12話:再会の旅人
「大丈夫ですか?」
背後から声をかけられ振り返ると、オレンジ色を基調とした制服姿の少女が箒を片手に立っていた。
多分、彼女が裏口の扉を開けたら俺が立ち塞がっていたのだろうな。
「あぁ、すまない。少しぼうとしていた…」
くわえていた煙草を急いで携帯灰皿に突っ込んでもう一度謝罪すると、彼女は首を横にふる。
「いえ、私の方こそ突然声をかけてしまってごめんなさい。あ、私はここでお世話になっている真那加 です」
「俺は七弥 。昨夜、こちらに泊めさせてもらった者だ」
彼女――真那加 は安心したように微笑むと、裏口周辺の掃除をはじめた。
邪魔にならないよう少し離れた位置へ移動し、空を見上げながら彼女に声をかける。
「知り合いから聞いたんだが、千森 に亡くなった者に会える祭りがあるそうだな?」
「…はい、確かにそう言われる祭りはありますね」
動かしていた手を止めた彼女は、箒の柄を握る手に力を込めているように見えた。
何か辛い記憶を思いださせてしまったかと、これ以上訊ねず立ち去ろうとした俺にこちらを向いた彼女は言葉を続ける。
「でも死者本人に、本当に会えるわけじゃないんです。死者の姿や記憶とかすべてを写し取った霧が、本人のように振る舞う事があって――」
「霧が…?いや、まさか」
彼女の言葉に疑問を持ったが、【古代兵器 】なら可能かもしれない。
「はい。多分、貴方が考えているとおりのものです…遠い昔に私の祖先によって造られた、哀しい存在だと私は思っています」
人の心はとても弱いから、と彼女は言った。
例え自己満足だと思われようとも、会えるのならどんな手段だろうと使うかもしれない――時間は巻き戻らないのだから。
おそらく彼女の祖先達は、そう考えて兵器として完成させたのかもしれない。
「…もう一度会えるのなら、どんな形でもという事か。その気持ち、わからないでもないが」
「今、それを制御しているのが私の友達で…でも本当は私の従姉が務めるはずだったのだけど、色々あって」
あぁ、そうか…彼女は一年前の、千森 であった事件に巻き込まれた被害者のひとりだったのか。
千森 の秘祭に詳しいのも、出身者だから知っているのだろう。
「大切な者を失ってしまったけど、それも含めて忘れてはいけない記憶だと私は考えています」
「そう、だな…」
澄んだ蒼い空を見上げて、彼女の言葉に同意する。
だが、俺はまだ後悔の中にいる…そう考えられる余裕はなかった。
「その…私、今は学生をしながら修道女 見習いをしていまして――それで、もし気持ちがまとまっていないのでしたらお話を聞きます」
彼女が心配げに声をかけてきたのは、おそらく後悔の念が表情にでていたからだろう。
確かに、誰かに聞いてもらえれば胸のつかえが下りるかもしれない。
手に持ったままだった携帯灰皿を上着のポケットに入れ、真那加 の方を振り返るとぽつりぽつりと語っていた。
「七年前、俺は幼い頃からの友人を死なせてしまった。危険なものに手をだした、という情報を俺が鵜呑みにしたせいで…あいつだけじゃない。多くの人間を破滅に導いてしまった」
この七年間、ずっと考えていた…もし上から命じられるまま動かなければ、あんな事にならなかったかもしれない。
あの時、倉世 の話を聞いていれば被害を最小限に抑えられたのではないかと。
「私も、ほんの些細な行動で故郷を破滅させてしまった過去があります。あの時、もし違った選択をしていれば助けられたかもしれないって――罪を背負った事で、心を苛んでしまうんです」
彼女は真っ直ぐにこちらを見ると、悲しげな笑みを浮かべた。
「過去に目を向けたままでは、何時までも前に進めない。でも、だからって過去を蔑ろにするわけじゃない…同じ過ちを繰り返さないよう、失った人達の分も生きていく事が残された者の使命だと思います」
――同じ過ちを繰り返さないように、か。
そうする事で倉世 達が成そうとしていたものを形にできるのなら、これ以上の被害がでないよう連中を止めるのが俺の使命だ。
話を聞いてくれた礼を言うと、彼女は微笑み頷いた。
***
背後から声をかけられ振り返ると、オレンジ色を基調とした制服姿の少女が箒を片手に立っていた。
多分、彼女が裏口の扉を開けたら俺が立ち塞がっていたのだろうな。
「あぁ、すまない。少しぼうとしていた…」
くわえていた煙草を急いで携帯灰皿に突っ込んでもう一度謝罪すると、彼女は首を横にふる。
「いえ、私の方こそ突然声をかけてしまってごめんなさい。あ、私はここでお世話になっている
「俺は
彼女――
邪魔にならないよう少し離れた位置へ移動し、空を見上げながら彼女に声をかける。
「知り合いから聞いたんだが、
「…はい、確かにそう言われる祭りはありますね」
動かしていた手を止めた彼女は、箒の柄を握る手に力を込めているように見えた。
何か辛い記憶を思いださせてしまったかと、これ以上訊ねず立ち去ろうとした俺にこちらを向いた彼女は言葉を続ける。
「でも死者本人に、本当に会えるわけじゃないんです。死者の姿や記憶とかすべてを写し取った霧が、本人のように振る舞う事があって――」
「霧が…?いや、まさか」
彼女の言葉に疑問を持ったが、【
「はい。多分、貴方が考えているとおりのものです…遠い昔に私の祖先によって造られた、哀しい存在だと私は思っています」
人の心はとても弱いから、と彼女は言った。
例え自己満足だと思われようとも、会えるのならどんな手段だろうと使うかもしれない――時間は巻き戻らないのだから。
おそらく彼女の祖先達は、そう考えて兵器として完成させたのかもしれない。
「…もう一度会えるのなら、どんな形でもという事か。その気持ち、わからないでもないが」
「今、それを制御しているのが私の友達で…でも本当は私の従姉が務めるはずだったのだけど、色々あって」
あぁ、そうか…彼女は一年前の、
「大切な者を失ってしまったけど、それも含めて忘れてはいけない記憶だと私は考えています」
「そう、だな…」
澄んだ蒼い空を見上げて、彼女の言葉に同意する。
だが、俺はまだ後悔の中にいる…そう考えられる余裕はなかった。
「その…私、今は学生をしながら
彼女が心配げに声をかけてきたのは、おそらく後悔の念が表情にでていたからだろう。
確かに、誰かに聞いてもらえれば胸のつかえが下りるかもしれない。
手に持ったままだった携帯灰皿を上着のポケットに入れ、
「七年前、俺は幼い頃からの友人を死なせてしまった。危険なものに手をだした、という情報を俺が鵜呑みにしたせいで…あいつだけじゃない。多くの人間を破滅に導いてしまった」
この七年間、ずっと考えていた…もし上から命じられるまま動かなければ、あんな事にならなかったかもしれない。
あの時、
「私も、ほんの些細な行動で故郷を破滅させてしまった過去があります。あの時、もし違った選択をしていれば助けられたかもしれないって――罪を背負った事で、心を苛んでしまうんです」
彼女は真っ直ぐにこちらを見ると、悲しげな笑みを浮かべた。
「過去に目を向けたままでは、何時までも前に進めない。でも、だからって過去を蔑ろにするわけじゃない…同じ過ちを繰り返さないよう、失った人達の分も生きていく事が残された者の使命だと思います」
――同じ過ちを繰り返さないように、か。
そうする事で
話を聞いてくれた礼を言うと、彼女は微笑み頷いた。
***