12話:再会の旅人

昼食後、他に忘れ物がないか――もちろん、倉世くらせから託された白いクマのぬいぐるみが鞄に入っているかも確認した。
真那加まなかが用意すると言っていた花は、昼食の食器を下げに来た六実むつみが届けてくれたので受け取っている。
何処へ供えるかは言伝で教えてもらったが、詳しい場所は向こうにいる仲間に訊けばわかるそうだ。

出発は昼過ぎを予定しており、今は知治ともはると共に教会前で迎えの車を待っている。
俺の持つ、幾つかの花束を見た彼は驚いていた。

「わーお、すごい花束だなー。あ、場所は聞いてるか?」
「あぁ、言伝で教えてもらったが…詳しくは、向こうで訊ねるつもりだ」

なら大丈夫かー、と笑った知治は遠くの方を眺めている――おそらく、迎えの車を探しているのだろう。

しばらくして、一台の白い車が俺達の前で停まった。
運転席から降りてきたのは俺の見知っている、かつてめい国で秘密警察の副長を務めていた男だ。
風になびく濃い灰色の髪はそのままに、無表情なままこちらを見ている。

理矩りく様、お疲れ様でーす!向こうは相も変わらず、ですか?」
「まぁ、そうですね。知治ともはる、だからと言って闇討ちはしないように」

知治ともはるの言う『向こう』とは、おそらく千森ちもりの事だろう。
そんな彼の言葉に答えた理矩りくは何もしないよう釘を刺しているが、不満げな知治ともはるはつまらなそうに口を尖らせていた。

夕馬ゆうま隊長から連絡は受けていますので、どうぞお乗りください」

俺が何か発言する前に、理矩りくは車の後部座席を指している。
どうやら夕馬ゆうまから先に連絡がいっていたらしい、もしかすると秘祭の話をしたその日の内にしている可能性もあるな。

「きちんとぬいぐるみは持っているようですね」
「まぁ、七年前…真宮まみや氏から千森ちもりへ向かう際、持って向かうよう言われたので」

俺の持つ鞄の方へ視線を向ける理矩りくに答えたが、今のところどう役に立つのかまったく想像できない。

運転席側の後部座席に鞄と預かった花束を置いて、俺は助手席側の後部座席に座った。
知治ともはるは助手席に座り、シートベルトをしながら笑っている。

「それじゃー、理矩りく様お願いしまーす」
「わかりました。知治ともはると違って、安全運転でいきます」

そう言った理矩りくは運転席に座りながら、助手席知治ともはるを見た。
わかる、この数年共に傭兵業をしていて何度も味わったからな…知治あいつには、絶対に運転させてはいけない。

理矩りくの運転で千森ちもりへと続く、崖沿いの細い道を通っている…が、舗装されているとはいえ怖い道だ。
対向車が来たら、本当にギリギリなんじゃないだろうか。

「あんた、今絶対俺が運転しないで正解だって考えてるだろー」

おかしそうに笑っている知治ともはるの言葉に、当り前だろうと思う――車とバイクは地面を、船は水上を走る乗り物なんだ。

「またやったんですか、知治ともはる。いつも言われているでしょう、法則は無視するなと」

冷静な理矩りくの言葉に、知治こいつはいつもやっているのかと思わず遠い目になる。
とりあえず、今まで何をしでかしてきたのか絶対に聞きたくない。

しばらく道なりに進み、気づけば夕刻近くになっていた。
窓の外に目を向けると『千森ちもり』と彫られた石柱が建っており、その傍で車は停まる。
一体どうしたんだろうか、と理矩りくに訊ねてみた。

「すみません、完全に日が落ちるまで今しばらくここで待ちます。夕刻が過ぎれば、千森ここの住民達も家に籠りますので」

余所者を厭う住民達の目を欺く為、日没を待っての移動になるらしい。

一時間後、日は沈み周囲が夜の帳に包まれはじめると理矩りくは車のヘッドライトを点けて再び走りはじめる。
集落に到着すると、本当に人っ子ひとりいないのには驚いてしまった。

車は集落の中を走り、そこそこ大きな屋敷の敷地内で停まった――ところで、誰の屋敷なんだ?
首をかしげていると助手席から降りた知治ともはるが、背伸びしながら答える。

「やーっと着いた!あ、ここは《闇空の柩》の拠点のひとつにしている神代かじろ様の家」
「元々は哉瀬かなせが所有していた屋敷で、それを神代かじろ様がお借りしてるんです」

運転席から降りた理矩りくが、知治ともはるの説明を補足するように言った。
哉瀬かなせというのは、確か千森ちもりの前里長だったか…新聞に載っていた情報では。

「あのじいさん、今じゃ本邸地下に入れられてんでしょー?十紀とき様、かーなり怒ってたもん」
「自ら辞めたんだろう?なのに何故だ?」

鞄と花束を持ち、後部座席から降りた俺は知治ともはるの言葉に首をかしげた。
苦笑した知治ともはるは、頭の後ろで手を組む。

「いや~だって、怒るっしょ?肉親を虐待まがいの扱いされたらさー」
「なるほど…目には目を、という事か」

おそらく相当な事を裏でやっていたのだろう、と彼の説明でわかった。
なら、自ら辞めたのではなく辞めさせたのが正解なのだろう…確か孫娘がいたそうだが、もしかすると彼女らに対しても何かしていたのだろうな。

――哉瀬かなせは残りの人生を地下で過ごし、その罪を償っていくのかもしれない。


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