11話:いくべき未来

ふと目を覚まし、気がつくと真っ白な天井が見えた。
この白い天井…ここは見覚えのある、千森ちもり医院の天井だと思う。

あの時、何が起こったのか…私は、今も信じられず夢現のようだ。
ベッドに横たわったまま、ぼんやりと天井を見つめ…何かを求めるように手を伸ばしてみる。
何も掴めずにいるその手を、横から伸びた手がそっと握り返す。

そちらへ顔を向けると、そこにいたのは私のよく知っている――神代かじろさんが、ベッドの傍にある椅子に腰かけていた。

「すみません…半狂乱になった貴女を、悠河はるかが手刀で落としまして医院ここまで連れ帰りました」
「私の方こそ、取り乱してごめんなさい。あの、それで…」

私は聞きたかった、桜矢おうやさんや熾杜しずの躯は今何処に安置されているのかを。

神代かじろさんは困ったように眉を下げると、反対隣のベッドへ目を向ける。
何だろう?とそちらへ目を向けると、隣にあるベッドの上で上半身を起こした天宮あまみや様が白いクマのぬいぐるみを撫でていた。
――多分、そのクマのぬいぐるみは十紀とき先生の持ち物なんだろうな。

私達の視線に気づいたらしい天宮あまみや様は、白いクマのぬいぐるみを自分の枕元に置く。

熾杜しずという娘の躯は水城みずきの躯と共に、この医院の地下にある霊安室に安置してあります。桜矢おうやは――」

そこで不意に言葉を切ると、天宮あまみや様は天井の方へ顔を向けて続ける。

「我々は未だ死する事を赦されない身…故に、今回の彼の躯は地に還りました」

私達人間ひとと違い、世界に呪われた〈神の血族古代種〉は本当の意味での終わりが訪れない…だから、旧暦時代の末期に救いのすべ天宮あまみや様が用意したのだという。
今の身体が事故などで生命を失っても、新たに生まれ直せる奇跡とも呼べる術を〈神の血族古代種〉の者すべてに適応しているのだという。
……ただし、何時いつ戻ってくるのかまでは読めないらしい。

私と桜矢おうやさんが再会する未来は訪れないに等しいのだと、天宮あまみや様が説明してくれた。

――わかっていた事だけど、桜矢おうやさんともう二度と会えない。
枯れてしまったかと思っていた涙が零れ、未だこの気持ちの整理ができていないのだと実感した。

少しの間泣いた私は、神代かじろさんの案内で医院地下の霊安室へ向かった。
水城みずきさんに最期の別れを…熾杜しずには何と声をかければいいのかわからないけど、最後に会った方がいいだろうと思ったから。




霊安室に着くと、部屋の中にはふたつのベッドが並べられ傍らには人影が立っている。
よく見るとベッドには白い布をかけられたふたりの躯と、それを見守るように立っている十紀とき先生の姿だ。
こちらに気づいた先生は、私達に声をかけてくれた。

真那加まなかさん、体調はもう大丈夫か?」
「はい、ご迷惑をおかけしました」

頭を下げた私に、十紀とき先生は首を横にふった。

「いや、気にしなくてもいい。桜矢おうやの事、助けられず申し訳なかった…」

先生のせいじゃないのに、申し訳なさそうに頭を下げる。
天宮あまみや様から〈神の血族古代種〉にとっての救いの話を聞いていたので、私は慌てて否定するように首を横にふった。

「私こそ守られてばかりで力になれず、すみませんでした。でも私は、桜矢おうやさんを好きになった気持ちだけは忘れず大切にしたいです…」

私の一族が犯した罪によって、結果的に桜矢おうやさんの生命を奪ってしまったのだ…また〈神の血族古代種〉に苦しみを与えてしまったかもしれない。
そう思うと、私の方こそ先生達に謝罪しなければいけない気がした。

「そんな事はない、私達の事は気にしなくていい。それより、水城みずき達に会いに来てくれたのか?」

悲しげに微笑んだ十紀とき先生は、横たわる白い布の掛けられたふたつのベッドを視線で指して言う。
私が頷いて答えると、左側のベッドの白い布を半分めくった。

水城みずきはここだ…葬儀を終えたら【迷いの想い出】の、あの装置の中に安置する。ゆっくり会えるのは今日くらいだろう…」
「ありがとうございます。水城みずきさん、ありがとう…あなたのおかげで私達は助かったの、本当にありがとう…友達になってくれて」

実湖みこの一族が引き起こした悲劇に巻き込んでしまって、本当にごめんなさい。
とても短い間だったけど、私にとってかけがえのない大切な友達――もう会えないけど、貴女と過ごした日々を忘れたりしないよ。

『――大丈夫、見守っているよ』

目を閉じて祈りを捧げていた私の耳に、微かにだけど水城みずきさんの声が聞こえた気がした。
もしかしたら【迷いの想い出】の力を借りて届いた声かもしれないし、自分がそう思いたいだけの幻聴かもしれない。
これだけは、さすがに十紀とき先生や神代かじろさんに確かめるような真似はできなかった。
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