出て、頭を下げる。

「申し遅れました、私は古夜ふるや神代かじろ様に仕える者です」

簡単に自己紹介した古夜は、主人である神代かじろに食事の準備をすると告げて居間を出た。
という事は、残ったひとり――淡い青色の髪の青年が理矩りくの言っていた人物か?

「僕が冬埜とうやだよ」

そういえば七年前に朔人さくひとの運転する車に乗った時、知治ともはる朔人さくひとの会話で名前を聞いたな。
つまり、あの時見た謎の飛行艇に乗っていた人物のひとりか…よく見れば、冬埜零鳴れいめい国の軍服を着ていた。
朔人さくひとも上着を脱いでいたので気づかなかったが、同じ軍服を着ているようだ。

「あぁ、ここへ来てからゆっくりする時間もなくてね。少し準備があったからさ」

俺の視線に気づいた冬埜とうやが、肩をすくめて言う。
余程重要な何かなんだろう…祭りの前にやりたかったのだそうだが、さすがに千森ちもりの住民達が不審がらなかったのだろうか。

「それは大丈夫だよ、昼間は天宮あまみやも一緒だったからね。連中は王族、延いては大神官の機嫌を損ねるような態度はとらない」

どうやら、この国の第三王子殿下を盾にしたらしい…もう帰られたのだろうが、そういう扱いをしていいのかと思う。

「帰ったには帰ったけど、里長の屋敷に泊まると言ってたよ。十紀ときも知ってて、何も知らない知治ともはるを誘ったんだろうなぁ」

向こうに着いて驚いているだろう知治あいつを見られないのが、少しだけ残念だと思ってしまった。

それよりも天宮あまみや殿下といえば、俺が学生時代十二年くらい前に留学してきたな……
科が違ったので直接関わりはなかった、が倉世くらせはもしかすると会っているかもしれない。




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