12話:再会の旅人

俺が千森ちもりへ向かうと知った真那加まなかは、申し訳なさげにひとつ頼み事があるのだと言う。

「私は千森ちもり…いえ、実湖みこへ行けないんです。まだ私を怨んでいる化身がいるらしくて」

聞けば彼女は千森ちもりの隣の集落である実湖みこの出身で、そこは一度目の惨劇の裏で滅んでしまったそうだ。
そこを含めた数か所に花を供えたいのだと、彼女は言葉を続けた。

「私と同じく教会ここでお世話になっているふたりがいて、六実むつみさんに落ち着くまで足を踏み入れないよう言われてるんです」

真那加まなかの言う、ふたりの内ひとりは彼女も通う学校で遅くまで勉強しているそうだ。
もうひとりは隣街にある教会へお使いに行っており、あと一週間ほどは戻れないらしい。

彼女ら三人は、きっと自分と同じで失った人達に花を手向けたいと願っているのだろう。
俺も、あいつが死んだ場所に近づく事はできない――だから、痛いほど気持ちがわかってしまった。
なので頷いて了承すると、彼女は「ありがとうございます」と深く頭を下げたのだった。

出発までに花束は用意します、と言った彼女と別れた俺は宿泊させてもらった部屋へと戻る。
さすがに六実むつみの説教も終わり、知治ともはるは解放されているだろうと思ったからだ。

部屋に入ると、ベッドの上で知治ともはるが大の字で仰向けに倒れていた…多分、説教で疲れたんだろう。
俺が戻ってきた事に気づいた彼は、笑いながらこちらに手を振る。

「おー、おっかえりー」
「…随分こってり絞られたようだな、知治ともはる

声にいつもの元気さがない知治ともはるに呆れつつも、もう一度一年前の新聞を手に取った。

「何々?やっぱ気になったー?」

それに気づいた彼は起き上がると、俺の持つ新聞に目を向ける。
なので先ほど会った真那加まなかの話をすると、彼は珍しく真面目な表情をした。

「あー、実湖みこの生き残りのかー。知ってる知ってる、咎人の子孫だしな…」
「そういえば彼女、元々は従姉が【古代兵器オーパーツ】を制御するはずだったと言っていたな」
「そ。あのの従姉が最初の引き金で、一度目の事件が起こったわけ…で、二度目はその延長で起こった。彼女の従姉は越えてはならないラインを軽々越えて自滅、で代わりに巻き込まれたがその友人」

巻き込まれ犠牲となった友人を、彼女はどんな気持ちで見ていたのだろうか……

「…彼女と一緒に、ここで世話になっているという者達も?」
「あー、ひとりが千森ちもりの前里長の孫娘。もうひとりがりん王家の血を引くだって、六実むつみが言ってたわー」

三人共、千森ちもりの住民達から逆恨みされているのだと言った知治ともはるは頭の後ろで手を組んでベッドにもう一度倒れ込んだ。

「なーんか、二度の惨事の原因と責任はあの三人にある…と考えてるらしい。十紀とき様から軽ーく聞いたんだけどさ」


真那加まなかのせいで実湖みこは滅び、一度目の事件が起こった――なのに、彼女だけ生き残っている穢れ者。
前里長の孫娘は実姉を死なせ、挙句の果てに集落を守る切り札といえる贄の娘まで失う事件を引き起こして逃げた。
王族の血を引く娘は次期里長となる者と共に千森ちもりを守っていく使命があったというのに、すべてを投げだして修道女シスターとなり自分達を見捨てた罪人。


もう実湖みこの咎人は真那加まなかだけになったのだから、残った千森ちもりの咎人達で【迷いの想い出あれ】を管理する事になるのにと知治ともはるは呟いた。
だがきっと、千森の住民達彼らは自分達こそが被害者だと言い続けるだろう。
あぁ、だから彼女達に近づかないよう伝えたんだろう――安全の為に。

「…そんな所でおこなわれる秘祭、か。大丈夫なのか?」

心配になっていると、知治ともはるが笑いながら答える。

「大丈夫だーって!《闇空の柩》プロデュースだからさ、安全第一の警備よ」
「お前が言うと、本当に大丈夫なのか疑わしいな。しかし《闇空の柩》が介入するなら大丈夫か…あぁ、知治ともはるひとつ頼めるか?」

新聞を机の上に投げ置いた俺は、知治ともはる真那加まなかに頼まれた件について話した。
驚いた様子で目を見開いた知治ともはるはゆっくりと首を縦に動かす。

「あー、なーるほど。そーいや人間ひとって、墓に花を手向けて死者を偲ぶんだっけ…失念してたわー」

飛び起きた知治ともはるは「わかった、向こうに伝えとく」と言って部屋を出ていった。
まぁ〈狭間の者〉は〈神の血族古代種〉と共に生活しているからか、たまに人間ひとの生活について知らなかったり忘れていたりする。
今回も考え方というか、生活様式の違いで驚いたんだろう…彼らは死すると、世界を支える存在に生まれ変わると言っていた。


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