11話:いくべき未来

「先生、会わせてくださりありがとうございます。その、熾杜しずは…」
「…嫌ならやめておいた方がいいぞ?」

水城みずきさんに白い布を再びかけた先生が心配そうに言う、無理に会わなくてもいいのだと。
無理はしていない、と言えないけどこのまま会わないまま終わるのはいけない――そう、十紀とき先生に告げる。

「わかった…こっちが熾杜しずだ」

右側のベッドの白い布をめくると、胸元にナイフの刺さった血の跡が残った熾杜しずの顔が現れた。
…その表情は【迷いの想い出】の装置の中で見たものと同じ、とても穏やかな寝顔のままだ。

私はそっと近づき、いけない事だとわかっていたけど気持ちを抑えられず彼女の頬を叩いてしまった。
十紀とき先生や神代かじろさんは一瞬止めようと考えたのか手を伸ばしかけたけど、すぐに思い留まったらしく手を下ろしてしまう。
止められないのをいい事に、もう一度私は熾杜しずの逆の頬を叩いて胸ぐらを掴んだ。

「なんで…最期に、あんな事をしたの?あなただって、あんな結末を迎えたかったわけじゃないでしょう…」

あの時現れた無数の熾杜しずは、決して桜矢おうやさんを傷つけようとしなかった。
――その代わりとでもいうのか、悠河はるかさんへの攻撃は激しかった気がするけど。

多分、桜矢おうやさんの最期が近いのを察して看取りたかったのかもしれない。
だから邪魔者である私達を排除したかったのだろうな、と今なら思い至れる。

「…真那加まなかさん」

いつまでも熾杜しずの胸ぐらを掴んだまま動かない私の手を十紀とき先生が解いて、再び白い布を熾杜しずにかけ直した。
心配した神代かじろさんもすぐ傍に来たらしく、私の肩に手を添えて小さく頷いている。

「…部屋に戻りましょうか。そろそろ八守やかみが、理哉りやを連れて戻ってきますから」

化身となった千代ゆきのさんを追った理哉りやさんは、八守やかみさんに匿われていたのだという。
事も収まったので、八守やかみさんが責任を持って迎えに行っているのだと神代かじろさんに教えてもらった。

私が病室に戻ってしばらく後に、無事に医院へ戻ってきた理哉りやさんが私に会いにやって来た。
その頃には、天宮あまみや様は別の部屋に移動していたので部屋には私ひとりだ。

ふたりで今までに何があったのかを語り合い、共に大切なものを失くした事を一緒に泣いた。

その後、しばらくして来客があった――黒い髪の青年と濃い灰色の髪で無表情な青年や金髪の青年、それと水城みずきさんの面影を持つ少年の四人だ。
理哉りやさん曰く、お姉さんがたまたま見かけた濃い灰色の髪で無表情な青年に恋していたのだという。
お姉さんも、私と同じく〈神の血族古代種〉の方に恋した同士だったみたい…もし生きていたら、彼女とも仲良くなれたかもしれない。

自己紹介で黒い髪の青年が塑亜そあさん、濃い灰色の髪で無表情な青年が理矩りくさん、金髪の青年が瀬里十せりとさんだと教えてもらった。
水城みずきさんに似た少年は水無みなという名前で、水城みずきさんの甥っ子さんなのだという…でも、どうしてこの集落に?
私と理哉りやさんが疑問に思っていると、塑亜そあさんが答えてくれた。

水無みなは、ここ千森ちもりの管理者となる為に来た…おそらくだが、理哉りやと言ったか?ここの長を継ぐ気はないのだろう?」

祖父である哉瀬かなせさんは、長として不適格だと地位を下ろされたらしい。
すでに希琉きるさんも辞退していると、彼は言葉を続けた。

理哉りやさんは困った表情を浮かべて、ぽつりぽつりと語りはじめる。

「…私達、学校へ行きたいとずっと思ってた。でも、だからと水城みずきの甥っ子さんに丸投げして逃げだすのは」
「逃げだすんじゃないだろ?あんた、学校へ行きたいならそう言えばいいだろう…俺は自分で望んでここに来る事を選んだんだ。叔母がここで生きていたという話も知っているし、どうして死んだのかも知っている。だから押しつけるなんて思わなくていい。ま、そもそも俺は学校を卒業してるけどな!」

ぶっきらぼうな様子で言っているけど、理哉りやさんの望むようにすればいいと背中を押しているようだ。
…最後の部分は彼女に、心配しなくても自分は学業を終えていると告げているだけだよね?

困惑している私達に、水無みなさんは腕を組んで胸を張っている。
そんな彼の頭を、瀬里十せりとさんが笑いながら叩いた。

「こら、そんな意地の悪い事を…後で説教だ。ごめんね、本当にこいつは考えが足りないから…後で説教しておくよ」
「い、いえ…そうですか」

理哉りやさんは引いた様子で頷き答えていたけど、多分すぐに仲良くはなれないかもしれないと思う。
もしかしたら思春期、っていうやつなのかな?


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