11話:いくべき未来
私が彼女の眠るケースを開けると、突然何処からか突風が吹いた。
『…勝手な事を、言わないで…あんたも、道連れにしてやる…御使い様が残してくれた力を使って、あんたを殺してやる…』
とても暗く低い少女の声…だけど、これは間違いなく熾杜 の声であるとすぐにわかった。
あの時、装置の切り替えで消えたはずの彼女の声が何故するのだろう…?
何処からあの子の声が聞こえるのか、姿が見えないからわからないけど…でも、こちらに危害を加える気であるのだけはわかる。
この【迷いの想い出】の化身として残った最期の欠片、とでもいうのかもしれない。
姿を見せず明確な殺意を私に向けている熾杜 に、恐怖のせいか悪寒が走った。
何処からか、もう一度突風が吹くと私達の周囲に無数の無表情な熾杜 の姿が包み込むように現れた…まるで、絶対に逃がさないとでも言うように。
どれが本物の熾杜 なのか、私にはわからない――悠河 さん達も判断がつかないのか、すべてに警戒している様子だった。
もしかしたら、ここに存在している無数の熾杜 すべてが本人なのかもしれない。
私も鉄パイプを片手に警戒しているけど、これらがどのように動くのかわからないから対応も考えられないでいる。
でも、こちらから動くのは危険すぎるのだけ理解できた。
神代 さんが装置を【迷いの想い出】を操作しているようだけど、無数の熾杜 を消す事も数を減らす事もできないようだ。
つまり【迷いの想い出】の暴走ではないから、中枢機能である水城 さんはあの子を止められない。
不意に半数の熾杜 が爪を伸ばして、私達に攻撃を仕掛けてきた。
私達は手に持つ武器で応戦するけど、動かないもう半数への警戒も怠れなくて戦いに集中できない。
私から見て戦いに慣れている悠河 さんや古夜 さん、八守 さんは天宮 様や禰々 さん達を護るだけで手一杯みたい。
逆に戦い慣れていない私はかすり傷を負いながらだけど、彼らの傍に合流できずこの場にとどまるしかない状態だ。
「…真那 ちゃん、危ない!」
数人の熾杜 の猛攻を受けて、一瞬背後に隙ができていた私を護るように桜矢 さんがその身を盾にした。
私を庇う彼の身体に、動かなった半数の熾杜 の伸ばした爪が突き刺さる。
無数の熾杜 のあげる金切り声が響き渡り、彼女達は塵となってすべて消えてしまった。
視界の端で神代 さんの持っていたナイフで、永久の眠りにつく熾杜 の胸部を天宮 様が刺している。
――多分、ナイフの刃には天宮 様の血が付いていたのだろう。
支えとなっていた熾杜 の爪が消えた事で、桜矢 さんの身体は力を失くし床に崩れ落ちそうになったところをなんとか抱きとめたけど…彼の身体はすでに冷たくなりはじめていた。
「ど、どうして…」
「よかった、無事で…ごめんね、真那 ちゃん。これ以上、君を傷つけたくなかったのに…」
掠れた声で言った桜矢 さんは、私の無事に安堵して笑う。
――あの時と同じだ…また私を守ろうと、彼が傷ついてしまった。
「そん…事ない、よ…どうか、僕のお願いを……きみ、には…笑って、いて…ほしい、んだ」
最期の時まで、君の笑顔が見たいんだと微笑みながら彼は言う。
止まらない涙が邪魔で、上手く笑えているかわからない。
でも、私の笑顔を見た彼が安心したように笑って――そして、彼の身体からすべての力が抜けてしまった。
「…桜矢 、さん?」
身体をゆすりながら声をかけてみても、もう彼の声は聞こえてこない。
涙があふれて止まらない、彼が好きだと言った笑顔を見せてあげられない……
目の前が真っ暗になるような、急に大きな落とし穴が空いたかのような…そんな感覚がして、自分でも気持ちがぐちゃぐちゃになったみたい。
冷たくなっていく彼の身体を抱きしめて、私は泣き叫ぶしかできなかった。
***
『…勝手な事を、言わないで…あんたも、道連れにしてやる…御使い様が残してくれた力を使って、あんたを殺してやる…』
とても暗く低い少女の声…だけど、これは間違いなく
あの時、装置の切り替えで消えたはずの彼女の声が何故するのだろう…?
何処からあの子の声が聞こえるのか、姿が見えないからわからないけど…でも、こちらに危害を加える気であるのだけはわかる。
この【迷いの想い出】の化身として残った最期の欠片、とでもいうのかもしれない。
姿を見せず明確な殺意を私に向けている
何処からか、もう一度突風が吹くと私達の周囲に無数の無表情な
どれが本物の
もしかしたら、ここに存在している無数の
私も鉄パイプを片手に警戒しているけど、これらがどのように動くのかわからないから対応も考えられないでいる。
でも、こちらから動くのは危険すぎるのだけ理解できた。
つまり【迷いの想い出】の暴走ではないから、中枢機能である
不意に半数の
私達は手に持つ武器で応戦するけど、動かないもう半数への警戒も怠れなくて戦いに集中できない。
私から見て戦いに慣れている
逆に戦い慣れていない私はかすり傷を負いながらだけど、彼らの傍に合流できずこの場にとどまるしかない状態だ。
「…
数人の
私を庇う彼の身体に、動かなった半数の
無数の
視界の端で
――多分、ナイフの刃には
支えとなっていた
「ど、どうして…」
「よかった、無事で…ごめんね、
掠れた声で言った
――あの時と同じだ…また私を守ろうと、彼が傷ついてしまった。
「そん…事ない、よ…どうか、僕のお願いを……きみ、には…笑って、いて…ほしい、んだ」
最期の時まで、君の笑顔が見たいんだと微笑みながら彼は言う。
止まらない涙が邪魔で、上手く笑えているかわからない。
でも、私の笑顔を見た彼が安心したように笑って――そして、彼の身体からすべての力が抜けてしまった。
「…
身体をゆすりながら声をかけてみても、もう彼の声は聞こえてこない。
涙があふれて止まらない、彼が好きだと言った笑顔を見せてあげられない……
目の前が真っ暗になるような、急に大きな落とし穴が空いたかのような…そんな感覚がして、自分でも気持ちがぐちゃぐちゃになったみたい。
冷たくなっていく彼の身体を抱きしめて、私は泣き叫ぶしかできなかった。
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